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激動するパラダイムに立ち向かう企業への提言

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

「グローバル・エイジ」のリーダーからの提言

 新年あけましておめでとうございます。東日本大震災の本格復興が一日も早く進み、被災者の皆様の生活、お仕事が新たに発展いたしますことを、心からお祈りいたします。
 毎年年初に、新たなスタートの節目として、コンサルタントとしての私から見た、経済、産業の課題やビジョンを述べさせていただいております。本年の新春コラムも、皆様の暮らしやお仕事に、少しでもお役に立てていただければと思います。

これから10年、20年先の社会をどう認識するか?

 個人の人生でも、企業経営、さらには国家運営においても、10年、20年先の社会の価値基準がどの様に変化するか、またそれらをどの様に認識するかという、 “パラダイム認識”がすべての原点であると思われます。パラダイムの認識にズレがあれば、戦略も見誤り、またその実践行動も環境から外れたものとなり、その主体は衰退していきます。反対にパラダイムの変化をうまく取り込んだ意思決定と行動があれば、多少のミスがあっても乗り越えることが出来ます。
 2013年の年初にあたり、今後10年、20年先で重要と思われる“パラダイム認識”を3つ挙げたいと思います。

パラダイム認識1:先進国から新興国へのパワーシフト

 米国の著名なジャーナリストであるトーマス・フリードマンが「フラット化する社会」を著して既に数年が経過しますが、“先進国から新興国へのパワーシフト”というパラダイムは、概念としては理解したつもりでも、多くの先進国の人や企業はこの事実から目を背けている様に思えます。特に移民を含む外国人が極端に少ない日本では、その傾向が顕著に感じられるのは私だけでしょうか。 
 例えば現在では英語さえ出来れば世界の著名大学の講義の多くをネットで受けることが出来ます。私が大学を卒業した約25年前よりも、先進国と新興国との教育水準の格差は明らかに縮小しています。米国の経営大学院、いわゆるMBAコースの学生で、中国を筆頭に韓国やインドなどの学生も多くなっています。日本は2010年時点では6位です。
 また、中国、シンガポール、ソウルなどにも、すべての授業を英語で行う優れたMBAコースがいくつもあります。その一方で日本の有名MBAコースのほとんどが未だ日本語だけで行われており、学校自体がMBAコースの競争市場に入れていないことは嘆かわしいことです。
 日本の多くのICT業務がインドのバンガロールや中国の大連にアウトソーシングされ、日本での業務処理の必要性が年々少なくなってきています。製品の多くがデジタル化され、日本や先進国での組立は、特別な場合を除いてほとんど不必要になっています。世界的なシェアをもつ米国DELLコンピュータ、アップルなどの製品のすべては台湾、中国などで製造されています。
 私たちコンサルティングの現場でも、多くのパワーシフトを目の当たりにしています。多くの企業で、日本人駐在員と現地社員との対立が目立ってきています。現地社員の言い分はこうです。「新しいマネージャが日本から来たが、経理しか相談に乗ってくれない。人事、総務、法務の問題もあるのに…」「何もしない日本人マネージャを一人日本に戻せば、現地の優秀な人材を5人雇えるのに…」。言語の問題だけではなく、マネジメント能力、スキル、知識の低さを指摘されるケースが多くなってきているのです。新興国は成長市場であるため、仕事はたくさんあります。処遇に満足出来なければ、競合企業はじめ他社に転職していってしまいます。
 このように、我々の身近な分野でパワーシフトは既に起こっています。今後、消費市場、製品・サービスの仕様、企画、生産活動、企業の納税、エミッションの輩出権などあらゆる分野で、これまで覇権を握ってきた先進国によるシステムが、力を付けた新興国のシステムと衝突し、その成長力と市場の大きさで、力関係が変わって行くでしょう。
 しかし、倫理に照らし理想を言えば、この世に生まれて自分の才能を最大限に発揮する権利は、先進国でも新興国でも、どこの国や地域にあっても、すべて平等に与えられるべきで、システムとしての差別があってはなりません。そのような見地に立てば、先進国から新興国へのパワーシフトは世界の経済、社会にとって望ましいことであり、重要な活力源でもあります。ここ10年、20年の変化、変動をいかに自分や自社の機会に置き換えられる戦略的発想と行動をとるかが重要と言えます。

