新年あけましておめでとうございます。本年も皆様のご健康、ご発展をお祈りいたします。
また本年も弊社ニューチャーネットワークス、ニューチャーアジアをどうぞよろしくお願いします。
毎年恒例ではありますが、年頭にあたって、本コラムにて、皆様の経営事業へ少しでもご参考になることを願って、「日本企業長期低迷を打破するネットワーク型アライアンス戦略」と題しまして、年頭の所感を述べさせていただきます。
2008年秋の米国リーマンショックによる世界的不況を乗り越えたように見える日本の経済界。しかし、その経済界の中心である製造業では、中国、韓国などアジアの新興国の台頭や欧米の情報産業の脅威などもあり、これで競争優位に立てるという将来の戦略ビジョンが見えなく不安、というのが正直なところではなかろうか。失われた10年いや20年ともいわれて久しいが、過去から長い期間引きずってしまっているこの不安は、会社の業績不安だけでなく、キャリアや雇用の不安、さらには生活の不安と、我々が暮らす社会全体の不安につながってしまっている。
日本の製造業が過去の栄光にあぐらをかき、仕事から手を抜いてしまったというのではない。ほとんどの製造業の職場では残業規制をしなくてはならないほど今でも激務に追われている。しかし、これまでも行ってきた「考えられる改善策を実施する」「欧米で成功した方法を取り入れる」ということでは解決できない複雑な問題がそこには潜んでいるように思える。まず日本の製造業の真の問題がどのようなものであるかを、冷静に分析しなければならない。
■日本の製造業低迷の5つの原因
原因1:技術開発、新製品開発が事業収益に結び付きにくくなった
日本の製造業の強みは、技術開発をベースにした新製品の企画開発、そしてそれを高い品質で大量に生産する製造力。この強みが企業の収益を圧迫する原因になってしまっている。
1990年前半の景気低迷を機に、日本の消費者意識、行動は大きく変化してきた。かつてのように新製品を出せば、消費者が買ってくれる構図が完全に崩れたのである。「待てば近いうちに同じ価格か安い価格でもっと良い性能のものが買えるはず」「新製品は難しくて使いこなせないので、ムリに買い換えたくない」製品の品質向上もあって、消費者の買い換えサイクルは長期化した。
その一方で、売上低迷をカバーするための新製品開発競争が激化した。かつてよりも多種類の新製品が短期間でリリースされ、結果として新製品開発サイクルが短くなった。急激な円高による低価格品の輸入攻勢やデフレ経済もあり、消費者の低価格志向が一段と強くなっていった。
原因2:円高を背景にアジア企業のモノづくりレベルが飛躍的に向上した
低価格化実現の背景には、韓国、台湾、中国、ベトナムなどのアジアの企業のモノづくりのレベルアップと円高による輸入の急増があった。
かつて人件費比率が高い電機、機械をはじめとする組み立て産業の多くが、コスト低減のためにアジアの企業へ、製造の一部、またはすべてのアウトソーシングを行った。それを見込んだ日本の工作機械メーカーが完全自動化工作機械を、また有力部品メーカーが高品質の部材を、それぞれアジア企業へ供給した。同時に多くの日本の技術者が、日本流モノづくりを韓国、台湾、中国のアジアの企業に伝授した。
こうして、徐々にモノづくりの力をつけたアジア企業が、日本企業のOEM、また世界の製造委託事業を請けるEMSとして、さらには自社オリジナルブランドメーカーとしてモノづくりの力をつけていった。
原因:3インターネットの普及を競争力として素早く取り込めなかった
日本の製造業が低迷しはじめた1990年代半ば、インターネットの普及という新たな大きな変化が起こった。そしてインターネットの普及は、日本企業に3つの大きな影響をもたらした。
一つ目は取引コストを低減させたことである。インターネットによる取引コストの低減は、それまで日本企業がとってきた資本関係のある緊密な企業系列での垂直統合的ビジネスモデルを競争劣位にした。
二つ目は、業界の垣根を低くしたことである。パソコン、携帯電話、テレビさらには自動車までもがインターネットにつながるようになった。書籍販売や中古車売買事業、旅行業界などに見られるように、これまで競争関係になかった企業、業界が競合として現れ、気がつかないうちに業界が急速に縮小するといった現象が見られた。
