「スタートアップ文化を前提とした事業開発ロードマップの作成」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第58回
これまでの事業開発ロードマップでは通用しない
これまでの事業開発ロードマップは、事業を行う側の全体戦略、機能別戦略をいくつかのフェーズに分け展開するのが一般的でした。事業の全体像もなく、技術開発だけというロードマップも多かったと思います。しかし多くの人がこのロードマップに疑問をもっていたのではないかと思います。なぜならこのようなロードマップには顧客の存在がないからです。事業とは顧客経験価値を顧客と共創するものと考えると、それがロードマップの真ん中にあるべきです。単に売手の理論を押しつけるような事業開発は今や全く通用しません。事業開発ロードマップは顧客経験価値のロードマップの作成が最初で、また中心であるべきです。
顧客経験価値のロードマップを作成する
顧客経験価値のロードマップの原点は、企業と顧客が共有する世界観、フィロソフィーです。その世界観、フィロソフィーをベースに、5年、7年、10年といったロードマップのゴールの時点での顧客経験価値のあるべき姿を描きます。顧客経験価値のあるべき姿とは、感覚、感情、思考、行動、共感の5つの視点に関する独自の経験価値のデザインです。ロードマップのゴール時点での顧客経験価値は、3から5のフェーズで2,3年おきにロードマップとして描かれます。このように顧客経験価値のロードマップをしっかり作成することが事業ロードマップで最も重要なのです。
顧客経験価値のロードマップが作成できたところで、その顧客経験価値を顧客と共に実現するための方策が商品開発、マーケティング開発、技術開発、ビジネスモデル開発などの各機能のロードマップとなります。実際の顧客経験価値ベースの事業開発が難しいのは、この事業開発ロードマップが自社単独で展開できるものでなく、顧客との関係の中で共創してつくり出す面にあります。
顧客経験価値重視の事業ロードマップ企画の重要視点
では顧客との共創で創り出す事業の事業ロードマップはどのように書くべきなのでしょうか。厳格にこれを守れば成功するというものはありませんが、いくつか重要な視点はあります。
①世界観を反映させた主要な機能を兼ね備えたスモールモデルでスタートする
長い間かけて商品、技術、マーケティング、ビジネスモデルなど各機能を開発し、それを統合させた結果が事業になるという形をとらない。主要な機能を兼ね備えた顧客経験価値実現のスモールモデルを短期間につくり、そのモデルをスピーディーに進化させる。各機能のプロジェクトを中長期に進めても事業の形になりにくい。そればかりではなく、時間が経過するほど顧客経験価値から遠ざかる。
②シンプルで柔軟な事業にするために、人、モノ、カネなど最小限のリソースで無駄なく緊張感をもって進める
事業開発プロジェクト初期に大きなリソースを投入しない。そのリソース管理だけで多くの時間を消費する。それだけでなく人、組織の柔軟性も失うことになる。最低限のリソース、小さなチームで、確実に実績をつくり、モデルの全体像をつくる。顧客からのフィードバックを直に感じ、素早く変化する。
③各フェーズをさらに90日程度の短期の目標に分割し、その達成に集中し、毎回達成感を得て、顧客も含めた関係する人、組織のモチベーションを上げる
プロジェクトのゴールを1年以上にしない。できるだけ90日以内にする。事業開発プロジェクトはその90日のゴールに集中する。顧客も含めた90日の短期目標の達成感を共有し、モチベーションを上げ、次の90日の目標に向かう。それを連続させる。もちろん中長期の顧客経験価値のビジョンは失わない。
④上記スモールモデルが絶えず顧客のフィードバックを得て進化・成長する仕掛けを各機能に入れる
スモールモデルは直に顧客からのフィードバックを得て進化・成長するしかけをつくる。そのために各開発機能は、顧客経験価値に直接触れ、自発的に動き、コラボレーションする組織文化を創る。各組織が顧客の経験価値を自発的にキャッチし、自発的に開発を進め、コラボレーションをすることが重要。
⑤フェーズごとに収益を得て、その実績をベースに周りを巻き込み次のフェーズに進む
フェーズごとに目指すべき顧客経験価値を実現させ、財務的な成果を生み出す。その明確な実績をベースに、より広範囲の顧客、パートナーなど周りの協力を得て、顧客経験価値を増幅させる。実績ができれば、スタートアップ企業でも、大きな会社でも、資金や人を調達しやすくなる。小さくても成功し始めると勝ち馬に乗りたい多くの協力者が出てくる。