パラダイム認識2:優れた独自のモノ、企業、個人が勝つ時代

 携帯電話がメインの時代の端末市場には、日本企業を含む多くの企業が存在していましたが、スマートフォンの時代になってからは、世界のメインプレイヤーはアップル、サムソンなどごく限られた数社に絞られてしまいました。世界の隅々までデジタル化、ネットワーク化が進んだ現代では、市場淘汰が極めて早く、優れた独自のモノや企業しか残りません。なぜならどこの企業の何が優れているのかが、瞬時に知れ渡るためです。 
 しかしその一方で、すべてを自社で開発、製造することもまた資源の分散になり、競争上不利になるため、製品やサービスの多くの部分を、優れた独自のモノやそれを生み出す会社に委ねることになります。現在でも多くのスマートフォンの部材、部品、特に半導体は、日本のメーカーが担う割合が大きいと言われています。
 このような状況においては、たとえ小さな企業であっても、優れた製品・サービスを提供できれば、その事業領域では世界のトップ企業として急成長する可能性もあります。ICT(情報通信技術)の世界ではもはや当たり前の世界ですが、今後は多くの産業でも同じようなことが起こる可能性が高いのです。
 コンサルティングの現場で感じるのは、同じ企業の中でも、優れた業績を挙げている事業・製品と、そうでない事業・製品とは、まるで別の会社のようになっていることです。優れた事業や製品担当の方々は、お客様やサプライヤーとまるで一つの会社の様に仕事をして、情報やノウハウがますます蓄積する正のサイクルが回っています。顧客も日本国内だけでなく、世界中から引き合いが来て、ますます強くなっていきます。しかし業績が芳しくない事業や製品は、ある限られたお客様の下で、下請け業務的な仕事にとどまっており、構造的に利益が出しにくい形になっています。
 このことは製品や事業にとどまらず、そこで働く個人にも同じようなことが言えます。忙しい人は、周りから多くのことを依頼され、ますます忙しくなる。その結果専門的なノウハウが深まり、ますます頼りにされる。その範囲は、社内を超えて、海外の顧客や思いがけない業界などからも依頼が殺到する、という具合です。
 このような状況は皆さんの周りでもよく目にすることと思われます。別の言い方をすると「何かに取り組むならば世界トップクラスでなければ意味が無い」もしくは「世界トップクラスでなければ生き残れない」ということになろうかと思います。
 このように申しますと難しそうに聞こえますが、その答えは意外に身近なことにあります。今やっている業務、製品、事業で独自の領域(ドメイン)はどこか。そしてそこでの独自性は何か、誰が顧客なのか、ということを、まずはじっくり考えることが大事です。独自の領域を見つけ出すことで最も大事なことは、自己のアイデンティティは何かというフィロソフィを追求することであり、またすべての思考、行動を、そのフィロソフィを基軸に組み立て、粘り強く、長期間継続することだと思います。

