組織革新「ブレークスループロジェクト」

ニューチャーネットワークス 高橋 透
ニューチャーネットワークス 張 凌雲 2010年5月26日

なぜ多くのプロジェクトが失敗するのか?
 
「プロジェクト実行計画」がキチンとできてないままプロジェクトがスタートしてしまっていることが失敗の原因に挙げられます。プロジェクト計画を関係者にきちんと納得させられていないこと、兼務体制など人的リソース不足であること、課題の優先順位がつけられていないこと、目標が曖昧であることなど、誰もが知っているごく当たり前なことが実行計画として明確にされないまま、プロジェクトがスタートしてしまっていることが多いのです。実行計画の曖昧さは、実行責任の曖昧さにつながり、その結果、行動不足となり、参加者のリスク回避の意識から、メンバーのプロジェクトへの関わりが少なくなり、最終的には「プロジェクトの自然死」という結果を引き起こします。
今回のコラムでは、その「プロジェクト実行計画作成セッション」に関して、具体的な方法を実践的に説明します。
 

■既成概念を打ち破る「プロジェクト実行計画」の作成

プロジェクトが短期間で高い目標を達成するためには、組織の資源を集中し、一気呵成に進められる状況を作らなくてはなりません。そのためには、メンバーの間で成果に直結した行動連鎖が起きるアクションプランが必要となります。
今回のコラムでは、テーマ承認会においてオーナーから承認を得たプロジェクトテーマの実行計画作りに関して解説します。
 

  

■ステップ1: メンバーのやる気を引き出すプロジェクトチーム目標の設定

プロジェクト実行計画作成の最初のステップは、プロジェクト実施の目的、背景を戦略サポーター、リーダー、メンバーで共有することです。戦略サポーターはプロジェクトリーダーへ、プロジェクトリーダーはメンバーへプロジェクトの内容を説明して理解させるだけでなく共感させ、当事者意識、使命感をもたせ、プロジェクトへの取り組み意欲を向上させなければなりません。
プロジェクト実行時に計画通り進まない、成果が思ったよりも出ないといった状況に陥った場合、それを乗り越えるためには、メンバーの目標達成に対する強い使命感、危機意識が必要となります。
 

<ステップ1の進め方>

  1. 戦略サポーターは、プロジェクトリーダーへプロジェクトテーマの実施目的・ミッション、中長期の戦略における位置づけを伝える。このとき、プロジェクト達成目標を仮に設定しておく。
  2. プロジェクトリーダーは、メンバーとプロジェクトの実施目的など共有し、メンバー全員が同じ意識を持ってプロジェクトに取り組む状態を作る。
  3. 戦略サポーターとプロジェクトリーダーが設定したプロジェクトの達成目標について、各メンバーが納得できるものであるかを確認する。
  4. あらかじめ設定された目標が高すぎるなど、メンバー間で納得できない場合には、戦略サポーターを交えて目標の見直しを行う。

<ステップ1のポイント>

戦略サポーターはプロジェクトリーダーに対して、プロジェクトの戦略上の重要性、成功への期待など、プロジェクトリーダーの挑戦意欲を刺激するように伝えます。
プロジェクトリーダーはメンバーを一堂に集めた上で、プロジェクトの目標と目的、プロジェクトリーダー自らのプロジェクトに対する明確な意思を伝えます。メンバー全員を集めたコミュニケーションの場作りは、チームとしての結束力を高め、プロジェクト実行時の連携や意見交換を活発にするために重要です。
 

  

■ステップ2: 目標達成を確実にする実行計画の作成

プロジェクトメンバーがプロジェクトの実施目的を自分のミッションとして理解し、目標を設定した後は、目標を達成するために取り組むべき課題と課題解決のための具体的な行動計画を作成します。取り組むべき課題は、断片的な現状の積み上げから出されたものではなく、成果に直結する優先課題を挙げ、それを解決するにあたっての制約条件を踏まえた現実的な対応策を検討します。さらに課題を確実に早く解決するための実施体制、取り組み上のリスクとその対応方法、メンバーや関係者とのコミュニケーション方法についても検討します。
 
プロジェクト実行計画を立案するにあたってのポイントは以下の5つです。

  • 既成概念を取り払い、結果に直結するアイデアを発想する
  • 課題を挙げ、さらに優先順位をつける
  • 確実に実行するための組織体制や人的ネットワーク環境を整える
  • 課題実行のリスクを分析し、現実的な対応策を徹底検討する
  • 実行計画は「いつ」「誰が」「どこまで」行うのかを細かく計画する

これらのポイントを踏まえ、「プロジェクト実施概要シート」、「プロジェクトシナリオ」、「行動計画シート」の3つの計画書を作成します。
 

<ステップ2の進め方

1.プロジェクト実施概要シートの作成
「プロジェクト実施概要シート」の作成では、下記の5つの項目についてメンバーで検討します。
 
① テーマとゴールの設定
テーマは、メンバーのやる気が湧き出るような表現で示します。
ゴールは、達成状況を客観的に判断できる定量目標を設定します。ゴールは最終目標のみではなく、中間地点におけるゴールも設定します。中間地点の目標達成状況を、最終目標と同じ指標で測定することができない場合は、最終目標を達成するための先行指標となるものを設定します。
 
