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大企業にはない俊敏な行動力が鍵 日本でシェアリングエコノミーを生み出す人の発想 シェアリングエコノミー伝道師・石崎方規氏対談

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

「現場の厳しさを直視しつつ、希望に溢れたリアルな地方のビジョンを行動力で切り拓くイノベーター」短いフレーズで石崎方規さんを説明するのは難しいのですが、私なりに表現するとこのようになります。石崎さんは、九州佐賀県で運営する特定非営利活動法人価値創造プラットフォームの代表理事で、かつ内閣官房シェアリングエコノミー伝道師 総務省地域情報化アドバイザーでもあります。民泊、カーシェア、オフィスシェアなど、私達の周りで身近になりつつあるシェアリングエコノミー。石崎さんはこのシェアリングエコノミーの動向をいち早くキャッチし、地方の活性化のために実践、導入されています。“地方活性化”“地方創生”。かけ声だけはいろんな所から聞こえてきますが、未来社会を見据えて、実践している人は少ないように思えます。石崎さんのこのバイタリティは一体どこからくるのか?今回のコラムは、地方の未来を切り拓くイノベーターである石崎さんにお話を伺った内容をご紹介します。是非ご一読ください。

シェアリングエコノミー伝道師・石崎方規氏対談シェアリングエコノミー伝道師の石崎方規さん(右)との対談です。

高橋:石崎さんは、ご出身の佐賀を拠点に、地方にいながら非常にクリエイティブに活躍されていらっしゃいますね。リチャード・フロリダ著「クリエイティブ・クラスの世紀」では、クリエイティブな人材は都市に集まるとされています。確かにそういった面はありますが、最近地方でも石崎さんの様なクリエイティブな人の活躍や、自然に溢れハイタッチな環境を重視して地方での生活を選び、あえて移住するクリエイターなどが目立ちはじめました。本日は、自然の豊かさと人間性溢れる地元佐賀を起点にし、全国でご活躍される石崎さんのクリエイティビティの高さのバックグラウンドや今のお仕事について伺いたいと思います。

石崎:父が屋外広告業を営んでおり、自身も家業を通じて発注者の想いを咀嚼し、形にするということに携わっていました。個店対応や商店街の広告を手掛け、その後NPO組織形態の中間支援組織に所属しました。中間支援組織とはNPO同士やNPOと行政をつなぐ役割で、“つなぐ”という面では広告業と同じです。ただし、自治体が絡むと、例えば選挙のタイミングで方針が変わるといった難しさもあります。またNPOの活動の大部分が無償で、そういったことにも疑問を持つきっかけになりました。そんな時にクラウドソーシングという新しい仕事の形態が出てきて、もしかしたら地方でも離れた所の仕事の請負ができる仕組みができるのではと、思いを強くしました。そこで関係する省庁にコンタクトしていたところ、偶然シェアリングエコノミー協会を立ち上げる話を聞くことができました。シェアリングエコノミーとは、仕事を求める人と、仕事を出したい人をマッチングし、お金を回す仕組みであり、またその仲介をする第三者が喜ぶ仕組みだと共感し、これは地方に活かせるのではないかということで、早速地元佐賀でシェアリングエコノミーに関する講演をアレンジし開催しました。そのような活動が評価され、2016年に内閣官房からシェアリングエコノミー伝道師の任命を受けました。世の中の新たな変化の兆しに気づいてすぐに動いたのが良かったと思います。

高橋:シェアリングエコノミーが普及し始めたのは最近ですね。石崎さんはシェアリングエコノミーに関する知識や、成功要因などを、短期間で習得されたと思います。どのように勉強し、習得されたのですか。