パラダイム認識3:中央集権のトップダウン型経営から創発型経営へ

 弊社ニューチャーネットワークスでは約5年前の2007年に、「価値共創・創発型経営の研究」を東京大学工学系研究科のご協力で実施し、それからすべての戦略、マネジメント手法に価値共創、創発の考え方を導入し実践して参りましたが、ここ数年のグローバル化の中で、その傾向はますます強くなっていると実感しております。
 例えば世界での製造・販売を含め、総拠点数が10を越える企業では、その拠点の中に、中国、タイ、マレーシア、インドネシアなどの新興国が含まれています。欧州、米国などいわゆる欧米式を踏襲する先進国までならば、日本品質、日本方式を多少アレンジするぐらいでよかった、つまり日本のヘッドクオーターからのトップダウンの経営でよかったのですが、社会や経済、法律や制度の発展段階もまちまちで、生活習慣、文化も多様な、新興国も含めた経営となるとどうでしょうか。日本の本社からのトップダウン式のマネジメントは効果的でしょうか。それどころか、全くの逆効果でしかありません。
 人間が対応できる多様性や複雑性が、ある一定以上を越えた場合、分析的な現状把握や、その結果に基づいたある特定のシステムを当てはめる演繹的なアプローチは効果がありません。現場の情報を重視したボトムアップと、そこで見出された独自の解を尊重し、それを改めてトップダウンすることを短期間に繰り返していく“創発型の経営”が求められます。
 最近よく言われているグローバル化の問題の本質は、実はこのパラダイムの問題であり、多くの日本企業がもがき苦しむ理由になっています。「中国統括本部がまたこんなことを言い出した」「本社の規定をそう簡単に変えられるわけがない」といったような、過去のやり方から見ればとんでもない要望が現場から出てきます。しかしそのとんでもない要望の中にこそビジネスの機会が潜んでおり、同時に経営全体を変革する機会でもあります。
 グローバルマネジメントで言うと、まず地域にある程度の人、モノ、カネを投資し、地域が自立できる様にする。その上で、現在の本社の権限をある程度は持ちつつも、思い切って地域に権限を持たせ、地域から上がってくる情報、アイデアを本社が吸い上げ、全体に普及させる役割を担うといったダイナミックな創発マネジメントに変えていく必要があります。

提言「2013年の企業の課題」

 以上の認識を踏まえて、次にこれまで挙げた10年、20年先を見越した3つのパラダイム認識から、私なりに2013年の企業の課題を提言したいと思います。

提言1:「変化」「変動」そのものをビジネスチャンスに変える発想力、企画力を持て

 今後の見通しとして現時点で明らかに言えることは、我々先進国の市民にとっては予知しにくい「変化」や「変動」が数多く発生するということだけです。それが成長カーブのアップトレンドであれば、読みやすく、また乗りやすいでしょう。しかしダウントレンドにおいては、思考や行動力も鈍りがちになります。ここで言う「変化」や「変動」とはアップトレンドとダウントレンドの両方、しかも高さや深さ、期間などもまちまちで、またそのサイクルそのものが変化する現象を指します。その「変化」「変動」そのものをビジネスチャンスにすることができる発想力が必要です。
 例えば昨年2012年は中国、インドはじめ新興国も、ヨーロッパの金融不況、米国経済の不振などの影響を受け、成長が鈍化しました。2013年もそれほど大きな成長は望めないと言われています。しかし10年、20年のスパンで見れば、世界経済は人口増加、資源開発、貿易の活発化などのからの面から見れば、今よりも遙かに大きく成長していくはずです。今はその低迷期にあるだけです。したがって、この低迷期にどのようなビジネスを仕込むかによって次の成長、さらにはその次の成長ステージでの成長が決まってきます。そう考えると低迷期こそ最大の事業機会なのです。また低迷期には、M&Aやアライアンスが行いやすくなります。業績が低迷してキャッシュが必要となり、多角化し過ぎて、コントロール出来ない事業は売却する可能性が高まります。事業の寡占化のまたとないチャンスです。
 今後のビジネスでは、技術や業務力をきちんと磨き上げる農耕民族的なやり方の一方で、絶えず動くものに反応し、自分にとって魅力的であればそれを獲得する狩猟民族的なセンスを持ち合わせていなければなりません。

