経済の混乱が収まり、アジア特に中国を中心に世界経済は再び成長基調に入ってきました。現時点でのビジネスの論点は大きく2つあると考えます。
1つは日本国内市場の競争のより一層の激化。各業界とも国内市場から撤退せざるを得ない企業が出てくると思われます。戦略計画の適確さ、緻密さだけではなく、競争に勝ち抜き生き残れるだけの、経営トップや管理職の市場状況の把握力と、それを実行しきる現場力など、組織体力の強さが問われます。
2つめは海外ビジネスの展開の戦略実行スピード。急速に成長する中国、インドネシア、ベトナムなどの市場で、欧米、韓国そして中国、台湾企業との競争で勝ち抜くことができるか否かは、じっくり腰を据えて計画を練り上げるのではなく、市場で素早く動きながら、アクションからフィードバックされたアイデアを戦略計画に反映させ、再びアクションできるかにかかっています。
今日の国内、海外のビジネスに共通して言えることは、緻密な計画よりも、計画立案から実行までのスピードと経営トップも含めた素早い組織学習が重要であり、そのために“行動を中心とした強い組織体質”を構築していることが必要です。本コラム「ブレークスループロジェクトによって新たな組織体質をつくる」では、前回ブレークスループロジェクトの全体像を、実行組織体制に関してお伝えしましたが、今回は、「ブレークスループロジェクトのテーマ設定セッション」に関して解説します。
■『プロジェクトテーマ設定セッション』の具体的な進め方
あらゆるプロジェクト計画でもっとも大事なことは、プロジェクトの顧客、参加メンバー、関係者にとってどれだけ魅力的なものを企画できるかです。テーマが魅力的でなかったり、その思いが周りに十分伝わらず、関係者に当事者意識をもってもらえなかったりすると、プロジェクトは進みません。
「昨年と何が違うの?」「それやって意味があるの?」「上から言われたから?」など現場のメンバーは多くは口には出しませんが、失敗するプロジェクトは、そもそも経営幹部が示すプロジェクトの魅力が乏しいことが多いようです。
ブレークスループロジェクトでは、様々な発想で、プロジェクトテーマの“緊張感”を高める工夫をします。プロジェクトテーマの“緊張感”を作り出すには、下記のような基本視点が重要です。
- 組織の戦略計画の成果目標に直結しているテーマであること
- 目標達成の期間が8週間から12週間と短く区切ってあること
- 逃げられない、言い訳を許さない明確な数値目標、条件設定であること
- 目標が達成できない場合、組織が危機的状況に陥るようなテーマであること
- プロジェクトメンバー、関係者全員のプライドにかけて行わなければならないもので、当事者意識を持てるテーマであること
- ターゲット顧客、ライバルが明確に意識され、勝ち負けが明確なテーマであること
- 目標を達成した場合の達成感が高い刺激的なテーマであること
以上のようにブレークスループロジェクトのテーマ設定とは、組織に緊張感を与え、その緊張感があるが故に、集中力、素早い行動力、学習力、柔軟性や発想力など、組織のトップから現場まで組織全体の体質を向上させてくれます。
ブレークスループロジェクトでは、『プロジェクトテーマ設定セッション』で以下のような手順を踏むことで「緊張感のあるテーマ」設定と組織の合意を得られます。
■ステップ1:中期経営計画の確認とテーマ検討
ブレークスループロジェクトのテーマや目標設定を行う際に最初に問題となるのは、中期計画そのものの質です。「毎年経営トップから降りてくる目標と計画だから仕方ない」というあきらめによる、思考停止状況がよく見られます。妥当性がなく不明確な戦略は、ブレークスループロジェクトをきっかけに、可能な範囲で見直すべきです。見直し作業は経営トップ、組織トップなど組織上位層で行われるべきものです。具体的な進め方、ポイントは以下に解説しますが、重要なことはブレークスループロジェクトという、明確で短期的目標とその具体的なアクションを考えた場合、現在の中期経営計画がほんとうに正しいのか、明確なのかをより具体的に考え直すことです。具体的な行動に落ちない経営計画は、戦略計画として、何か不備な点があるはずです。
【ステップ1の進め方】
ステップ1は、オーナーと戦略サポーターが中心になって行います。
- プロジェクトオーナーが中期経営計画を踏まえてブレークスループロジェクト全体の実施目的と達成目標を示す
- 戦略サポーターは、担当する部署の中期経営計画と現在の事業環境を再度整理し、目標達成に向けた現状の課題を明確にする
- 目標達成に向けて戦略の見直し、新たな戦略の企画を行い、それを実行するための行動指針を示した『戦略策定シート』を作成する
- 策定した戦略と行動指針から、目標達成に向けた取組のシナリオを描き、『戦略ロードマップ』を作成する。
- 作成したシナリオのうち、目標に直結するものをテーマ案として複数挙げる。
【ステップ1のポイント】
●実施目的と達成目標の共有
