Global Age

コラム

  1. HOME
  2. コラム
  3. グローバルエイジ
  4. リーダーは生活者でもあることを忘れるな ~どのような理念とビジョンを持つのかを考える時間が大切~

リーダーは生活者でもあることを忘れるな ~どのような理念とビジョンを持つのかを考える時間が大切~

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 先日、10月31日――日銀は30兆円ものマネーサプライを増加させ、一時112円もの円安、日経平均株価前日比700円以上の高値を記録しました。

 これは米国の2014年に入ってからの低金利誘導政策、ドル安の金融政策に対抗すべく、安倍政権の金融政策と考えられます。2014年に入ってドル安が進み、それまで円安誘導の日本の株価は2014年に入り低迷したからでしょう。

 グローバル金融の動向に関する記事を読むと、製造業をはじめとする実態経済を支える産業界の努力が時々、空しく感じられます。現在のグローバル社会は、金融とそれを支える情報に偏っている傾向があり、巨大資本の移動および膨大な情報の潮流が人々の暮らしや産業を脅かし続けていると思われるからです。さらに言えば、中東やロシアのクリミヤ半島問題などを軍事的行為で解決する傾向が高まっていることも見逃せません。

 あえて言えば、世界が「金融」「情報」「軍事」といった、わかりやすく効果が短期間に出るものに依存しつつあるのではないかと強く危惧します。

 しかし、足元で市民社会を支えているのは、農林水産、社会インフラ、素材、機械、電機、サービス業などの基盤産業です。「金融」「情報」を軽視する気はありませんが、本来、黒子であるはずの金融、情報産業があまりにも影響力を持つと、基盤産業が破壊されかねません。

 いま、政府・行政、産業など日本社会を引っ張るリーダーの理念とビジョンが試されています。グローバル社会、ネット社会などと言われている不安定で変わりやすい状況において「日本の社会構造をどのような姿にするのか?」――重要な問題です。

 この問いに対して、明確で強い理念と実行力がなければ、資源のない(当然、強い軍事力も持たない)日本は生き延びていけないでしょう。

 ここでいうリーダーとは、政府・行政、企業に働く人、一人ひとり、つまり我々を指しています。我々がどのような理念とビジョンを持つのか、そしてそれを我々の仕事の中でどう実践するのかがきわめて大切だと思います。社会とは、そのような無数の取り組みの積み重ねでしかありません。

生活者としての視点を忘れてはならない

 一方、「生活者」としての私たちに目をむけるとどうでしょうか。

 お金の面で言うと、一時的なボーナスは入っても、インフレ誘導の物価高、消費税増税などで実質的な賃金は伸びていないというのが実情ではないでしょうか。いや、むしろ以前より賃金は下がっていると思います。

 企業は自分たちが生き延びるためだけに、単純かつ継続的に人財をリストラし、将来を担うであろう新入社員の採用を抑制する傾向が続いています。その一方で人材派遣を活用するなどでコストを抑制します。結果的に組織規模を小さくして、ポストも減少させる方向性にあるともいえます。

 ICT(情報通信技術)の発達で、分業化が進み、仕事が過密になり、かつてとは比べ物にならないぐらいストレスが多い職場環境になっています。冷静に考えると、あまり良い話はありません。

 しかし、それらのことに文句ばかり言っても何も始まりません。変わりません。では、どうするか? 発想を変え、高賃金、高ポストへの欲求を捨て、贅沢をしないで生活コストを抑え、むしろ時間的に限られた人生の質を上げることに目を向けるという考え方はいかがでしょうか。

 例えば、生活コストの低い地方に住み、自然環境に恵まれた地元の豊かな産物を利用する。互いに支え合う地域コミュニティで子育てをし、静かな環境でじっくりと知識、知性を磨き、また趣味を楽しむ生活をする。

 わかりやすく言えば、賃金、地位などの外面的な欲求の満足に目標を置くのではなく、人と人との豊かな関係や感性、知性、知識を磨くことなど内面的な欲求の満足を求める生活への転換という考え方です。