提言2:アライアンスネットワークを構築せよ

 パラダイム認識のところで「強い製品、事業、人に集中する」ことを述べましたが、その強みを活かす前提として、周りにネットワークを張り巡らせておくことが必要となります。
 昨年、日経BP社より『ネットワークアライアンス戦略』(高橋透、淵邊善彦、共著)を出版させていただきました。そこでも述べていますが、M&Aや戦略的包括提携を行うにあたっては、常日頃から何らかの外交戦略を行っていなければ、相手の状況も掴めませんし、実際の交渉窓口さえ解りません。またアライアンスのチャンスが存在することにも気がつかないかもしれません。
 例えば低迷する日本のエレクトロニクス業界は今、世界のネットワークから置いてきぼりになっている様に思えます。コスト削減で海外出張費を削減しすぎたせいか、またそもそも戦略的なアライアンス発想に乏しいためか、外交窓口が少な過ぎ、かつその結び付も極めて弱い状況にあります。
 アライアンスネットワークは、顧客やサプライヤーなどの自社のサプライチェーンだけでは視野が狭すぎます。少なくとも競合他社も含めた業界全体に広げなければなりません。近年では、業界を越えた戦略的アライアンスこそ最もビジネスインパクトを持ちますので、業界外にもネットワークが必要です。そのようなネットワークづくりは誰の仕事でしょうか。役員は当然のことですが、事業部門や各機能部門のスタッフなど、課長級以上の全員の仕事と言ってもよいでしょう。それほどに、ネットワークは企業資産として重要なのです。
 アライアンスネットワーク構築には外交窓口が重要と申しましたが、それを継続させるためには、自社の独自性、強みを磨き、他社から見てもそれが魅力的でなければなりません。次にその「自社の独自性、強み」に関する提言を述べたいと思います

提言3:自社の独自性、強みを徹底して磨け

 Googleは検索エンジンの精度とその使いやすさが強みであり、ユーザーの最終目的である情報やコンテンツを提供しているわけではありません。またGoogleは世界中のユーザーが検索することでその経済的価値を上げており、もし世界の全ユーザーが1週間でも全く検索しなくなったら株価が暴落し、危機的状況に陥るでしょう。つまりGoogleは、インターネットというネットワークの中で、検索エンジンという強みに絞ったビジネスを展開しているのです。Googleの例でもわかる様に、特にネットの社会では、たとえ小さなことでもそれが世界の多くの人が利用するものであれば、莫大な価値を生む可能性があります。
 その一方で、いくら巨大企業といえども、このネット社会で多くのことを手がけることは競争上有利とは言えません。多くの日本のエレクトロニクスメーカーが陥ったのは、急速に成長発展したデジタルネットワーク社会で、中途半端な自前主義による事業を、しかも数多く、長期間維持しすぎたことにあると言えます。パナソニックグループの事業は未だに90以上もあり、すべての事業名を言える人はごく限られているのではないでしょうか。 
 それでは、「独自性」や「強み」とは、どの様に理解されるべきなのでしょうか。自社単独で定義できるものなのでしょうか。それとも他社のベンチマーキングをして決めるものなのでしょうか。もちろん競合ベンチマーキングは必要です。しかし現在重要視されているのは、業界全体、業界を越えたエコシステム(産業生態系)の中での位置づけから見出すことです。ネットワークの中での存在意義が重視されます。
 例えばアメリカのWLゴア&アソシエイツ社の開発した防水性と透湿性を兼ね備えた「ゴアテックス」は、テント、衣料品などの多くのアウトドア製品や、ビジネスシューズなど様々な分野に欠かせない素材として広く利用され、その特化された強みで産業を越えた共生関係を形成しています。ゴアテックスは、自社の強い技術、製品を多角的な視点で捉え直し、積極的な提案で市場を創造して行く課程で様々なことを学習し、さらにその強みを強化していったに違いないと思われます。
 繰り返しになりますが、「独自性」や「強み」とは、自社だけで決めるのではなく、周りとの関係の中で、発見したり、見つけてくれたりするもので、絶対的なものではなく相対的なものであると言えます。

 以上2013年の年初に、3つの提言を述べさせていただきました。
 政権が変わり、金融政策や主要な産業政策のビジョンが示され始めました。世界もそれに期待し始めました。日本は大きく転換し、再生へむけた成長を達成する年と信じております。中国はじめ、アジアの国々とも、共に繁栄するための良き関係を再構築する年にしたいと思います。

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