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副業は商売感覚を育てる

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

■会社から与えられた仕事だけでは成長しない

 いま多くの人が会社の仕事だけを通じた知識、スキル取得には限界があり、また、会社の仕事ばかりをしていては世の中についていけなくなるという危機感を持っていると思います。なぜならビジネスそのもののデジタル化の本格的普及とともに仕事で必要とされる知識、情報は爆発的に増え、また多様化しているにもかかわらず、会社の仕事の中では学ぶことが極めて限られているからです。このままだと社内失業はもちろん、本当の失業さえないとは言えないと不安に思う人は少なくありません。
 同時にスマートフォンやクラウドなどのICTが生活の隅々まで入ってきて、私たちの仕事、生活の生産性が驚くほど高くなってきています。さらに最近の働き方改革で、朝と夜の時間の余裕が大幅に増えました。本業以外で、プロ意識を持つことができ、その能力発揮の象徴としてのお金が稼げるような専門性、独自性を身につけたいと思うのは健全だと思います。

■副業は商売感覚を身につける手っ取り早い方法

 そこで注目されているのが副業です。副業には実に様々なものがあります。レストランやコンビニなどでのバイトのような時間をつかった肉体作業みたいなものから、ネットのアフィリエート、不動産、株式投資などの金融、各種インストラクター、コンサルティングや市場調査のような知識、スキルを売るものまで何でもあるといってよいと思います。副業による収入も月1万、2万のお小遣い程度から、数十万、数百万で本業の月収よりも多いケースもあります。
 ロート製薬、JT、サイボーズ、ソフトバンクなどでは副業を認め、それを本業の活性化に活かす会社も増えてきました。大学の授業で学生に副業を認めている会社の印象を聴いてみると、「組織のオープンさや個人の自由を認めてくれそうだ」といった魅力を感じるようです。副業は人材を獲得できるインセンティブにもなりつつあります。
 私は今、この副業を企業の活性化そして新規事業開発に利用できないかを考えています。確かにいろんな心配やリスクはあります。本業がおろそかになる、不正が発生する、不公平になる、離職が増えるなど。しかし部分的、実験的にでもやってみることを勧めます。その理由は、ビジネスで最も大切な商売感覚を身につける一番早い方法だからです。

■やらされ感の新規事業では失敗するのは見えている。副業でセンスを磨く

 前回のコラムでも書きましたが、多くの企業の新規事業開発は、正直言って成功にほど遠いと思います。判断する役員も企画するスタッフもそれぞれの企業、業界、分野ではプロで能力も高いのですが、商売、つまり売れる売れない、儲かるといった「商売感覚」が乏しいからです。学歴、頭の良さ、いわゆる優秀さと、商売が出来ることは違います。いま多くの会社が目指している“脱本業”で求められているのは、商売感覚です。商売感覚を磨く一番の近道は何か?MBAを取得することや、ビジネスのオンラインサロンに出席することもいいのですが、やはり一番は自分のお金で商売をしてみることです。しかし多くの人はいまの生活、そして会社もあります、極端なことは出来ません。そこで副業が効果があると思うのです。

■副業は会社にとっても個人にとっても効果が高い

 ある上場企業の幹部研修で、研修に参加する部長さんと副業の話になりました。部長さんは将来をほぼ保証されているエリートですが、副業の話となると熱がこもります。「自分の得意なものは●●で、副業解禁ならばそれをやってみたい。そのスキルは将来子会社に出向しても役立つし、中小企業に転職してもよい・・・・」私の研修中も含め、仕事の中で部長さんが最も輝いた瞬間でした。この輝きの正体はいったい何か?私も考えてみました。

輝きの理由1:自分の好なこと、得意なことに取り組み、実力を思う存分発揮したい
輝きの理由2:実力の象徴として幾ばくかお金をもらいたい
輝きの理由3:将来の夢を自分起点で語れる。自分で決め自分で責任がとれる
輝きの理由4:少しリスクはあるが、成功・失敗が明確でゲーム感覚が刺激的でよい
輝きの理由5:本業はマンネリ化している。自分の好きなことに挑戦して、自分を成長させたい

なるほど、やる気が出るはずですね。

もしこの部長さんが副業に取り組めば、常に時間の使い方に目を向け無駄を見つける感が働くようになります。お客さん、パートナー探しのために仕事以外の人脈をつくるように活発に活動します。会社の同僚、上司、部下ももしかしたら大事なお客様になるのではと、人間関係にも気を遣います。副業に関することをあれこれ試します。小さな試行錯誤を繰り返し、成功するまで粘り強く取り組みます。無駄な支出を減らし、常に少ないコストで最大の効果をあげることを考えます。良い意味でケチになります。

いまここに上げたことは、すべて普段の会社の仕事でやるべきことです。また私も研修で言っている当たり前ことです。しかし実際会社の仕事では中々実行されません。しかし、副業だとやれます。つまり副業だと会社の上司もコンサルタントも研修講師もいりません。すべてが自発的で自己責任です。

■新事業にとりくむには強いモチベージョンが必須。そこに“複業“をやる意味がある。

 いま大企業のライバルは、既存の業界の外の、ネットをベースにしたベンチャーであることが多くなってきました。ベンチャーのモチベーションとは、自分の強い領域で、誰もやったこのないことを先駆けて達成できた、その結果お金が儲かる、そのお金でさらに別の投資や仕事ができるなどの高度な自己実現です。強い個人的な動機がなければなりません。大きな企業ですと、これが会社のため、上司に認められるため、会議で承認されるためなど、市場や顧客と直結しない事情がたくさん絡んできます。これではいくら経営資源があってもベンチャーに負けてしまいます。
 そこで副業をうまく使えるのではないかと考えるのです。人が副業にすることの多くは、その人のコアコンピタンス(中核能力)であることが多いと思います。そういう意味では“副業“ではなく、本業の派生、展開という意味のマルチプルジョブ、”複業”だと思います。アウトプットが会社の仕事か副業かの違いです。つまり副業をやれば個人のコアコンピタンスが磨かれ、本業にも良い影響をもたらすはずです。またそこから会社の新事業のネタが見つかるかも知れません。
 おそらく賢い人は、副業をして、人一倍会社の業務にも貢献し、副業でもそこそこ稼げる様になっていくと思います。つまりプロです。プロになれば、社内外どこでも食っていけます。まさしく複業です。

 「働き方改革」が、時間の議論で終わることが多いのですが、副業など、自分の意欲をダイレクトに引き出すような「働き方改革」を考えても良いと思います。

 

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