コラム

  1. HOME
  2. コラム
  3. グローバルエイジ
  4. 先行きが明るく仕事ができる人や業績の良い会社・組織は脳の使い方が違う

先行きが明るく仕事ができる人や業績の良い会社・組織は脳の使い方が違う

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 厳しい環境でも先行きが明るく仕事ができる人や業績の良い会社・組織は何が違うのでしょうか?それは「脳」の問題だと思います。発展性のある人や組織では「脳」の使い方が違います。会社で起こるコンプライアンス問題も「脳」の問題が根源にあるのではないかと思っています。弊社が事務局を務めるヘルスケアIoTコンソーシアムでは、健康のための行動変容について研究していますが、それもテーマは「脳」をいかに使うかが中心となっています。私たちのビジネスや生活にも、「脳」に関する研究である「脳科学」が必須になっています。今回は、個人や組織の業績を上げるために「脳」をどう使うべきかについてお話をします。

 

■世界的に突出した業績を生み出す人の言葉から学ぶこと

世界的に突出した業績を生み出した人の名言には次のようなものがあります。

「長い階段を一気に上がろうとすると、途中でへばってしまう。でも一歩ずつ確実に上がっていけば、時間はかかっても頂上まで上がることができる。」「もう走れないほど練習しても、一晩寝ると不思議と走れてしまう。」
(元陸上選手、シドニーオリンピック金メダリスト・女子マラソン元世界記録保持者 高橋 尚子氏)

「夢や目標を達成するには、1つしか方法はない。小さなことをコツコツ積み重ねること。」
(米大リーガー、NPB/MLB通算最多安打数記録保持者 イチロー氏)

「ビジネスでもどんな分野であっても、死んでもいいほどの意志を持てたら最高の能力が発揮できるんです。」
(プロスキーヤー・登山家、エベレスト史上最高齢登頂記録保持者 三浦雄一郎氏)

「成功した人は、普通の人ならその困難に打ち負かされるところを、反対に喜び勇んで体当たりしている。」
(実業・発明・著述家、パナソニック創業者 松下幸之助氏)

これらの世界的に突出した業績を生み出す人には、共通することがあります。

  • 深く強い理由、動機、意味づけを持っている。
  • 小さいことから始める。行動する。
  • すべてをポジティブに捉える。自分を褒める。
  • 失敗から学び、達成するまであきらめない。

そして

  • こういった意識、思考、行動を「習慣」にしている。

ことです。

 「習慣の力 The Power of Habit」(チャールズ・デュヒッグ著, 渡会 圭子訳, 講談社)では、人の脳は【切っ掛け】⇒【行動】⇒【報酬】を繰り返すことで意識、思考、行動の「習慣」を創り出していると述べています。世界的に突出した業績を生み出す人は、高い目標を達成するために様々な環境下でこの習慣を繰り返して強化し、「強い心」を創り出しているのだと考えられます。

 また、米国の著名な心理学者であるアンダース・エリクソンは、著書「超一流になるのは才能か努力か?」(アンダース エリクソン著, ロバート・プール著,文芸春秋社)で脳の使い方に焦点を当て、10の鉄則を示しています。 ここでもまた、優れた業績を出すための「脳の習慣」のコツを述べています。

 

20161207_1

 

■「習慣」はどのような脳の動きで強化されていくのか

 私もまだまだ脳科学を勉強し始めたばかりではありますが、「ダイナミック・コア仮説」という仮説では、脳の「習慣」に関しておおよそ次の様に説明されています。
 視覚、聴覚、味覚などの情報は「大脳皮質神経細胞」(図中①)の感覚中枢で受け取られ、そこから「A10神経群」(②)と呼ばれる部位に送られます。「A10神経群」には危機感や感動をつかさどる「扁桃核」、好き嫌いをつかさどる「側座核」、意欲や自律神経をつかさどる「視床下部」が集まっており、入ってきた情報に対してこうした「感情レッテル」を貼り付けます。そしてそこでの反応が「前頭前野」(③)に伝わり、似たようなものを区別したり、筋道が立っているかを判断します。その判断した結果は、「自己報酬神経群」(④)に伝わり、行動に対する達成感や成功体験、また「褒められる」「誰かが喜ぶ」というように感じさせる、もしくは期待させます。そして「線条体―基底部―視下」(⑤)で感情や意思が決定され、何らかの行動をします。その結果が「海馬回・大脳辺縁系」(⑥)で短期的に記憶されます。脳に入った情報は上記の脳の部位をネットワーク状に回り、考えや心を生み出し、記憶されていきます。

 

20161207_2

 

 プレジデントFamily 2013年1月号「何にも長続きしなかった原因はこれだ!」(http://president.jp/articles/-/13184)より引用

前に挙げた世界的に突出した業績を生み出す人達は、自己が到達したい夢や目標に向けてこのような基本的な脳の動き、つまり「心」や「思考」を強化して、それと連動させた身体能力を鍛えていったのだと考えられます。

 

■パッとしない組織の人の脳の使い方

 脳の習慣はプラス面だけでなく、マイナス面にも働きます。例えば次の様なケースです。
 『意味が感じられない仕事を上司から一方的に指示され、受け身で仕事をする。自分にとって価値がなく自己成長に関係の無い仕事なので、途中経過にも結果にも期待はしていない。縦割りで閉鎖的な組織だからいつも知っている刺激のない情報しか入ってこないので、いつものパターンの思考で判断し作業する。つまらない仕事だなあ、刺激の無い職場だなあという記憶が蓄積され、毎日が過ぎていく・・』
 そんな職場の人に、新しい挑戦的な仕事が舞い込んできたとしたらどうなるでしょうか。きっと脳が「ああ、またいつものつまらない上司の指示だな」という思考サイクルに入って放置してしまったり、パターン化された処理をしてしまい大きなチャンスを逃してしまったりするのではないでしょうか。この状態は俗に「学習性無力感」と呼ばれています。
 この状態が職場だけでならまだ良いのですが、プライベートの生活でも同様な状況であれば問題です。たとえ仕事であまりパッとしていなくても、家庭での生活や趣味で楽しんで新しいことに挑戦していれば、素晴らしい人生だと思いますし、そういった人は環境が変われば仕事でもよい方向に進むと考えられます。

