ニューチャーネットワークス 藤田 佳恵
「サプライズで始まった北の旅」
2010年8月15日(日)夕方、上海から大連に飛び、空港から出ようとした時に、大きく書かれた自分の名前が突然目に飛び込んできました。驚いて目を凝らしてみますと、そこには懐かしい笑顔がありました。思いがけない12年ぶりの再会でした。
Zさん親子との再会
1998年、当時の大連市薄市長の発案により、大連市21世紀人材育成プロジェクトが実施されました。これは同市100の業界から選び抜かれた100名の若手精鋭を、日本はじめ欧米、大洋州諸国に派遣、研修させるものでした。目の前に笑顔で立っているのは当時日本への派遣が決まり、それぞれの専門に合った研修受け入れ先を探し、研修を実現させるためにお手伝いをしていた研修生10名の内の一人、とそのお嬢さんでした。
空港出迎えなど何も聞いていなかったので、驚きながらもうれしかった。聞けばわたしたちのフライトの到着が大幅に遅れたため、どの便で来るのかわからず、3時間の間、上海からの便が到着する度に、お嬢さんと1.2メートルの横幕を持って私を迎え続けてくれたのでした。
市場経済の深化とともに経済が発展し、変化し続ける中国ですが、人と人を繋ぐ信頼関係、人情、感謝の気持ちを重んじる昔ながらの中国のよさは依然として健在であることを思い知らされました。心温かいサプライズで始まった大連、長春の旅は、驚きの連続になりました。
「BPO、花形産業のジレンマ」
中国で大連ほど日本語を話せる層の厚い都市はないでしょう。それもそのはず、本格的な日本語教育を行っている大学は大連に集中しており、優秀な日本語人材を多数輩出してきました。また、大連は日本人になじみやすい街で、多くの日本企業が進出しています。その関係か、大連のサービス業は日本人向けのものが多く、どこか日本的なのが特色です。
この強みを生かす形か、大連市政府は大連を一大サービス・アウトソーシング基地にする方針を立て、それにより世界のグローバル企業のコールセンターやBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)関連企業が相次ぎ大連に進出しています。
今回の出張時に、大連にある中国最大のBPO会社G社、そしてG社のためにBPO業務を担う人材を育成するアジア最大のIT研修学校M校を訪問しました。意見交換をしながら、BPO現場では日本語人材不足の問題が深刻で、企業は苦戦していることを知りました。
中国的価値観の影響か、大学で日本語を専攻した学生はコールセンターには行きたがりません。一方、日本向けのコールセンターには『日本人と同じアクセントの日本語』という、長年の日本生活経験者でもクリアできないハードルがあります。「語学研修は、この日本語人材不足の問題を解決できるものではない」とG社の幹部は言っていました。
『街を歩けば、周りに日本語を解せる人が必ず数人いる』と言われるほど日本語人口の多い大連では、ITや財務を専攻する学生でも、その多くが二級位の日本語(多少の読み書きができるレベル)を習得しています。しかし日本企業向けのBPOではそのレベルの日本語では不十分で、「卒業しても採用されない学生が少なくない」とM校のトップが嘆いていました。
強みのはずが、足かせに。
体力も財力もある世界のG社だから、担当部門が苦戦することで事業は継続していますが、中小企業ならどうなることでしょうか。
社運を賭けた中国進出に、一般論、常識論への安易な過信は禁物です!
私たちニューチャーアジアは海外進出企業自らの手と足によるマーケティング・リサーチを提唱し、現地における水先案内人としてお役に立ちたいと考えています。
「変貌する国有企業」
大連、長春は中国を代表する「重厚長大」国有企業の本拠地として知られてきました。民営企業が水を得た魚の如く躍進する時代において、伝統的な国有企業の様子は中々伝わってきません。そんな中、今回は国有企業数社を訪問する機会を得ました。その中の一社、自動車製造グループ傘下にある研修センターでは、校長先生と意見交換をしてきました。
長い間本社からの補助金を頼りにしてきた同センターでしたが、2000年に、国有企業の改革と共に本社から切り離されました。与えられた資産をみんなで分けて会社を解散させるか、勇気をもって市場化の道を選ぶかという切羽詰った状況で、市場のニーズに合った研修内容を模索しながら、自己改革を重ねてきました。その甲斐あって、2006年全中国の模範校として北京の人民大会堂で表彰され、そして政府から3000万元の奨励金をもらうまでに成長しました。
今や所属自動車製造グループのための社内研修のみならず、社会人向け職業訓練、政府や他の企業・学校向け社会人教育、職業資格鑑定、企業への技術サポートなどを行い、一大人材育成基地となっています。
地元政府も所属企業も後押しし、共同出資して50万㎡の新校舎を建ててくれています。これにより、1万人規模の自動車教育基地がまもなく誕生する予定です。
「昔は『親方日の丸』でした。経営理念が変わり、すべては変わりました。重要なのは自己変革です。」と校長先生は穏やかに結びました。
「日本を超えた?高級車ディーラー」
車の街、長春。日本とドイツの高級車販売店を経営するK社を訪問しました。同社は全国に8つの高級車販売店をもち、すべての店舗はほぼ同じような構成になっています。長方形の建物のフロントの部分は、5000㎡からなる高級感あふれる広い自動車展示会場。後方は約4000㎡からなる自動車整備工場。そして両者の間はゴージャスなVIPサロン。車の整備状況は一目でわかるようにオンラインで表示され、完了するまでの間、お客様は寛いで思い思いの時間を楽しめるように工夫されています。
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長春の自動車販売店 | 自動車販売店の整備工場 |
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自動車販売店のサロン |
わたしたちは優雅に振る舞う長身の営業員に迎えられ、流暢な英語で説明を受けました。後でわかったことですが、学歴、語学力のほか、身長、ルックスも必須条件なので、モデルさんから転身する人も多い人気の職業です。入社後も常に何らかの社内研修に参加して、知識、マインド、マナー、資格取得など自分磨きを奨励する社風です。
天井から床まで統一された空間。全車種の展示に加え、気の利いたさまざまなラグジュアリー。そして誇り高くキビキビと立ち回るプロフェッショナル。「日本より進んでいますね」。車に疎い私ですが、同僚の言葉に頷けました。
しかし、高級車ディーラーはK社の事業領域の一つにすぎません。中国有数の自動車整備学校を経営し、多くのプロ整備士を輩出しています。特筆すべきは自社ための人材育成だけではなく、中国で販売しているすべての車種に対応できるマルチ整備士を育成していることです。
K社自動車整備学校
「終わりに」
一年ぶりの中国、再びその熱気と活力に触れてきました。お客様からたくさんの課題と宿題をいただくと同時に、元気をもらいました。
中国の活力の源泉は何か。それは『金儲け』が罪悪ではなく、むしろよいことだとの鄧小平氏の考え方が全国民に浸透し、個人レベルで『金儲け』に精を出していることではないでしょうか。中国人一人一人の『金儲け』への情熱が続く限り、中国の活力が絶えることはないでしょう。
(おわり)