三つ目の影響は、大きく収益が獲得できる事業領域とそうでないところの格差が広がった。いわゆるビジネスモデル(収益構造)の変化である。例えば携帯電話産業に見られるように業界の利益は、通信キャリアやコンテンツサービス事業者、もしくは液晶、コア部品メーカーに集中し、業界の中心である携帯電話のセットメーカーは大幅な赤字になるといった、業界全体のビジネスモデルの変化である。
原因4:エコ・システム、ビジネスモデルという発想が乏しい
多くの日本の製造業が低迷を続ける一方で、欧米には日本企業と同じような事業領域で高い業績を上げ続ける注目すべき優良企業がいくつか存在する。優良な欧米企業は、製品単体だけではなく、ビジネスモデル全体、さらに業界を越えたレベル、言わばエコ・システム全体の変革に取り組んできた。一般に「生態系」と和訳されるエコ・システムは、ビジネスでは業界を越えた新しい共生関係を構築することを意味する。欧米の優良企業の戦略の重点は、このエコ・システムを構築するためにリーダーシップを発揮することに移っていった。
その代表例がアップルのiPod。iPodは携帯音楽端末という製品レベルを超え、iTunes Storeというネット上のミュージックダウンロードストアを通じて、音楽をダウンロードできるようにし、いつでもどこでも自分の好きな音楽が楽しめる環境を提供している。これによりアップルはiTunes Storeという小売業態を通じて莫大な収入を獲得している。
原因5:「モジュラー型」をとりいれた「オープン・イノベーション」への対抗戦略が不十分である
日本の製造業は「摺り合わせ型」と「モジュラー型」の技術戦略をうまく運用できていない企業が多い。
「摺り合わせ型」とは、個々の技術や部品の微妙な相互関係を調整しながら全体として、高度で差別化された製品を作り出すことである。 一方「モジュラー型」とは、一つひとつの部品のインターフェース部分を標準化し、製品全体として組み立てやすくする方法である。その代表例はパソコンで、OS、CPU、ハードディスクなどほとんどの部品のインターフェースは標準化されている。「モジュラー型」は、多くのモジュールメーカーの市場参入を呼び込み、その競争による低価格化を加速させる傾向がある。
既にパソコンのような業界全体のモジュラー化が進んでいるにもかかわらず、川上から川下までの自社生産を中心とした「摺り合わせ型」のパラダイムから抜けきれない業界が日本にはいくつかある。
自社にしかできないブラックボックス化する必要のある部分はどこなのか。その一方で、製品や事業を拡大させ、世界市場を制覇するためにモジュラー化し、オープン化する部分はどこなのか、といった技術戦略ビジョンを明確にしなければならない。
■日本の製造業は、内外の経営環境をどう認識していたのか
企業経営とはその企業の経営者、経営幹部がどのように経営環境を認識していたかということで決定づけられる。環境への認識は、業種や企業によって大きく異なり、一概に言えるものではない。従って一般化するのは誤解を招くことであるが、あえて我々自身の認識を正すという意味で、「顧客、消費者」「競合」「業界構造、マクロトレンド」「事業成功の要因」の4つの点に関して、我々の認識に問題がなかったのかを振り返ってみたい。
顧客、消費者への認識:
技術、製品は連続して開発してきているが、顧客、消費者の価値判断には変化や断絶があることを認識して事業に取り組んできただろか。確かに日本にはある一定以上の規模の市場があり、市場は縮小してきてはいても、ある程度は売れる。競争の厳しい日本である程度評価されれば海外でも売れる、日本製は一番と考えてはいなかったか。日本以外の新興国の顧客や消費者を本当に理解しているのだろうか。彼らを顧客と認識したのはいつからだろうか。
競合への認識:
手の内を知り尽くした日本国内のライバル企業だけを競合と考えてきたのではなかろか。つい最近になってサムソンやノキアそして米国のアップルの名前が出るが、日本企業は本当にそれらの企業を競合としてベンチマークしていたとは思えない。また台湾の有力EMSは競合として認識し、調査分析も手薄であったと思われる。
