「グローバル・エイジ」のリーダーからの提言

株式会社イースクエア 代表取締役社長 ピーター D. ピーダーセン 2009年10月28日

日本企業は国際競争力を低下させ、未来に対して悲観的なものの見方が増えてきています。しかし、ピーダーゼン氏のおっしゃる環境・社会のグローバル・トレンドを的確にとらえれば、日本企業にとっても大きな成長の機会になりうる可能性があります。

今回から計2回にわたり、ピーダーゼン氏のコラムをご紹介します。
是非読者の皆様には自社のビジネスチャンスを発想しながら、読んでいただければと思います。

ニューチャーネットワークス 福島 彰一郎

■地殻変動を起こす事業環境

「地殻変動」はもはや使い古された言葉のようにも思える。しかし、「環境」および「持続可能な発展」をキーワードに、営利企業の事業環境は今、まさに、「地殻変動」とでもいうべき大きな変化の真っただ中にある。
 20世紀後半、地球環境問題が顕在化し、世界各地域の社会発展の格差が鮮明になったことにより、このままでは「持続性ある地球社会の発展」は危ういという認識が次第に強まっていった。1987年に、国連のブルントラント委員会(正式名: 環境と開発に関する世界委員会)は、Our Common Future (我ら共有の未来)と題する報告書を発行し、「持続可能な発展」という概念を初めて、大々的に世界に向けて打ち出した。そして、その報告書の発行を受け、1992年に、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで、「地球サミット」(リオ・サミット)が行われ、環境の保全と健全な社会発展の達成方法に関する国家首脳レベルでの真剣な議論が行われた。
 今年の12月に、私の母国デンマークの首都コペンハーゲンで行われる気候変動条約に関する国連会議COP15と、来年、日本の名古屋で開催される生物多様性条約のCOP10は、どちらも1992年の地球サミットに端を発するものである。
 企業からみると、このような時代の大きな潮流は、新しい「社会制約」と「環境制約」の台頭として具現化するようになり、1990年代に次第に経営に影響を与え始めた。下の図1をみていただきたい。企業は図の左側にあり、右方へと進む存在だと捉えていただきたい。
 上の「壁」は「社会制約の進化」を表している。つまり、(1) 条約や法規制の変化(たとえば「京都議定書」や「家電リサイクル法」など)、(2) 企業のCSR・環境経営への新たな要求(たとえば、「ISO14001」や国連が提唱する「グローバル・コンパクト」)、(3)NPOをはじめとした市民社会の新たな要求や期待(たとえば、グリーンピースが一時期、有害物質の代替を促すためにインターネットで展開していた”The Chemical Home”という、家電メーカーなどを対象とした抗議ウェブサイトなど)。
 下の「壁」は「環境制約の進化」を表している。直接的に企業経営に影響与えるものを挙げると、たとえば(1)資源やエネルギーの需給のひっぱくによるコスト増や調達難、(2)気候変動による異常気象に伴うオペレーションへのダメージと損失額の増大など、多数である。

 

図1:変化する社会制約と環境制約

 

■新成長領域に到達するために

社会・環境制約は強まるものの、今後の世界市場全体を俯瞰すれば、決して先細りの未来が待っている訳ではない。図1の一番右端をみていただくと、大きく広がる世界があり、「新成長領域」と「持続可能な価値創造」と書いてあることがわかる。地球で、一日に新たに生まれる人々の数は約37.2万人。亡くなられる約15.6万人を差し引くと、一日の地球人口の純増は、なんと21.6万人である。一年間の数字に換算すると、2009年に約7900万人の純増、2010年~2011年は約8000万人/年の純増と見込まれている。
 また、新たに生まれる37.2万人/日の「生涯消費」は、亡くなられる方々のその平均より大きいことも明らかである。さらに、もう一つ重要なデータは、2009年12月頃68億人を突破するとされている地球人口のうち、まだ「消費者入り」すらしていない人々の数である。世界銀行、世界金融公社、世界資源研究所などの試算によると、地球人口の70%以上、数にして40億人以上は、まだ工業製品を継続的に購入していない貧困層や「消費者予備軍」の層である。彼ら全員が今後目指していくのは、「豊かな暮らし」であることは、疑う余地もなかろう。
 この2つの事実、つまり「地球人口の増加」と「消費の継続的な拡大」こそが、世界経済を動かしている「本当の基礎的要因(ファンダメンタルズ)」であり、今後数十年において、世界経済の拡大・成長をほぼ確実にしている。そして、さまざまな背制約条件の変化を通じて、日本の地域にも、一社一社の企業にも、確実に影響を与える潮流と捉えるべきものである。
 そこで、企業にとっての「ジレンマ」と「事業機会」が浮かび上がってくる。ジレンマは、強まる社会・環境制約のなかで、つまり地殻変動を起こしつつある事業環境において、どのようにして制約の変化が生み出す社会の要請に答えつつ発展の道を描くか、ということである。今後の成長の前提条件は、健全な社会と自然環境であることはいうまでもないが、企業としてコスト管理を行い、自社の競争力を維持しつつそれらにどう対応するかが問われている。決して容易に答えがでる問いではない。
 しかし、一方では、その対応にこそ次なる事業機会が潜んでいることも事実である。企業は、従来型のCSR経営を超越し、自社の事業モデルや商品・サービスを通じて、「環境・社会的課題の解決に寄与する」ことが、お客様をはじめとした利害関係者から求められている。たとえば、「電気自動車」を市場に投入し、成功させる。ソーラーパネル付きの住宅を新しい「標準」にする。あるいは、貧国バングラデッシュで現地にネットワークを持つ企業と提携し、栄養商品を展開したり、マラリア予防につながる事業を展開したりする。業種や企業の規模を問わず、いま、直接的に「課題解決型」の商品・サービスが求められている。そして、それらにどのように企画し市場化するかによって、自社の競争力が実際に左右される時代に突入しているのである。
 1960年代以降、「性能的な品質」を高め、世界制覇に成功した日本企業が、今度は、「社会・環境的品質」でも世界をリードできるかが問われようとしている、非常にエキサイティングな時代とも言える。これまでの市場において決定的に重要だった4つの競争軸、「自己変革力」「マーケットシェア」「価格」「品質(製品・プロセス品質)」に加え、第5の競争軸、「グリーン・イノベーション(環境革新)+持続可能性の追求」をマスターすることが求められている。

(次号につづく)

ピーター D. ピーダーセン

ピーター D. ピーダーセン

・所属・役職
株式会社イースクエア 代表取締役社長

・略歴
1967年デンマーク生まれ。コペンハーゲン大学文化人類学部卒業。
環境・CSRコンサルティングを手掛ける株式会社イースクエアを2000年に設立、日本企業、行政機関、大学とともに約400のプロジェクトに携わる。
2002年に、「LOHAS」(健康と環境を志向するライフスタイル)を日本に紹介した一人としても知られる。
2009年9月に、朝日新聞出版より、「第5の競争軸 ~21世紀の新たな市場原理」を発刊。

・著書・訳書など
『LOHASに暮らす』2006年1月、ビジネス社
『第5の競争軸 ~21世紀の新たな市場原理』2009年9月、朝日新聞出版

 

 
 
「第5の競争軸 ~21世紀の新たな市場原理」の詳細はこちら

このページのトップへ