技術者の顧客コミュニケーションと提案活動

顧客経験価値を実現するキーは技術にある

■顧客経験価値実現のキーは技術であることを理解する

前回、仮説段階のものを検証するためには、密度の高いコミュニケーションを通じた顧客との共創が重要であると述べましたが、それを営業やマーケティング部門の人ではなく、あえて技術者自らが行なうべき理由は何でしょうか。それは、顧客経験価値実現のキーが技術にあるからです。

顧客経験価値とは、顧客と自社の製品・サービスとのコラボレーションによって生み出されるものなので、その製品・サービスのベースとなる技術がどれぐらい顧客経験価値を創発するポテンシャルがあるかがキーとなるのです。

ソニーのプレイステーションのようなゲーム機の例を見てみましょう。ゲーム機がどんなレベルの表示・出力性能(画像・音響など)を持つのか、コントローラーの操作感や応答性はどうか、どんな新機能を持つのかなどで、顧客であるゲーマーの経験価値は大きく変わります。同時に、ゲーマー自身もプレイを楽しむためにそれらの機能を使いこなせなければなりません。このように顧客経験価値は、自社の製品・サービス、その背景にある技術を顧客と共創することで生み出されるのです。

したがって、誰かが2次データを活用して作成した顧客分析結果だけでは、顧客経験価値創造も技術開発テーマ設定も難しく、やはり技術者が直接顧客とのコミュニケーションを通して、密度の高い共創を行なっていくしかないのです。

■顧客の営み全体を知る

技術者が顧客との密度の高い共創を行なうには、顧客の営み全体を知ることが重要です。顧客の営み全体とは、BtoBであれば顧客の置かれた市場環境、顧客の経営・事業戦略、財務状況、ブランドや製品・サービス、業務プロセス、技術や設備、人・組織などの経営基盤までを含みます。BtoCにおける顧客の営み全体とは、その人の暮らし、仕事の環境、重視する価値観、生き方、時間の使い方、知識・スキルといった能力などを指します。

これら全体の概要を知った上で、以前のシリーズで紹介した「顧客セグメント調査」のような方法で、顧客のリアルな実態をより深く知る必要があります。顧客の活動の一部を切り取って分析するのではなく、その背景となる顧客の営みすべてを包括的に理解するマインドセットとそのための努力が必要です。

技術者が顧客との共創を通じて、市場環境から経営基盤までBtoB顧客の営み全体を理解する構造を示した図

顧客の営み全体を理解する

顧客の営み全体という複雑な背景文脈を理解するためには、顧客の夢の実現や問題・課題の解決に向けて強い使命感を抱き、それを自社のパーパスとして認識することが必要不可欠です。使命感・パーパスを基軸に顧客とのコミュニケーションを重ねれば、次第に顧客の背景文脈が理解され、密度の高い共創につながるはずです。

そうした取り組みの好事例がApple(アップル)社です。常にユーザーインターフェースを重視するアップルは、最先端の高度なIT技術であっても、ユーザーの操作の一貫性や直感的な利用を想定した製品を作ることで高い経験価値を実現しています。これは、アップルが顧客のデジタルライフという営みにおける悩みや問題・課題の全体を深く理解しているからこそ、可能なのです。

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