■プロジェクト目標が達成できない理由は何か?
実行計画通りに進められず、目標を達成できなかったプロジェクトでは、進捗の遅れの理由として、メンバーから、「事業環境が変化した」、「通常業務が忙しいため、プロジェクトに時間を割けなかった」、「リーダーからの指示が明確でなかった」などといった言い訳が出てきます。
一方、目標を達成できたプロジェクトは、進捗の遅れが発生した際、迅速・柔軟に計画を修正しています。プロジェクトリーダーは、マネジメントチーム、戦略サポーターの協力を得ながら、メンバーが言い訳できない環境をうまく作っています。
今回は、プロジェクト実行段階において、目標達成を実現するための取り組みについて紹介します。
■ブレークスループロジェクトで直面する課題を解決する
プロジェクトメンバーは、組織内外からの反発、自身の業務負担増などストレスが多く困難な状況の中でプロジェクトに取り組むことになります。こういった状況は、メンバーのプロジェクトに対する意欲を減退させ、活動量が落ち、その結果として、進捗の遅れを招くことになります。プロジェクトチームが、そのような状況にならないためには、以下の4つの取り組みを徹底的に実行することです。(図1)
- プロジェクトリーダーによるメンバーへの実行フォロー
- プロジェクトリーダーがメンバーの活動状況を毎日把握
- プロジェクトリーダーによるプロジェクト関係者への定期的な進捗報告
-
プロジェクト戦略会議によるプロジェクト実行支援
図1:ブレークスループロジェクト実行段階の取り組みのポイント
1.プロジェクトリーダーによるメンバーへの実行フォロー
プロジェクトリーダーは、メンバーのプロジェクト活動量を増やすと共に、能力を最大限発揮できるようにします。そのために、プロジェクトリーダーは以下の働きかけを行います。
●メンバーがプロジェクト活動を優先できる環境を作る
ブレークスループロジェクトに参加しているメンバーの多くが、通常業務と平行してプロジェクトのタスクに取り組んでいます。そのため、メンバーの中にはプロジェクトへの意欲はあるものの、プロジェクト活動の時間が取れないといった事態が起こります。
プロジェクトリーダーは各メンバーがプロジェクトにできる限り集中できるように、プロジェクト以外にどのような業務行っているか把握します。プロジェクト活動の妨げとなっている業務が明確になったら、その業務をなくす、もしくは、他の組織のメンバーに割り当てるなどの対処をします。
●具体的なアクションプランを提示する
プロジェクトリーダーは、メンバーがプロジェクトに対する当事者意識を持つようにします。プロジェクトリーダーは、まず、各メンバーの役割・ミッションを明確にします。そして、メンバーごとのアクションとその目標が何かを示します。
プロジェクト活動中、メンバーが現在「やっていること」と、実行計画に基づいた「やるべきこと」とが一致していない場合は、メンバーはプロジェクトの目的やゴールを見失い、メンバーのモチベーション低下を招くことになります。組織変革を伴うプロジェクトには、ストーリー性、つまり最低限必要なアクションプランが具体的な作業レベルで示されていることが必要になります。
●進捗が遅れている実行課題を明確にし、解決策を一緒に考える
メンバーの活動が計画よりも遅れている場合、その原因は何かを明確にします。プロジェクトの進捗が遅れる原因は、以下の4つに分類することができます。(図2)
- 組織的な障害によるもの
- メンバーの心理的な壁によるもの
- メンバーのスキル・能力によるもの
-
環境要因の変化によるもの
図2:プロジェクトの進捗遅れの原因を見つける
組織的な障害の場合は、プロジェクトチーム内で解決することが難しい場合が多いため、戦略サポーター、マネジメントチームと共に解決策を検討します。
メンバーに心理的な壁がある場合は、メンバーが行動するためのきっかけを作ります。まず、プロジェクトリーダーが一緒になってアクションに取り組み、やり方を示します。メンバーが「自分でもできる」という意識、気づきを持つまで一緒になって行動します。
メンバーのスキル・能力によるものは、不足しているスキル・能力が短期間で身につけられる、もしくは、その人の将来の成長に必要である場合は、知識習得の機会やツールを提供し、能力開発を行います。緊急を要する場合は、必要なスキル・能力を持った人にサポートを依頼します。
環境要因の変化によるものついては、プロジェクトリーダーは戦略サポーターと共に内外の事業環境を再度確認します。実行計画立案時から事業環境が大きく変わっている場合は、当初設定した目標の見直し、アクションプランの修正を迅速に行い、メンバーへ提示します。
●メンバー個人が成長するための課題を示す
メンバーがプロジェクト活動を通じて自身の成長を実感することで、プロジェクトへの参加意識を高めることができます。
プロジェクト計画立案時に、プロジェクトを通じてメンバーに身につけてもらいたい能力・スキルを「メンバー選定シート」にて明確にしています(第10回 ブレークスループロジェクトによって新たな組織体質をつくる(2)参照)。プロジェクトリーダーは、このシートに基づいて、プロジェクト活動を通じたスキルの習得機会を提供します。
2.プロジェクトリーダーがメンバーの活動状況を毎日把握
各メンバーの活動内容を毎日確認することで、効率的なプロジェクト活動と問題への迅速な対処が行えます。
●活動における成功事例を共有し、自分の活動に活かす
成功事例をどれだけ早く作ることができるかが、プロジェクト全体の成功に大きく影響します。プロジェクトの初期段階で成功事例を作るために、まずは成功しやすそうな取り組みを選び、そこに資源を集中して成果を創出します。例えば、営業に関するプロジェクトの場合は、目標達成しやすいターゲットに対して営業活動を集中して行い、従来では達成できなかった売上実績をつくりあげます。組織改善・改革に関するプロジェクトの場合は、改善・改革プログラム実施の協力を得やすく、効果が現れやすい組織において活動を行い、パフォーマンスの飛躍的向上などの事例を作ります。