ブレークスループロジェクトを行い、組織一丸となって短期集中で目標達成するには、
- 実施目的、達成目標が戦略サポーター、マネジメントチームのメンバーで共有され、目標達成へのベクトルが揃っている
- プロジェクトの成否が組織の業績に大きく影響するという危機感を認識する
といったことが必要となります。
●目標達成に向けた戦略企画力
業績向上に直結した戦略を立案するためには、最優先で取り組むべき戦略は何かを明確に示す必要があります。問題の解決に直接役立つこと、リスクを機会に転換するための効果的な打ち手が考えられていなければなりません。そのためには、
- 現在の組織内外の事業環境を外部・内部の両面で把握すると共に、それがどう変化するかが予測されている。
- 事業環境の変化によって生じる機会と脅威を考え、その機会を活かして脅威を減らすという視点で戦略が立案されている。
- 過去のやり方にこだわらない新しく意欲的な戦略になっている。
- 数値目標が入っており、その根拠(ターゲット顧客リストなど)が明確になっている。
- 既成概念、慣習を打ち破るために「柔軟性」、「機動性」が求められる行動規範になっている。
といったことがポイントとなります。
●シナリオ展開、実施テーマ案の妥当性
目標達成のシナリオは、あらゆる視点で今ある資源を最大限活用し、これまでの常識を超えた発想をもって作成することが求められます。シナリオを構成する取組みはテーマ案として落とし込まれます。テーマは、誰もがわかるように絞り込まれた明確かつシンプルな目標と方針で示します。挙げられたテーマ案は、
- 戦略実現のための効果的なテーマが見つけられている。
- 組織のリソースを最大限活かしたテーマになっている。
- 環境変化に対応するための複数のテーマ案が挙げられている。
- 各テーマ案の与件、戦略的意味づけが論理的に示されている。
といったことが重要となります。
■ステップ2:テーマ企画とリーダー・メンバー選定
ブレークスループロジェクトのテーマ企画は、重要な戦略構想およびメンバーの士気向上プロセスです。一見単純に見えるプロジェクトテーマやゴール設定も、中期経営計画の中での位置づけ、競合との競争上の位置づけが明確にされているか、優先順位の高い課題とは何か、その課題の解決策と具体的なアクションは何か、それは誰がどのように行うのか。失敗した場合のリスク対策はあるのか。といったように、「行動すること」を前提に企画した場合、様々な検討要素があり、容易な作業ではありません。
また、リーダーやメンバーの選定も、次世代の経営幹部、リーダーの育成が前提でなければモチベーションを引き出すことは難しいと思われますし、プロジェクトの中で、リーダー、メンバーがどのような能力、スキルを身につけるのかを意識させなければたとえ選抜したとしても成長は期待できません。
以上のようにテーマ企画とリーダー・メンバーの選定とは、それぞれプロジェクト全体と参画する各個人にとっての意味や意義を作り出す重要なプロセスと言えます。
【ステップ2の進め方】
ステップ2では、戦略サポーターが中心となり、プロジェクトで取り組むテーマの目的と達成目標を明確し、実行リーダーとメンバーを選定します。
- 戦略サポーターは、テーマ検討にてリストアップされたテーマ案をもとに「目標・戦略への影響度」と「実行の難易度」から取り組むべきテーマを決定する。
- 決定したテーマは、達成目標と実施目的・背景を中期目標、戦略ロードマップを元にして『テーマ企画シート』で示す。達成目標は、長くても3ヶ月以内の期間で設定する。
- テーマ実行のリーダーとメンバーの選定を行い、『メンバー選定シート』にメンバーの役割を示す。
- メンバー選出ミーティングを実施し、プロジェクト間でメンバーが重複しないようにする。
【ステップ2のポイント】
●テーマ企画力
ブレークスループロジェクトで取り組むテーマが、単に実施目的と目標が示されているだけでは、プロジェクトの実行主体となるリーダー・メンバーには「やらされている」というように捉えられかねません。戦略サポーターは、プロジェクトの戦略的位置づけと、どのような意識をもって取り組んでもらうかを明確に示すことで、組織的一体感とメンバーのモチベーションを高めます。
- 中期経営計画を実現するために最優先で取り組むべき戦略が明確になっている。
- プロジェクトの行動指針は、今後プロジェクトを進めていく上での判断基準・価値基準となっている。
- テーマの達成目標は定量的かつストレッチされたものである。
- テーマの実施目的は、誰もが納得できるように示されている。(戦略サポーターの想いだけでテーマ設定していないか)
- プロジェクト関係者はもとより、関係者以外にも覚えてもらえるようなテーマ名である。(共感を得やすいテーマ名の設定によりプロジェクトの協力者を得やすくなる)
- 今回取り組むテーマと近しい内容で、既にプロジェクトを実施している(実施していた)場合は、ブレークスループロジェクトで改めて実施する意味が示されている。