 このような“低固定費”でありながら時間に余裕があり、心理的に満足度が高い生活は、グローバル社会の変動に強い、しっかりとした社会基盤と言えるのではないでしょうか。同時に、省エネルギーで環境にも負荷のかからない生活です。

 ここ数年、増える地方の空き家を自治体が都市部からの移住者に無料(あるいはきわめて安価なリース料)で提供し、自分たちでリフォームして、生活する人が少しずつ増えていると聞きます。スキルがあえば仕事はネットを通じてできるものが少なからずありますし、体力に自信があり、地元の方と円滑なコミュニケーションする努力があれば農林水産業でもなんとか生活していけます。

 ここで書いたことは、実際に地方に住んでいない都市部生活者のある種、偏った見方かも知れません。しかし、自分の本当の豊かさを求めるために地方移住という手段をとることは、ある意味、良い傾向ではないでしょうか。そのようなトレンドが背景にあって、いま日本では地方移住をはじめ、“田舎生活”に関連した園芸、家庭菜園、DIY、家庭料理、住環境などのビジネスが少しずつ成長しています。

 先ほど金融、情報産業が発達しすぎると弊害も出てくるのではないかということを指摘しました。しかし、金融、情報産業の発達もまた、このような豊かな仕事や生活を支えてくれる面があるのも事実なのです。

 例えば、最近ブームの「クラウドファンディング」がそうです。個人でも、小さな企業でも、事業ビジョンに賛同した人が世界中から個人で投資してくれる仕組みです。起業家はネットで自身の事業ビジョンをアピールし、資金を集めます。日本の地方の一個人であっても、ICTを活用することで世界の人に対して自分の夢の実現を呼び掛けられます。

 私たちの社会は今後、いったいどこへ向かうのでしょうか?

 社会で起こる様々な事象を見聞きしていると、ややもすれば自分を見失いそうになります。毎日の仕事、生活の中で大きなストレスを感じることも多いでしょう。

 しかし自分自身が“リーダー”としてどのような社会をつくりたいのか。また、一生活者としてどのような生き方をするのかを考えることが大事であると考えます。

 馬車馬のように働き続け、ストレスをため込み、自分自身の考え方を矮小化させ、結果的に身体、心を病むことが良いとは言えません。それを回避するため、自分自身がリーダーとしてどのような社会をつくりたいのか、一生活者としてどのような生き方をするのかをじっくりと考える時間、機会、そのための気持ちと心の余裕が欠かせないのです。

 長い人生の中において、リーダーを目指す人間は、休息もきちんと取ることが大事です。

ニューチャーの関連書籍

『顧客経験価値を創造する商品開発入門』
『顧客経験価値を創造する商品開発入門』
「モノづくり」から「コトづくり」へ 時代に合わせたヒット商品を生み出し続けるための 組織と開発プロセスの構築方法を7つのコンセプトから詳解する実践書
高橋 透 著(中央経済社出版)
2023年6月29日発行
ISBN-13 : 978-4502462115

 

『デジタル異業種連携戦略』
『デジタル異業種連携戦略』
優れた経営資産を他社と組み合わせ新たな事業を創造する
高橋 透 著(中央経済社出版)
2019年11月13日発行
ISBN-13 : 978-4502318511

 

『技術マーケティング戦略』
『技術マーケティング戦略』
技術力でビジネスモデルを制する革新的手法
高橋 透 著(中央経済社出版)
2016年9月22日発行
ISBN-10: 4502199214

 

『勝ち抜く戦略実践のための競合分析手法』
『勝ち抜く戦略実践のための競合分析手法』
「エコシステム・ビジネスモデル」「バリューチェーン」「製品・サービス」3階層連動の分析により、勝利を導く戦略を編み出す!
高橋 透 著(中央経済社出版)
2015年1月20日発行
ISBN:978-4-502-12521-8