●活動時の問題・課題を早期発見し、解決する
プロジェクト活動で発生した問題・課題は、メンバー個人が原因で生じたものとしては考えず、組織的な問題・課題として起こるものと考えます。チームミーティングで発生している問題を共有し、解決策を検討します。また解決策を組織のノウハウとして蓄積することで、当該プロジェクト以外で同様の問題が発生しても迅速に対応できるようになります。
プロジェクトチーム内で解決できない問題は、マネジメントチームの力を借り、迅速に解決していきます。
3.プロジェクトリーダーによるプロジェクト関係者への定期的な進捗報告
プロジェクトリーダーは、プロジェクトの進捗状況を戦略サポーター、マネジメントチームに毎週報告します。報告内容は、①現在までの目標達成の状況②活動に対する問題・課題③それらを踏まえた今後のアクションを示します。また、マネジメントチームに検討してほしい懸念事項も併せて示します。
戦略サポーター、マネジメントチームへの定期的かつ適切な報告を怠ると、リカバリー戦略の提示や資源投入の遅れを招き、プロジェクト停滞によるロスの拡大、ひいてはビジネスチャンスを逸することになりかねません。
4.プロジェクト戦略会議によるプロジェクト実行支援
マネジメントチームと戦略サポーターは、プロジェクト戦略会議を定期的に開催します(少なくとも2週間に1回)。プロジェクト戦略会議では、プロジェクトリーダーによる進捗報告をもとにプロジェクトメンバーで解決できない課題、環境変化に対する戦略的な解決策など、プロジェクトを進める上でのボトルネックや障害について議論します。プロジェクト戦略会議の検討結果をもとに、戦略サポーターとマネジメントチームは、各プロジェクトに対して以下の支援を行います。(図3)
図3:プロジェクト戦略会議によるプロジェクト支援の流れ
●進捗の遅れに対する新たな戦略の提示
マネジメントチームは、プロジェクトの進捗が遅れているチームに対するリカバリー戦略を考えます。戦略の方向性は、プロジェクトリーダー、メンバーにしっかりと伝え、戦術は全て提示しないようにします。メンバーからボトムアップで戦術を引き出すことが、プロジェクトチームの自主性・成長を促すことになります。
●目標の再設定
プロジェクトの目標は、組織の中長期の戦略目標につながっています。目標を変更することは、中長期の戦略目標そのものを変えることになりかねません。
しかし、プロジェクトスタート後に目標達成が著しく困難であることが分かった場合は、目標の見直しをプロジェクト戦略会議で検討します。あまりにも高すぎる目標は、メンバーのモチベーションを下げることになります。
プロジェクト戦略会議において、目標達成が困難だと判断した場合は、プロジェクトリーダーは戦略サポーターと共に目標の再設定を行います。再設定された目標は、プロジェクトオーナーの承認を得たのちに、プロジェクトのアクションごとに新たな目標として設定します。
プロジェクトの目標を変更する原因は、実行時の取り組みによる問題だけではありません。目標設定時における内外の事業環境認識の甘さ、実行計画の精度の低さが大きく影響します。
●経営資源(メンバーの補充、入れ替え、投資、外部リソース)の投入支援
マネジメントチームは、新たな経営資源の投入によって、停滞しているプロジェクトの状況を打破できる、または当初の目標よりも高い成果が出る可能性があるかについて、常に注意を払っておく必要があります。
人的資源の投入は、メンバーのプロジェクト関与時間が絶対的に不足している場合や、特定のスキルを持った人材が必要な場合に検討します。
投資や外部リソースの投入は、当初の目標よりも高い成果が出る可能性がある場合に行います。
ブレークスループロジェクト実施の目的の一つとして、「既存の経営資源を最大限に活用して目標を達成すること」があります。そのため、マネジメントチームからプロジェクトへの一方的な経営資源の投入は、プロジェクトメンバーの成長を阻害するだけでなく、彼らのプライドを傷つけ、モチベーションの低下を招く可能性があります。経営資源の投入に際しては、プロジェクトチームからの要望があったとき、もしくは、プロジェクトリーダーに必要性を確認してから行います。
●メンバーのスキルアップのためのスキルアップ研修の実施、実行支援ツールの提供
ブレークスループロジェクトの実施は、組織と個人に高い業務負荷をかけます。これまでの仕事のやり方では対応できない状況に置かれることで、組織、個人にどのようなスキルや知識が不足しているかを明らかにします。
マネジメントチームはプロジェクト実施期間で各チームが行き詰るタイミングを見越して、市場分析、マーケティング戦略立案、業務改善、営業などのスキルアップ研修実施の準備をあらかじめしておきます。研修実施以外では、上記のスキル不足を補うための支援ツール(顧客・競合分析、業務分析、提案書作成フォーマットなど)を提供します。
現場で必要とされる研修の実施、支援ツールをタイミングよく提供することで、従来の人材育成研修では得られなかった効果的・効率的な知識・スキルの習得が可能になります。
●成功事例の共有・フィードバック
プロジェクトの成功事例についても共有します。プロジェクトリーダーやメンバーは、自分が関わっているプロジェクトで精一杯のため、他のプロジェクトの成果や成功事例を把握することができません。そのため、戦略サポーターは担当プロジェクトチームへ他チームの成功事例のフィードバックを行い、メンバーの活動に刺激を与えるようにします。
ブレークスループロジェクトの取り組みの目的は、プロジェクト目標達成による業績向上を実現することだけではありません。組織に高いストレスを与えることで、組織の本質的な問題点を明らかにし、組織の意識・行動改革を実現します。
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