JIPDEC坂下理事対談 AI、IoTの時代トレンドにおける日本企業が把握すべき動向① ~異業種マッチング成功のための要素~
AIやIoTが普及し、既存の縦割りの仕組みではなく異業種連携によるエコシステムが求められる現代において、様々な課題にも直面しています。
そうした中これからの日本企業はどうあるべきか、また世界ではどのような動向が見られるかを、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)常任理事の坂下哲也様にお話を伺いました。
高橋:昨今はAIや IoTで業界を超えた連携が求められ、業界を壊していく必要性が出てきています。しかしながら、実際にはまだ程遠いのが現状で、発想をアクティブにできている例は少ないと思っています。異業種に対して自分から仕掛ければ相手も動きますが、そのためにはどのようなトリガーや切っ掛けがあるべきと坂下さんは考えていらっしゃいますか?
坂下:業界の壁を超えるというのは難しいことですが、第一に交流する切っ掛けがない状態なので、それをどうやって作るかが重要です。当協会で事務局を務めるIoT推進ラボでは、IoTラボ・コネクションを行っています。これまでに約3,090件がマッチングし、サンプリング調査になりますが、そのうちの20%が次のステップに進み、具体的な事業活動につながっています。異業種間のマッチングでは、製造業やソフトウェアなどの業界特有の表現を用いるため、それを翻訳できる人材が間に立つ必要がありますが、その人材が不足しています。翻訳には幅広い知識と人脈が必要ですが、それを持つ人が少ないというのが二番目の課題です。
高橋:マッチングしたい異業種の意図をつかんで、解釈してあげるだけでも助けになるように思いますが。
坂下:ボディーランゲージでもコミュニケーションをとることはできますが、それだけではさらに具体的な先のステップに進むことはできません。2016年6月にダイキン工業(以下ダイキン)がディープラーニングによるビッグデータ解析に強みを持つベンチャー企業ABEJAと連携し、AIを用いた解析から機器故障を予測し、予防保全に向けた取り組みをしています。これは、アプリケーションを作るハッカソンにダイキンのエンジニアが参加しており、そこでベンチャー企業のエンジニアと会話し、ダイキンが有しているデータがあれば、どの部品がどのくらいの使用で故障するかを、AIを使って解析し予測できるのではないかと言われたのがきっかけだと聞いています。この場合、ハッカソンという場の中で「アプリケーションを作る」というエンジニアリングの共通言語があったので、ダイキンの「空調」の言語とベンチャーの「ソフトウェア」の言語がうまくマッチングしたといえるでしょう。
高橋:プログラミングとういう共通言語があったということですね。そういう意味では、デジタル化ではプログラミングが標準言語になってきます。
坂下:国内でイノベーションを起こそうという取り組みはたくさんありますが、多くの大手製造業は1980年代の円高不況により海外に進出していき、収益の中心は国内ではなく海外になりました。国内に軸を置いている企業は少ない状態です。このような状況でイノベーションを起こすためには、価値観の異なるマッチング(大企業と中小企業をマッチングさせる、異業種の中小企業同士をマッチングさせる、もしくは発想が異なるベンチャー企業とマッチングさせる)が有効です。その際に、エスタブリッシュメントな大企業と、親方気質な中小企業と、周りとは違うと自負しているベンチャー企業とでは、考え方は勿論、ネットワークの作り方も全く異なります。そのため、それぞれが異なる階層となってしまっているため、それを縦につなぐ機会を創出することが難しくなります。
高橋:産業の生態系ですね。マッチングのためにはそういったところも見ていく必要がありますね。
坂下:最近では社内ベンチャー制度が増えているようで、アントレプレナーになっている人も徐々に増えています。大企業を中心に盛んになっていますが、株式公開をしている企業では株主への説明責任があるため、大胆なことができないという意見も聞きます。
【対談者プロフィール】
一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)常務理事 坂下哲也
データベース、OS等の開発に従事し、平成15年財団法人データベース振興センターにおいて、地理空間情報に関連した調査研究に従事。平成18年財団法人日本情報処理開発協会データベース振興センター副センター長に就任。平成24年(一財)日本情報経済社会推進協会・電子情報利活用研究部部長に就任、平成26年6月より現職。データ活用の推進と個人情報の保護のバランスを中心に、パーソナルデータ、オープンデータ、ビッグデータなどデータ利用に関する調査研究に従事。また、マイナンバー制度についても、平成25年度東京都など地方公共団体の特定個人情報保護評価の支援に従事すると共に、その利活用に係る調査研究に従事。国立研究法人審議会臨時委員、ISO/IEC JTC1 SC27/WG5委員、情報ネットワーク法学会会員。