石崎:地方には、資産があるのに使える仕組みがないために、利用されず、結果的に維持費が高い事例をたくさん見て、強い問題意識を持っていました。実際に地方には、歴史的建造物や各種施設、自然などたくさんの資産があるのです。当時自身がすでに取り組んでいたクラウドソーシングの仕事はいずれAIに代替されるという危機感も持っていたので、何か地方の資産を利活用する仕組みは無いかと思い、思い切ってシェアリングエコノミー協会理事に伺いました。同じようなことを東京の省庁でも議論していたため、官庁の方々の佐賀での講演を企画しました。講演会の聴講者は主に自治体の方々でした。そこでシェアリングエコノミーを通じて、民間の力を活用し低コストで地方自治体の持つ眠ったままの資産の活用といった課題を解決できることを伝えました。またシェアリングを通じて経済活動、そして住民も活性化され、さらには地方に住むことの幸福感も上がることを伝えました。

高橋:石崎さんは、シェアリングエコノミーによって経済が活性化され、その結果住民が地方に住むことの素晴らしさを実感できることに当初から気づいていたのですね。

石崎:シェアリングエコノミーをサポートする側に回ることで、住民が幸せを実感できたら良いと思い活動してきました。その結果ですが、シェアリングエコノミー伝道師候補者に挙げられ、2017年3月に認定されました。シェアリングエコノミー伝道師に最初に任命された5人のうち、3人はシェアリングエコノミーのプラットフォーム事業(シェアリングの仲介、マッチング事業)に携わっており、自分を含め2人はシェアリングエコノミー関連のコンサルティングを行っています。

高橋:ここであらためてシェアリングエコノミーとは何なのか、また経済社会へのインパクトを簡単に教えてください。

石崎:一般的にシェアリングエコノミーとは、資産を持っている人、シーズ側とそれを必要とするユーザーのウォンツを仲介するプラットフォームが創り出す新しい経済形態です。従来の経済はものを創り出し、それを必要な人に販売する形態が中心です。しかしシェアリングエコノミーは、すでに獲得した資産を誰かに使ってもらうことで発生する経済取引です。シーズを持っている人がプラットフォームに登録すると、自分で一から調べなくてもプラットフォームを見れば必要な情報が載っているので、すぐにマッチングできます。それによってコストも抑えられて参加しやすい仕組みになっています。

高橋:シェアリングエコノミーは新たに発想したアイデアをスピーディーに市場テスト、最近よく言われるPoC(Proof of Concept 概念テスト)を行いやすいビジネス形態だと思います。なぜならITコストが下がり、誰でもローコストで小さく始められるので、小さなベンチャー企業や個人でも、小さく始められ、修正しながら実験的に事業開発を進めることができるからです。

石崎:シェアリングでは現場の知恵がビジネスになります。今までのシェアリングエコノミーはC2Cが中心でしたが、これからはB2BやB2B2Cや、自治体が入るものが増えていくと思います。例えば、年に数回しか使わない実験計測器などを各社が所有するより、シェアすることで常に最新のものを使えるようにすることができます。計測器メーカーも貸し出しやすい製品・サービスにシフトしてくると考えられます。さらに単に製品を利用し合うのではなく、実験計測機器のうまい使い方、開発手法、場合によっては研究開発そのもので得られた知見などを交換するかもしれません。もっと身近な例で言いますと、事務所も保有やフロアー借りするのでなく、シェアオフィスにすることで、同じビルに入居する他社とのつながりができるという価値を得られます。実際今年日本に上陸した 米国のシェアリングオフィスのベンチャー“WeWork”は、すでに日本数カ所でサービスを開始していますが、オフィススペースを提供するだけでなく、世界中のユーザーをネットワークすることを中心コンセプトにしており、日本でも銀行はじめ大手企業が続々と入居しています。

高橋:労働力もシェアできたら良いと思います。例えば中小企業と大企業両方を経験させるなども良いと思います。

石崎:地方から是非そうした仕組みを生み出していきたいですね。一生一つの会社、組織で働いていても活性化されないし、創造性も発揮されません。特に大企業の人は中小企業で経営に近いことを学び、中小企業の人は大企業から仕組みやシステムを学ぶことが出来ると思います。

