潘様は北京大学でも日本史専攻で中国大手企業日本駐在代表の中でも有数の日本通であり、かつ日中の自動車業界代表メーカーアライアンス提携を実現された手腕とご経験をお持ちです。
日中経済界交流現場の過去・現在をふまえ、また未来の日中のあり方を考えるときに大変示唆にとんだお話を伺うことができました。
今回から計2回にわたり、講義内容を是非皆様にご紹介させていただきたいと思います。
ニューチャーアジア 小川 光久
2010年7月26日(月)開催 ニューチャーネットワークス アジア事業立ち上げ記念講演会の様子
現在わたしの所属する中国第一汽車は1953年に中国発の自動車メーカーとして中国・東北・吉林省長春市に設立されました。設立後中国国産自動車メーカーとして初めての国産自社ブランド“紅旗”を立ち上げました。その後ドイツフォルクスワーゲン・日本トヨタ自動車と事業提携し、2004年には販売台数が100万台を突破し、2007年にはメキシコに進出。NAFTAに工場を所有する最初の自動車メーカーとなりました。
ご覧いただいているのは第一汽車の本社正門の写真です。
ここで少しだけ自己紹介をさせていただきます。わたしは1963年に北京大学歴史学部でアジア史、日本史を専攻しそのときに日本語も勉強しました。その後1970年に第一汽車に入社。1985年には外事管理部いわゆる国際業務部の副部長、そして1989年には進出口公司(いわゆる国際貿易業務会社)の副総経理を勤め、そのときに日本部品メーカーとの合弁交渉に携わりました。その後1998年に第一汽車日本支社を立ち上げ、その後日本自動車メーカーであるトヨタ自動車との合弁交渉そしてマツダとの技術提携にも携わりました。
尚、私の趣味は日本書籍の翻訳で自動車技術書以外にも好きな星新一さんのショートショートの翻訳も手がけ、中国で出版しました。
■中国自動車産業の現状と課題
ご承知の通り中国の自動車産業はここ20年来急速に発展しています。1990年には中国国内での生産台数は約90万台、2000年には約200万台、2010年上半期では847万台でした。通算生産見込み台数は約1640万台にのぼります。中国政府及び研究機構によると、2020年までに中国の自動車生産量は3160万台にも上る発展速度の予測が見込まれています。
過去20年間をみると、中国の自動車生産量は約18倍にまで増え、中国は現在世界最大の自動車生産国となりました。中国の自動車産業の成長祖速度は世界の自動車発展史上奇跡だともいえるでしょう。世界金融危機発生後、全世界の自動車産業は多大な打撃を受けました。数十年にわたり世界での自動車生産大国であったアメリカは、現在大きな変革過程を迎えています。日本も同じく、様々な問題に直面しているといえると思います。
そんな中、中国の自動車産業はかつてない速度で発展しています。その発展速度と、広い意味での経済発展の速度は密接に関係しているといえます。一般的に、国民一人あたりのGDPが$1,000を超えた時、この国はいくらかゆとりある社会になったと考えられ、$3,000以上に到達したとき、マイカーブームに入ると言われています。
中国政府は2020年までには全国民がいくらかゆとりのある社会を実現すべく目標を発表しました。2020年までに中国の自動車生産量は3160万台を生産できると確信しているといえるでしょう。このように、中国の自動車産業はかつて無い程の発展を遂げています。しかしながら一方で様々な問題が存在しているのです。
①自動車生産企業数が多すぎて、ほとんどの企業はスケールメリットを生かせるような大量生産の規模には届いていない
現在中国の完成車生産企業は150社程度あり、その大多数の企業の生産規模はとても小さいのです。そのためスケールメリットを生かせるほどの生産規模に届いていないというのが現状です。(ちなみに一般的に競争力のある自動車企業一社で、年間生産能力は100万代以上あるべきだと考えられています)
②企業の開発能力が弱く、自主ブランド製品を開発するための技術水準が低い
一つ一つの自動車メーカーの規模が小さく、よりよい製品の開発や、そのための開発センターを目的とした十分な資金投資ができていない状況です。また、比較的大きなメーカー企業は、多くの同規模外資系自動車メーカーと合弁企業を作っています。そのため、自己開発能力の構築に重きを置いていないといえます。
目下中国の町中の自動車をみると、世界中のメーカーの自動車が走り回る世界自動車博覧会ともいえるでしょう。市場で販売されている乗用車の中で、国産ブランドの自動車は50%にも満たないのです。さらに、中国メーカーが独自開発したブランドであったとしても、外国のコンセプトや商品基礎をかいまみることができます。現在中国政府も中国企業に対し、更に競争力を持った自主ブランドの開発を独自開発するよう推進しています。予測では近い将来、中国の自動車企業が独自で開発した自動車が市場での主要な商品となることでしょう。
③商品の競争力が強くないため、海外市場の開拓能力に影響を与えている
中国の自動車生産量はすでに従来の巨大生産市場であるアメリカ日本を超えているにもかかわらず、その自動車は海外市場での市場占有率は非常に低いという現状があります。2010年上半期では中国国内で847万台、海外輸出されたのはたった19万台強のみで、たった2%強に過ぎません。数字からみれば非常に低いことがわかると思います。
問題は海外メーカーの商品と比べ、競争力が低く、さらに海外における販売網の建設が整っていないという点があります。販売サービスの質が低く、これらは今後解決されるべき課題だといえるでしょう。
④商品構造がしっかりしておらず、国産ブランドの自動車の多くは低価格商品である
中国メーカーが販売する自動車は一台あたり5万から10万元以下価格帯のものが主流です。本当の意味で市場規模が拡大する見込みが強く、しかも利益が見込まれるのは中高級自動車であるにもかかわらず、それら中高級自動車の多くは外国のブランドで占められています。次の10年の中で国民の購買能力が向上するにつれ、価格は10万元以上20万元未満程度の中級車が人々の購入対象車となると見込まれています。そのため、中国の自動車メーカーも、これらの価格帯の中級車の開発に尽力すべきだと考えられます。目下中国の海外輸出自動車一台あたりの平均販売価格は$1.39万です(日本円で約139万円)。
(次号につづく)
当日の様子はこちら⇒
ニューチャーネットワークス「アジア事業立ち上げ記念講演会・懇親会」
潘 力本(PAN LI BEN)
・所属・役職
中国第一汽車集団公司(FAW) 日本支社長
エフ・エイ・ダブリュー日本株式会社 代表取締役
・略歴
中国吉林省生まれ。1963-68年 北京大学 日本史専攻。1969年中国第一汽車(FAW)本社入社。外事部副部長、進出口公司副総経理歴任。1998年より第一汽車・日本支社着任 FAWと日本自動車メーカー トヨタ自動車、マツダとの事業提携を手がける。
・著書・訳書など
自動車技術書翻訳多数
星 新一 「ショートショート」翻訳