技術者の顧客コミュニケーションと提案活動

顧客コミュニケーションは技術者の仕事でもある

■顧客コミュニケーションは技術者の仕事でもある

「顧客とのコミュニケーションは誰の仕事か」と尋ねられたらどう答えますか?多くの人は、営業職やマーケティング職の仕事、と答えるのではないでしょうか。しかし、実際はそうした職種に限りません。研究開発・開発設計はじめ、生産・品質管理、物流、さらには経理、人事、経営管理などのスタッフ部門を含め、会社に関わる人全員の仕事です。なぜなら顧客とコミュニケーションしていないと、どのような製品・サービスを提供すべきか、会社をどう運営すべきかわからないからです。

技術や製品の開発に関わる技術者にとっても、顧客コミュニケーションはきわめて重要な仕事です。どのような技術・製品を開発すべきかは、顧客を理解しているからこそわかるのであって、理解していなければ開発をミスリードしてしまう可能性が高くなります。

PwCコンサルティングと日経BPが協力して2016年と2021年に実施した「新規事業実態調査」によると、いずれの年も、新事業に成功した企業が挙げた成功要因のトップは「顧客ニーズとの高い適合性」、失敗した企業が挙げた失敗要因のトップは「顧客ニーズと適合しない」でした。この結果からも、研究開発、製品・サービス開発においては、「顧客ニーズの理解」とそのための「顧客コミュニケーション」が決定的に重要だということがわかるでしょう。

■技術開発テーマ設定段階での顧客コミュニケーションが大事

では、どんなタイミングで顧客コミュニケーションを重点的に実施すればよいでしょうか。それは、技術開発テーマを設定する前の段階です。技術開発や製品・サービス開発が進んでしまってからでは、もう手遅れなのです。

顧客はどんなことに経験価値を求めるのか、自社の経験価値仮説や製品・サービス仮説は正しいのか、そしてそれを生み出すための技術開発の方向性は正しいのか。こうしたことは、技術開発テーマを決める前に検証しなければなりません。

技術マーケティング戦略仮説をもとに、顧客企業に価値やニーズ、開発テーマの的確さを確認する流れを示した図

顧客経験価値は存在しうるか?

実際には、開発テーマ設定段階で技術者が顧客コミュニケーションを行なっているケースは稀でしょう。先にテーマを設定し、ある程度技術開発が見えてきたところで、ようやく市場調査や顧客ヒアリングに取りかかる、というケースが多数派と思われます。しかし、それでは開発スピードが遅くなりがちですし、なにより、ごく限られた範囲の情報・知識で技術・製品・サービスを開発することになってしまい、テーマ設定段階から顧客コミュニケーションを行なった場合と比較して成功確率は格段に低いはずです。

■技術マーケティング戦略仮説を活用して顧客コミュニケーションを実行する

まだ研究テーマが決まっていない段階で、顧客とコミュニケーションするのは難しいと思うかもしれません。しかし顧客は、注目する市場領域に関して将来どのような新しい製品・サービス、そして技術が開発されるのか、それはどのような顧客経験価値を創造するのかを、いち早く知りたいと考えているはずです。

もちろん、ある程度の準備は必要ですが、技術マーケティング戦略仮説のような構想が存在していれば、それを題材とした顧客とのコミュニケーションは十分可能です。構想に基づいて、未来の市場の動向や新しい価値の発生可能性に関して顧客と議論することは、お互いにとって大きな意義があります。

それはつまり、自社の技術マーケティング戦略仮説の魅力次第で、顧客との議論が創造的なものになるか否かが決まる、ということです。特に新たな顧客経験価値や、業界・エコシステムに大きなインパクトを与える革新的価値に独自性があり新規性が高いかどうか。それが、継続的な顧客コミュニケーションを成功させる要因となります。

顧客コミュニケーションを深める中で、自社の技術マーケティング戦略仮説とは全く異なる意見やアイデアが出てくることがあります。また自社の仮説をさらに深めたり、何か別の要素を追加してくれたりする可能性もあります。こういった密度の高い顧客との共創が、独自の製品・サービスの企画やそれを実現する技術の開発につながるのです。

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