高橋:今後地方でどの分野のシェアリングエコノミーが伸びると思いますか。

石崎:特にシェアリングが進んでない分野が農業です。農地を借りるという意識がないので、みんな土地を買うのです。

高橋:Iターンで有機農業をやりたいというニーズはありますが、地域の人とのコミュニケーションの難しさなどもハードルとなっているようです。大学生が1か月間だけ経験するシェアリングや、フリーランスとして期間を決めて農業をやりながら全国を渡り歩いて楽しみながら働くなど、個人の自由度も上げることができるとよいですね。

石崎:地方の農業は専門性が高く、また広域になってしまうので、なかなかシェアリングの検討対象に上がらないのです。またITと農業のつながりがまだ弱く、IT業界の人は農業を知らず、農業の人はITを知らない状態であることも検討が進まない理由のひとつです。また、農業機械メーカーがシェアリングに参加していないのも課題ですね。アメリカではコンバインなど農機のシェアリングがすでに普及し始めています。

高橋:石崎さんと話しているといつもアイデアはどこから出てくるのかと思います。企業の人は必ずしもクリエイティブな仕事ができないこともあり、不安を感じている人が多いのが現実です。世間一般では、クリエイティビティに関して格好よい話が多いですが、実際は難しさや泥臭さがあり極めて人間的なものだと思います。石崎さんのクリエイティビティの源泉は何でしょうか。

石崎:ガジェットが好きでよく見ています。様々な素材を探すのも好きで、そこから何を作るのか、当たり前でないものを作れないか、安価でできないかを探し、加工性も考えています。広告業の中で素材メーカーと積極的に直接会話をするようにしていたため、その中で鍛えられたのだと思います。

高橋:なるほど。様々なものに好奇心、関心をもつことが大切なのですね。

しかしそれにしても通常はクリエイティビティも自身の領域にとどまってしまいがちですが、異なる領域、サービスでもクリエイティビティを発揮できているのはどうしてでしょうか。

石崎:広告業界だけでなく、より“人と人”という素材をつないでいくNPOを経験したことが大きいと思います。家業の看板はものを扱ってお金を生み出します。NPOは人と人をつなぐけれど、お金が生み出されません。シェアリングは人と人をつないで貨幣価値を生み出すことができるのです。

高橋:そこまで強くシェアリングに携わろうという想いはどこからくるのですか。

石崎:父は広告でも個店対応を中心にしていましたが、私は個店ではなく商店街全体を中心にビジネスをしていきました。商店街対応は仕事量が多く、長期間の取り組みになります。また、そこには街づくり要素が加わり、携わっている人は、時間や仕事などをシェアしながら取り組んで行かなければなりません。このような経験から、街づくりのために投資し続けるという責任感を持ち、そこに貢献したいと思ったことからです。

高橋:地方と大都市ではお金の重みに違いがあり、地方は引き締まったビジネスを作るのに良い環境とも考えられます。地方企業はハングリー精神が無ければならず、また取り組みの効果を目の前で実感できます。人材も条件に合わなければすぐに転職してしまう大都市に比べ、一から人材を育成せざるを得ないこともあります。

石崎:地方にはお金はないけれど、人も含め資産があります。その資産を活用することで何かできるという喜びを住人が得られることが、自身の喜びとやりがいでもあります。

 

 

【対談者プロフィール】

特定非営利活動法人価値創造プラットフォーム代表理事/内閣官房シェアリングエコノミー伝道師/総務省地域情報化アドバイザー 石崎方規

佐賀県佐賀市生まれ。2002年からNPO業界に参画し、佐賀県とともにNPO法人設立・運営に従事。2012年に特定非営利活動法人価値創造プラットフォーム設立、2014年に商店街よろず相談アドバイザーとして九州内の商店街支援と同時に、クラウドソーシングによる中小企業支援を開始。2015年からシェアリングエコノミーの啓蒙活動を始め、2016年多久市ローカルシェアリングセンター、基山町ローカルシェアリングセンター設立をリードし、2017年内閣官房よりシェアリングエコノミー伝道師、総務省より地域情報化アドバイザーに任命され、現在に至る。

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