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社会貢献という企業価値


山下 泰延
企業の在り方が進化しつつある。
震災からの復興活動において顕著であるように、人は、社会に貢献することに自らの価値を
見出すようになっている。
「人格」を持つ法人たる企業も同様に、社会でどのような役割を果たせるのかということが
存在意義になりつつある。
売上や利益といった昔ながらの判断基準を超えて、それぞれの企業が
世の中にどう益するのかという視点から、総合的に評価される仕組みが必要である。
企業は、人と同様に利他性を持つようになるだろうか。

大手精密機械メーカーに勤める山下様が、「グローバルエイジ」へ、特別論文を寄稿くださった。
今回はそれをご紹介する。

3月11日に大地震が発生して以来、今回の大震災の惨状、特に実際に被災に遭われた現地の生々しい様子が明らかになってきましたが、あらためて自己を犠牲にしてまでも他人の生命を助けるべく尽力された方々や、がれきの中を周囲と協力する大勢の方々の姿を拝見し、胸が締め付けられるような思いを抱いたと同時に、何か協力したいが何もできない自分自身のやるせなさを実感いたしました。ただ、私自身、あらためて考えさせられたことがあります。それは、地球上に生まれたあまたの生物の中で、人間として本来的に持つべき特別な役割、使命が何かについてです。

今回の惨状に際して東北の方々がとられた行動を垣間見ると、「人」の行動が変質し、自己のためではなく、利他的行動を進んで行う方向に人間自体が着実に進化してきているのではないか、これが21世紀に求められるべき人間のあるべき姿ではないのか、と感じる次第です。それをちまたでは気の優しい、自己主張をしない草食系と揶揄されているのかもしれませんが…

これを企業に置き換えた場合、21世紀の企業のあるべき姿は、やはり「人」に追従してともに進化してゆくべきではないか、と考える次第です。「法人」という「人格」を与えられた企業も、「人」となんら異なることはなく、利他的行動こそ企業活動の動機の源泉・企業の行動指針であり、その結果としての社会貢献こそが、最高の企業価値につながるという考え方です。欧州のCSRに近い考え方かもしれませんが、「草食系」にまで進化させることかもしれません。

これは、経済学や経営学の根底にある考え方、すなわち自己利潤の追求、投資家(やその他ステークホルダー)への利益還元、納税といった金銭的な利益の獲得と分配を中心とした視点にとらわれた企業の在り方や評価は、もはや21世紀にはそぐわなくなってきたのではないかということであります。

金銭的な利益については、単に稼いだ金額を企業が誇示し社会的評価を受ける指標とされるのではなく、それをいかに使って社会に役立てたのかまでフォローした業績開示・評価といったものが必要ではないかと思います。税金といった政府を通じた間接的な還元ではなく、直接的に社会に還元する効果的な方法や、さらには金銭によらない方法もあります。例えば、社会に有用な自社製品の提供もあれば、自社資産の貸与、役員による直接的な社会貢献活動、企業は社員という大きな単位の人数を動員できることから、社員によるボランティアではない労務的な直接社会貢献活動等が考えられます。特に、人的な貢献活動は、一定人数の社員を動員できる仕組みを企業側が積極的に構築し非常時に備える必要があり、コストもかかることになります。

こういった金銭にとらわれない様々な還元活動が総合的に開示されることで、株主・株式市場や債権者という特定のステークホルダーからだけではなく、社会全体で評価されるシステムが構築される必要があるのではないかと思います。

さらにこれらが進展すれば、所在する地域、すなわち行政区画において、企業という法人に参政権が与えられ、経済面ではなく政治的な権利の行使も可能にすべきなのかもしれません。

21世紀は、企業そのものが進化した「人」として、社会において評価され価値が醸成されてゆくべきではないかと考えます。

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