製品やサービスに留まらず彼らの組織や意思決定能力、リーダーシップなどまで詳細に比較し、もっと強い競争意識を持つべきでではなかったのか。また異なる業界からの参入に対しそのリスクを分析し、競争戦略を打ち立てていたのだろうか。
マクロトレンド、業界構造の変化の認識:
インターネットが顧客と企業の関係を大きく変化させ、さらには産業組織の構造をこれほどまでに変えることは予測できていたのだろか。それをいち早く事業に取り込む戦略はもっていたのだろうか。自社とネットベンチャーとは全く違う世界だと認識していたのではなかろか。そして今、新興国市場そして市場のグローバル化という変化はどの程度に認識できているのだろうか。
事業成功要因の認識:
ビジネスモデル、エコ・システムなど業界内外の他社や顧客との関係性が重要な成功要因になると認識できていたか。技術と製品で差別化すれば、それで勝てると思っていたのではなかろうか。製品以外の顧客へのサービス、コミュニケーションが大きな顧客価値を生むという認識はあったのか。市場や業界の認識の範囲が狭すぎなかったか?異業種の参入や異業種との連携が重要であることが理解できていたのだろうか。
■20年続いた日本企業の「環境認識のズレ」
以上のような問いかけから、この10年あるいは20年とも言われる日本企業の低迷の真の原因は、我々自身の「環境認識のズレ」にあることがわかってくる。
その「環境認識ズレ」とは、国、政府、自社、部門組織、社員、そして自分自身に対し、現在の状態が永続的に存在するものと固定的に考えてきてしまっていることである。厳しい言い方になるが、それは一種の幻想ともいえる。
消費者、顧客の変化に反応が鈍いこと、アジアの競合の認識が薄いこと、新たなビジネスモデルの構想力が乏しいこと、すべては固定的に物事を認識することからくる「環境認識のズレ」が原因ではなかろか。
経済や企業経営の本質は、絶えず変化する「動く世界」にある。「変化」「変動」が実態であるはずなのに、その現実から目を背け、世の中全体をいつまでも自分にとって居心地のよい「静的な世界」であることと思い続けていたのではないか。その結果、自分達の慣れ親しんだ狭い範囲に閉じこもり、過去の先達が築いてきた資産を、改善、手直しという範疇でマイナーチェンジしつづけ、そのパッチワークがついに限界まで達したのが現在であろう。
■変革ビジョンとしての「ネットワーク型アライアンス戦略」
新興国がこれまでにない急速なスピードで発展し、初めて名前を聞くようなグローバル企業がそこから次々と生まれている。また一方で経済環境が厳しい中、欧米のグローバル企業も日々競争力に磨きをかけてきている。我々日本企業にはそれほど時間が残されていない。この状況をいかに切り抜けるのか。そのブレークスルーコンセプトが「アライアンス戦略」である。
「アライアンス戦略」は物事を固定化して考える、自前主義、内向き志向という言葉に象徴される発想から、変化、変動をベースに相互に強みや経営資源を活用する関係から価値を生み出す経営への転換、パラダイムシフトと言えよう。
それは、日本企業が絶えず変動する環境の中で、周りとの関係を認識し、自社の行う事を可能な限り絞り込み、強化し、その一方で自社と外部が互いに発展する戦略的な共生関係を構築することである。その共生関係そのものを、企業の最大の資産にするという考えである。
我々はこれを“共有とネットワークによる価値創造の戦略”「ネットワーク型アライアンス戦略」とし、日本企業復権のキーコンセプトとした。
■「ネットワーク型アライアンス戦略」とは
ここで「ネットワーク型アライアンス戦略」の定義をまとめると以下のようになる。
- 「グローバル社会」「隅々まで情報ネットワーク化した社会」などの現代の経営環境の本質は「変化」「変動」にある。
- そのような環境で、企業がすべての経営資源を抱え込み、事業を行うことは不可能であり、意味のないことである。
- そこで事業そのものを顧客や他社との関係による“資源の共有とネットワークによる価値創造の戦略”と考え、より広い視点でビジネスモデルやエコ・システムを構想する。
- そのビジネスモデルやエコ・システムの見地から、自社の強み、コア・コンピタンスを見いだし、強化し、それを元に顧客や他社との関係を創発していく。
