「グローバル・エイジ」のリーダーからの提言

ライフネット生命保険会社 代表取締役社長 出口 治明 2009年9月30日

 2009年9月8日に某会社研修にてライフネット生命保険株式会社 出口治明社長のご講演を拝聴する機会がありました。日本生命時代より生命保険業界を知りつくした出口社長は、60歳で生命保険会社の構造を根底からかえるネット販売による生保会社を設立しました。既存生保の強さと矛盾に果敢に挑む出口社長のお話は、ビジネスにとどまらず現代を生き抜く勇気と希望を与えてくれます。
 無類の歴史好きでもある出口社長は、62歳でインドへの大旅行を成し遂げた高層の法顕(ほっけん)になぞり、社長室を「法顕の間」と名付ける程です。
 自らを活字中毒と称する出口社長の機知に富んだ講演内容を、今回から2回にわたりご紹介させていただきたいと思います。

ニューチャーネットワークス 小林 純子

■「還暦ベンチャー」が生んだライフネット生命

ライフネット生命保険株式会社は2008年5月に開業したインターネットを主要チャネルとした生命保険会社です。開業時に60歳だった私は「還暦ベンチャー」と言われています。

最近読んだ本では慶応大学小熊英二さんの「1968」が面白かったです。私は「人間チョボチョボ主義」をモットーにしています。世の中には偉い人も賢い人もいない、皆チョボチョボ。私は本を読むことと歴史が好きですが、実は世界の人、過去の人を含めて人間がやったことを見てみれば、自分が行っていることが正しいかわかるものです。例えば衆議院選挙で世襲議員が問題になりました。私が知る限り世襲議員が議員数の10%を超えるのは日本と、家族のつながりが強いフィリピンの2カ国です。特に日本は4~5割が世襲議員です。世界を見ることで日本の異常さがわかるのです。
 
本日はライフネット生命について「3つのビジョンは実現したか」「4つの経営方針(マニフェスト)は貫徹できたか」「ライフネット生命のチャレンジ」という点から話したいと思います。
 
ライフネット生命には3つのビジョンがあります。
 
ビジョン1:保険料を半分にするから安心して赤ちゃんを産んでほしい
ビジョン2:保険金の不払をゼロにしたい
ビジョン3:マイホームに次いで高い買物である生命保険は「比較して納得して入る」習慣を広めたい

■ビジョン1:「保険料を半分にするから安心して赤ちゃんを産んでほしい」  

1つめのビジョンについて説明します。厚生労働省の資料「2008年国民生活基礎調査の概況」によると、1世帯当りの平均所得金額はこの10年で15%減少しています。

 
世帯主の年齢階級別に見ると20~30代の平均所得金額が60代の年金生活者より少ないという異常な事態が起きています。子どものいる世帯が子どものいない世帯より所得が少ないのです。これでは20~30代が安心して子どもを産めるわけがありません。このような状態は先進国では日本だけ、20~30代が消耗品として扱われているからかもしれません。1つの国として見たとき何かおかしい、これでは国力が弱くなります。
 

 
日本の生命保険会社の多くはこんな20~30代の世帯に15,000円から25,000円の生命保険商品を販売しています。保険料を半分にして、余ったお金で安心して赤ちゃんを産んで欲しい。そんな思いからライフネット生命の保険をつくりました。当社が昨年実施した契約者アンケートでは、当社の保険に見直した方は保障内容の削減も含めて保険料を平均で47%削減したという結果が出ています*。
*ご契約者さまアンケート ■ 調査期間:2008年8月11日~9月2日 ■ 回答者数:284名(うち、見直した方が120名)の結果

■ビジョン2:「保険金の不払をゼロにしたい」

2つめのビジョンについて、生命保険に不払いはあってはいけないと強く思います。なぜ不払いがおきたかと言えば、商品が複雑で生命保険会社にもわからなくなってしまったからです。金融庁の発表によると、平成20年3月末時点で135万件の不払いがあったそうです。私は商品をシンプルにすれば、不払いの9割はなくなると思っています。ライフネット生命では「システムチェック」「迅速かつ正確な支払」「リスク管理部による全件チェック」という3重のチェックシステムで保険金の不払いをなくす努力をしています。開業以来、不払いに関する苦情は受けていません。

■ビジョン3:「比較して納得して入る」

ビジョン3について、マンションなどのマイホームは比較して購入するのが普通ですよね。既存の生命保険商品はトータルで数百~数千万円の保険料を支払うことになりますが、これまでは数社の保険を比較して加入することはあまりありませんでした。そこでライフネット生命のウェブサイトには比較ボタンを用意しました。生命保険に限らずウェブサイトに比較ボタンがあるサイトはあまり見かけません。せっかくウェブサイトを訪れてくれたお客さまが他に行ってしまうかもしれないからです。ライフネット生命は比較して納得して加入して欲しいと思い、比較ボタンを作りました。結果としてほとんどのお客さまがライフネット生命のサイトに戻ってきてくれています。

そもそも生命保険に「お買い得商品」はありません。なぜならどの生命保険会社も同じ日本人の生命表を使い、アクチュアリーと呼ばれる専門家が計算して保険料を決めています。さらに金融庁で同じようにチェックをしているのでほとんどが似通った商品になります。つまり基本となる純保険料(将来の保険金などの支払いに備えるための保険料)はほとんど同じで、付加保険料(手数料)が違うだけとなります。たとえば、30歳男性、期間10年、保険金額3,000万円という条件で、各社とも1年間に支払う純保険料がライフネット生命と同じ32,028円だと仮定して比較すると、付加保険料はライフネット生命が9,780円に対し、ある保険会社は49,089円と実に5倍なります。
 

 
この付加保険料は例えばワインを家で飲めば3,000円なのにレストランで飲むと5,000円になってしまうように、サービスに伴う人件費や賃貸料に由来します。生命保険は2006年4月から付加保険料が自由化されました。ライフネット生命はインターネットの上に1つしか店舗を持ちません。一方、国内の大手生命保険会社は全国どこにでも2,000程の店舗があります。2,000店舗の賃貸料や光熱費、セールスマンのコストはライフネット生命の5倍ということです。どこの生命保険会社も開示していない付加保険料をライフネット生命が初めて開示したのは、生命保険の構造を知って欲しいからです。値段がわかって買うなら良いのですが、生命保険は保険料の内訳がきちんと開示されないまま保険会社専属のセールスマンが日本の生命保険の販売の7割を取り扱っているのです。良い商品が消費者にわたるには、比較情報と自由にアクセスできるチャネルが必要と思います。

(次号に続く)

出口 治明

出口 治明

・所属・役職
ライフネット生命保険株式会社代表取締役社長
・略歴
1944年 三重県出身。大学を卒業後、日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当。生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に東奔西走する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。 2005年より東京大学総長室アドバイザーを勤め、2006年に準備会社を設立。2008年より現職。
・著書・訳書など
『生命保険入門』 2004年6月、岩波書店
『生命保険はだれのものか』2008年11月、ダイヤモンド社
『直球勝負の会社』2009年4月、ダイヤモンド社
保険トレンドブログ 『デグチがWatch』 http://www.lifenet-seimei.co.jp/deguchi_watch/index.html
 
ライフネット生命保険株式会社URL http://www.lifenet-seimei.co.jp/

ライフネット生命のことをより多くの方に知っていただくために、さまざまな場所で講演会を行っています。
20名程度の小規模な勉強会でも結構ですので、ぜひお声掛けください。

お申し込みは以下のURLから受け付けております。
https://www.lifenet-seimei.co.jp/app/sp/wif/e/inquiry

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