 

■「5S」が徹底されている職場は活性化している

 最近私は「5S」に注目しています。5Sとは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾」のアルファベットの頭文字をとった略称で、要は職場を綺麗に気持ちよく使えるようにしておく活動です。なぜ5Sに注目するのかと言えば、5Sは今日入社したアルバイトの人でも職場に貢献し、達成感を感じられるからです。自分で掃除した場所が自分で確認できます。そしてより綺麗にしようと工夫します。
 「掃除と経営 歴史と理論から『効用』を読み解く 」(大森 信著, 光文社新書)では、5S活動はじめ改善活動を継続する企業と業績との関係を経営学的に研究した興味深い書籍です。
 こういった小さな積み重ねを習慣にすることが企業経営では大変重要です。5Sや現場の改善運動は、常に仕事に改善、変革をもたらし、たとえその直接的経済効果はごくわずかだとしても、人の「脳」の訓練としては大変重要です。なぜなら、それは職場の人の「脳」のよい習慣をつくるからです。その「脳」の習慣が大きな環境変化の際に、挑戦し、新たな環境に適応する基礎となるからです。

 

■仕事を通じて「脳」を鍛える「ブレークスループロジェクト」

 5Sに限らず、私たちの職場にはよい「脳の習慣」を身につける題材はたくさんあります。営業目標の達成、業務改善、新製品開発、製造コストダウンなどなど。弊社では10年以上に渡り「ブレークスループロジェクト」を国内外500以上のプロジェクトで実践してきました。最近改めて、この「ブレークスループロジェクト」こそ、人・組織の「脳の習慣」を改善する手法であるとして見直し、実践し始めました。
 「ブレークスループロジェクト」とは、短期間(90日)で具体的に目に見える最終結果(ブレークスルーゴール)を達成し、その過程で人の意識と組織習慣を変革していく手法です。組織はどこでも「シェア倍増」「コスト半減」など高い目標を目指す大きなプロジェクトをやりがちです。しかしそのほとんどは、プロジェクトが大きすぎるため参加者に実感が湧かず、当事者意識が希薄となった結果、失敗することが多いのです。

 

20161207_3

 

 ブレークスループロジェクトでは、目標達成期間を90日にセットし、プロジェクト参加者がその結果を具体的にイメージできるようにします。そして毎週、一日単位でアクションを明確にし、とにかく毎日目標達成に向かって行動を繰り返すことを重視します。行動することで何らかの進捗が生まれ、メンバーのモチベーションが高まり、益々行動力が上がり、活性化します。行動量が多くなれば、一定の時間で結果が出始めます。結果が出始めると周りの協力も多く得られ、実際の投入工数も多くなり、さらに成功のコツもつかめることで、指数関数的に伸びます。こういった過程を通じて「ビジネスで成功する脳の習慣」を組織的に身につけます。

 

20161207_4

 

20161207_5

 

■業績の良い会社・組織になるために脳の使い方で最も大事なことは何か

 最後に「業績の良い会社・組織になるために脳の使い方で最も大事なことは何か」と考えると、それは「夢」「ビジョン」ではないかと思います。つまり、「何かを成し遂げたい」「何かをやってみたい」と願うことです。今がどんな状態であっても、「夢」「ビジョン」があれば、意欲が生まれます。空想でよいので、「夢」「ビジョン」を強く持てば、強い意欲が生まれます。強い意欲が生まれれば、感覚が研ぎ澄まされ、入ってくる情報も変わってきます。そうすると、益々期待感が膨らみ、行動するパワーが生まれます。行動し始めれば何かが進捗し、達成感を味わうことができる・・・というように、脳の習慣ができていきます。
 ですから、「夢」「ビジョン」を持つこと、また「夢」「ビジョン」を語り合い、さらにはそのきっかけを人に与えることが、社会では何よりも大事なことなのだと思います。

ニューチャーの関連書籍

『顧客経験価値を創造する商品開発入門』
『顧客経験価値を創造する商品開発入門』
「モノづくり」から「コトづくり」へ 時代に合わせたヒット商品を生み出し続けるための 組織と開発プロセスの構築方法を7つのコンセプトから詳解する実践書
高橋 透 著(中央経済社出版)
2023年6月29日発行
ISBN-13 : 978-4502462115

 

『デジタル異業種連携戦略』
『デジタル異業種連携戦略』
優れた経営資産を他社と組み合わせ新たな事業を創造する
高橋 透 著(中央経済社出版)
2019年11月13日発行
ISBN-13 : 978-4502318511

 

『技術マーケティング戦略』
『技術マーケティング戦略』
技術力でビジネスモデルを制する革新的手法
高橋 透 著(中央経済社出版)
2016年9月22日発行
ISBN-10: 4502199214

 

『勝ち抜く戦略実践のための競合分析手法』
『勝ち抜く戦略実践のための競合分析手法』
「エコシステム・ビジネスモデル」「バリューチェーン」「製品・サービス」3階層連動の分析により、勝利を導く戦略を編み出す!
高橋 透 著(中央経済社出版)
2015年1月20日発行
ISBN:978-4-502-12521-8