- その創発された関係性から次々と生み出され続ける新たな価値が競争力であり、関係性自体を資産と考えることが「ネットワーク型アライアンス戦略」である。
「ネットワーク型アライアンス戦略」は、これまでの戦略論、マネジメント論とは異質なところが多い。それは「ネットワーク型アライアンス戦略」という概念がそもそも一企業のマネジメントの概念を超えているためである。具体的には「戦略構想の企画方法」「ビジネスの関係性の設計構築」「リーダーシップ、組織マネジメントのあり方」などが一般のマネジメント論とは異なる。それ故に、取り組みが難しそうに思えるというのが実際のところであろう。しかながらネット社会の現代において、その戦略的効果は大きく、しかも将来の発展性がある。
■「ネットワーク型アライアンス戦略」による日本企業復権のための5つの着眼
最後に、2011年の年頭の所感として「ネットワーク型アライアンス戦略」を発想のヒントにした「日本企業復権のための5つの着眼」を提言したい。
- 着眼1:経営理念に立ち戻り、それを全員で徹底議論する
- 着眼2:「固定的発想」を捨て、「変化」を事業機会と捉える発想を持つ
- 着眼3:強いコア・コンピタンスに集中し、圧倒的優位性を構築する
- 着眼4:ビジネスモデル、エコ・システムの構築に挑戦する
- 着眼5:資本効率を最大限まで上げる仕事をする
着眼1:経営理念に立ち戻り、それを全員で徹底議論する。
経営理念とは、経済社会の中で企業がどのようなことに貢献するかの意思を明示したものである。経営理念とそれを本気で実践する意識と行動力を見れば、その会社の本当の力がわかる。時代が変化する中で、経営理念は時代に応じて解釈を変え、時には部分修正することもあろう。
日本企業は今この経営理念の解釈から再スタートすべきである。何が経営の軸なのか?本当に優先すべきなのは何なのかを社員全員を巻き込んで徹底して議論するべきである。徹底した議論を通じ、理念力を鍛えなければならない。
着眼2:「固定的発想」を捨て、「変化」を事業機会と捉える発想を持つ
ビジネスの本質は変化にある。変化するところに機会があるのであって、すべての成功は変化に焦点を当て、事業機会を見つけている。社内の「変化」を押さえつける発想を変革する必要がある。一方で社内の「変化」に対する感覚を研ぎ澄まし、それを体系的に把握し、事業化する仕組みがなければならない。
会社の中で、組織的、体系的視点を持ちつつ、変化を肌で感じ、機動的に動く仕組みはあるだろか。
着眼3:強いコア・コンピタンスに集中し、圧倒的優位性を構築する
多くの日本の企業や部門、そしてそこにいる人の強みが不明確になってきている。“平均点を取る仕事”をする発想が強すぎるためだ。あらゆるものがネット化され、オープン化され、最も優れた企業、組織、人にすべてが集中する現代で、2番、3番では生き残ることすら難しい。
一つの領域に徹底して集中し、世界NO.1の強みを構築する。そこから自ずとグローバル化やビジネスモデル、エコ・システムが見えてくるはずである。問題は経営者が決断するか否かである。
着眼4:ビジネスモデル、エコ・システムの構築に挑戦する
この点でほとんどの日本企業は発想を変えるべきであろう。これからの事業経営は、ビジネスモデルやエコ・システムから生み出される価値が基本になる。事業そのものを顧客や他社との関係による“資源の共有とネットワークによる価値創造の戦略”と考え、より広い視点でビジネスモデルやエコ・システムを考える構想力が求められる。
ビジネスモデルやエコ・システムを構想するには、企業の中の個性的な人材が、視野を広げたネットワークをつくり、そのネットワークからアイデアが創発されていく仕掛けが必要である。
着眼5:資本効率を最大限まで上げる仕事をする
資本効率とは、経営資源をどれだけ大切に使ってきたかということである。またそれは、世の中のためにならない、ましてや会社のためにならないことには資源を投入しないための指標である。それは誰にも負けない自社の強みを知り、あらゆる場面でそれを徹底活用することでもある。会社は、あなたの組織は、あなた自身は、誰にも負けない一流の仕事で広く世の中に貢献しているだろか?資本効率とはそのための指標であり、強みの活用を結果から考える思考方法である。ビジネスは結果から考えることが重要である。