- テーマは全て数値目標があるとは限らない。その場合は、成果に結びついたことが客観的に納得できる達成基準を明確にする。
●実行リーダー・メンバーの妥当性
プロジェクト実行のリーダーとメンバーは、組織の将来を担う人材で構成する必要がありますあまりにも経験豊富な人材が集まったプロジェクトチームは、過去のやり方や従来の組織の枠組みでプロジェクトを実行しがちになります。既成概念の打破、挑戦的な方法での取り組みを行える比較的若手の人材をメンバーに選出します。
高度な専門知識や多くの経験を持った人材が必要な場合には、都度協力を得られるように、戦略サポーターやマネジメントチームが環境を整えます。
- 組織横断的なメンバー構成である。(特定のものの考え方、習慣を排除)
- その分野である程度の知識を有し、3年後、5年後に事業の中核的な役割を担うメンバーが選定されている。
- 物事を前向きにとらえられ、チャレンジ精神のある人材が選ばれている。
- 選抜されたメンバーであることを説明するなど、モチベーションを高める工夫がある。
- メンバーは複数のブレークスループロジェクトの掛け持ちをしていない。(ひとつのプロジェクトに集中してもらう)
- プロジェクトにおけるメンバー個々のミッションが具体的に示されている。
- 戦略サポーターは、各メンバーに対してプロジェクトを通じて向上して欲しいスキルや意識が明確になっている。
■ステップ3:テーマ企画のプロジェクトオーナー承認
プロジェクトの失敗の一つに、初期の段階でプロジェクトオーナーが、プロジェクトテーマの公式な承認を行わなかったことに起因するものがあります。公式な合意形成が行われなかったために、オーナーが知らない間に、何かを理由に目標値がすり替えられたり、メンバーが外れたり、変わったりしていることがあります。そのようにプロジェクトが非公式に変更されることで、プロジェクトの緊張感がなくなり、達成感も低くなります。
プロジェクトのオ-ナー承認は、オーナー自身の責任認識を高め、プロジェクトへの関わりを強くします。各プロジェクトへのトップの関与が強くなれば、組織内での行動の優先順位も明確になり、まわりの協力も得られやすくなります。
また承認プロセスを通して、プロジェクトリーダー、メンバーは経営トップの視点や考え方とはどのようなものなのかを学ぶことができます。
【ステップ3の進め方】
テーマ承認会は、「テーマ企画シート」をもとに行います。「戦略企画シート」、「戦略ロードマップ」は、テーマの目的、達成目標の根拠として用います。マネジメントチームの事務局的立場のメンバーは、テーマ承認会に先立って各シートの妥当性を事前に確認します。
オーナー承認後の実施スケジュールやプロジェクト進捗報告方法を示す必要もあります。
- マネジメントチームによる「テーマ企画シート」の事前確認を行い、内容が不十分な点の修正を行う。特に目標設定については、設定指標と達成水準が適切かを十分に確認する
- テーマ承認会を実施し、テーマ実行の可否を検討する
- オーナー承認が得られなかったテーマについては、指摘内容を修正し、再度テーマ承認会を実施する
- オーナー承認が得られたテーマは、プロジェクトの実行を開始する
【ステップ3のポイント】
テーマ承認会は、各戦略サポーターとマネジメントチームが一同に集まってオープンな場での議論を通じて行う必要があります。オープンな場で承認を行うことによって、ブレークスループロジェクト全体の実施目的、各プロジェクトの目的と目標に対する意識合わせを行い、経営トップ、幹部のコミットメントを明らかにします。
テーマ承認会においては、下記の点が明確になっているかを議論します。
- 中期経営計画の目標達成のために必須となる取組みである。
- テーマを選んだ目的・理由が明確に示されている。
- ブレークスルーすべき点が明確に示されている。
- 企画内容は、テーマ承認会参加メンバーが理解できる言葉で記述されている。
- 目標値はストレッチされたものである。(対比なら130%程度、または、全く新規の取り組み)
- 定量的な成果指標が設定されている。
- 成果指標は主となる指標とともに、それにつながる先行指標が設定されている。
- 組織横断的に取り組んだテーマである。
- 競合や業界全体の動きが見据えられている。
- 企画内容が承認されない場合の再提出期日、提出先が明確である。
オーナー承認が得られたプロジェクトは、戦略サポーターからプロジェクトリーダーとメンバーへプロジェクト実行の目的、目標を伝えます。
プロジェクトリーダーとメンバーは、テーマ企画書をもとにプロジェクトを実行するための具体的な計画作りに入ります。
次回のコラムでは、『プロジェクト実行計画作成セッション』の具体的な進め方について説明をします。
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