製品トレンドや事業環境の変化、生活者の購買意欲、ライフスタイル、価値観などのビジネス環境が大きく変化する中で、生活者ニーズを製品に反映させる必要性がますます高まっている。弊社でも製品企画ご担当者と生活者が一緒になったコンセプトメイク企画やタウンウォッチングなどのプログラムを実施しているが、アンケート調査や定量データからは把握できない生活者の本音を知り、新製品開発に反映できると好評だ。
初対面の生活者と打ち解け、製品企画の知識がない生活者との会話から有益な情報を得なければならないなど手間がかかる調査方法ではあるが、ちょっとした工夫で生活者が心を開いてくれる環境を作ることはできる。
今回は、生活者とのワークショップを実施する際のポイントをお伝えする。
■ワークショップの実施手順
生活者とのワークショップを開催する場合、例え1日のワークショップでも事前準備などでかなりの時間が必要だ。
実施目的により、集まっていただく生活者の属性や人数、実施場所、実施時間などは異なるが、生活者に参加いただくワークショップの基本的な実施内容は次のようになる。
1. 事前準備
- 実施目的の明確化
- 仮説、検証ポイントの確認
- 生活者属性、募集人数の決定
- 手法の決定
- 生活者リクルーティング
2. ワークショップ実施(当日)
3. 実施後フォロー
- ディスカッション内容まとめ
- 追加アンケート
生活者に集まっていただき意見交換をする時間を持つことのメリットは大きいが、実施目的や検証ポイントを曖昧にしたまま当日を迎えると、ワークショップが生活者との取り留めもない会話で終わってしまい、ディスカッション内容がその後の新製品開発に全く役立たないこともしばしばある。
生活者とのワークショップを成功させるポイントは、一重に事前準備をどれだけ丁寧に行うことができるかに掛かっている。
■事前準備のポイント
それでは事前準備ではどのような注意が必要か。
まず準備期間は少なくとも1~2ヶ月位は必要だ。その中で、以下のことを検討していく。
- 実施目的の明確化
なぜ生活者とのワークショップが必要なのかを明らかにする。新製品開発スケジュールの初期のコンセプト企画の段階なのか、新製品ができあがった最後のプロモーション企画の段階なのかによってもワークショップの目的は異なる。今までにワークショップを実施したことがある場合は、前回の課題も踏まえ今回の目的を明らかにし、参加者全員が共有できるようにする。
- 仮説、検証ポイントの確認
企業内で既に行った分析結果や、企業の担当者がどのような仮説を持っているかを確認し、ワークショップで検証すべき項目と優先順位を明らかにする。例えば、製品の機能を深く追求したいのか、使用シーンを含めたプロモーションアイデアを検証したいのかなど、企業の強み弱みを考慮しながら企業の担当者が悩んでいることを整理する。
- 生活者属性、募集人数の決定
目的や仮説を明確にすることで、参加してもらう生活者の属性(性別、年齢、年収、職業、居住地、趣味など)を決定することができる。ワークショップの目的や企業の担当者の参加人数により、募集人数も決定する。
- 手法の決定
ワークショップの実施時間や場所、手法も目的に応じて検討する必要がある。
例えば、ワークショップの会場は、企業の会議室だけとは限らない。雰囲気のある喫茶店やギャラリーでも良いし、生活者にリラックスして欲しいなら生活者がいつも行く場所や自宅も考えられる。
- 生活者リクルーティング
実施概要が決定したら、募集条件に合う生活者をリクルーティングする。時間に余裕がある人ばかりではないので、リクルーティングは少なくとも1ヶ月前には開始したい。その際、ワークショップの目的や参加条件を明記した募集要項や機密保持契約など、必要な書類を準備する。個人情報を扱うので、あらかじめ企業の法務担当者への確認も必要だ。
事前準備で特に重要なのは、仮説や検証ポイントの確認だ。企業の担当者と今回のワークショップの制約条件(ターゲット顧客、製品の原料や素材、チャネルなど)を詳細に確認する必要がある。早い段階で仮説や検証ポイントを明確にすることで、ワークショップに参加する生活者の属性を絞り込むことができ、ワークショップ当日の進行スケジュールも反映することができる。例えば、若年層向けの飲料の開発のために、ターゲットとなる生活者を集めるとする。ここで、新製品は炭酸飲料が前提であることを認識せず性別や年齢だけで生活者を募集してしまうと、炭酸飲料が苦手な生活者が参加してしまうおそれもある。この場合、生活者の募集要項に必ず炭酸飲料に抵抗がない方という条件を入れることが不可欠になる。
■ワークショップの実施
ワークショップ当日までに、会場の下見、企業の担当者も含めた役割分担、使用ツールの準備、進行スケジュール作成を完璧にしておくことで当日の運営がスムーズになる。
生活者巻き込み型のコンセプト手法については、以前に紹介したのでそちらを参考にして欲しい。
2日間のワークショップであれば、始めはぎこちなかった生活者と企業の担当者のやりとりも次第に打ち解けることができるが、1日、半日のワークショップでは、生活者が本音を語りやすい雰囲気をいかにつくることができるかがポイントとなる。
また当日は生活者との会話に集中してしまい、誰もメモを取らない状況にもなりやすい。写真、会話の記録がキチンとできているか、適時確認することも必要だ。
ワークショップは生活者のリアルな声を聞くことができる場でもあるが、同時に企業の担当者が真剣に生活者のことを考えていることをアピールできる場でもある。実際、弊社で実施しているワークショップに参加した生活者の中で、企業の担当者と接することですっかりその企業のファンになる方も多い。
■ワークショップ後のフォロー
ワークショップ終了後はあまり時間をあけず、ディスカッションした内容を検証ポイントにそってまとめ、製品企画にフィードバックする。生活者から出てきた意見をどのように判断するか、生活者の声との距離の取り方は担当者に委ねられる。ワークショップで聞き漏らしたことや、発言についてさらに深堀したい場合は追加でアンケート調査を実施することも考えられる。
■戦略的に生活者とコミュニケーションする
企業の製品開発は生活者視点で考えているようだが、実は会議室での社内検討が多く、生活者とのコミュニケーションが不足しがちである。結果として、生活者ニーズから離れた製品開発が繰り返されてしまう。生活者とのワークショップに参加した企業の担当者は、生活者視点を共有し、五感をフルに働かせてニーズを感じ取り、生活者に励まされながらの製品企画を体験する。例えワークショップで出てきた意見が、ワークショップ前に想定していた内容だったとしても、実際に生活者の意見を聞いたことでその後の製品企画における担当者の自信は確実に深まる。また、生活者と会話をすることで、次の新製品開発のアイデアが浮かぶこともある。
生活者ニーズが多様化するなかで、製品開発の担当者は、生活者の意見に耳を傾け必要な情報を峻別し、柔軟に対応する高いスキルが求められている。
企業は担当者の個別スキルに委ねるのではなく、戦略的に生活者とコミュニケーションする場を設定し、生活者との対話に抵抗がない組織体質にすることが必要だ。
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