② プロジェクト目標達成のための成功要因(取り組み課題)
目標達成に向けて取り組むべき施策の中でも、重要性が高く、かつ直ぐ取り組むべき課題を示します。ストレッチ目標を短期間で達成するためには、これまで組織が行ってきた考え方や行動を踏襲していては実現しません。
 
目標達成のための成功要因の検討は、

  • 目標達成に向けて取り組むべき施策(課題)をできるだけ多く出し、重要性が高く、かつ直ぐ取り組むべき課題は何かをメンバーで検討する。
  • 優先課題解決への取り組みについて目標を設定し、解決のための具体的なアクションを示す。具体的なアクションは、これまでにないアプローチを常に考える。
  • 具体的アクションは、「誰が」、「何を」、「どのように」行うかを明確にする。

プロジェクト実行時の進捗確認では、課題解決の具体的アクションが計画通り実施され、それにより目標を達成しているかをチェックします。

③ 実施リスクの把握と対策
事業環境の変化が激しい中で、柔軟かつ機動的にプロジェクトに取り組むためには、事前にリスク要因を把握し、その対策を複数案検討しておく必要があります。問題が発生してから対応策、代替策を検討することは、プロジェクトの進行を妨げ、目標達成が困難になる可能性が高くなります。リスク要因は、経済環境や顧客のニーズ変化や競合の参入といった外部環境だけでなく、自社内の組織改革による方針の変更など内部環境についても十分検討する必要があります。
 
ブレークスループロジェクトの実施は、他部門や他組織からの多くの協力を必要とします。その場合、協力が必要な組織から協力が得られないなど、組織の壁に直面します。組織的な障害によるリスクがある場合は、プロジェクトオーナーや戦略サポーターが事前に他部門や他組織からの協力を取り付け、必要に応じてトップダウンによる支援を得られるようにしておきます。
 
④ プロジェクト実施体制図の作成
プロジェクト実施体制図の作成は、プロジェクトメンバーだけでなく、協力が必要となる他組織(社外も含む)も記載しプロジェクトに関係する人や組織が一目でわかるようにします。プロジェクトメンバー以外の人や組織を巻き込む場合は、プロジェクトの目的に共感してもらい、最大限の協力が得られるように説明をします。
 
⑤ コミュニケーション方法
短期間で目標達成するためには、集中した活動と短いサイクルでチェック、フィードバックを行う必要があります。ブレークスループロジェクトでは、メンバーの日々の活動状況がわかるようにします。しかし、活動報告を多くすることは業務負担になるため、情報を簡単に報告・共有するために進捗報告のタイミング、方法、内容、使用ツールをプロジェクト開始前に明確にしておきます。
 

 
2.プロジェクトシナリオの作成
「プロジェクト実施概要シート」の作成を通じてプロジェクトの成功要因が検討された後は、目標達成までにどのようなシナリオで実行するかを検討します。
シナリオ作成では、目標達成までのロードマップを中間地点の目標と共に明確にします。目標達成までの流れを示すことによって、どの課題にいつ取り組むのが成果達成までの最短ルートであるかを確認できます。
 

 
3.行動計画シートの作成
プロジェクトシナリオ作成によりプロジェクト目標達成までのロードマップをメンバー間で共有できた後は、行動計画シートを作成し具体的な行動を決めます。

行動計画は、プロジェクト実施概要シートに記載した成功要因(取り組み課題)に通じる行動は何かを検討し、その行動を誰がいつまでに行うかを明確にします。計画は1日単位で作成し、進捗状況を客観的に判断できる指標を設定します。1日単位で計画を作り、毎日の行動と成果のチェックを行うことで、プロジェクトリーダーとメンバーに、結果を直視させることができます。そして、進捗共有の実施回数、時間、密度を上げることで、組織的学習力を高められます。

また、プロジェクトリーダーは行動計画作成の際に、メンバー間で行動(作業)量に偏りはないか、極端に負荷がかかる時期はないかを確認し、特定の人や時期に作業が集中してボトルネックが生じないように注意を払います。

 

<ステップ2のポイント>

課題を解決するための具体的なアクションは、定量的な目標を設定し、実行計画の進捗状況を客観的に判断できるようにし、実施担当者が言い訳できない状況を作ります。
ブレークスループロジェクトの実行計画は、高い目標を達成するために、組織のリソースを最大限に活かすことを前提に作成します。プロジェクトメンバー内で勝手に制約条件をつくって、できることをやるのではなく、何をやるべきかという発想で検討します。
 
実行計画の作成にあたっては、

  • 実行計画作成に必要な事前調査・分析は最小限に留め、プロジェクトの活動の中で検証をしていく。
  • 特定の人だけで作成するのではなく、メンバーで議論して作成する。
  • 「型」にはまったスケジュールを立てない。(過去これくらいかかったからではなく、目標達成のためにはいつまでに何をやるという発想)

という点に注意します。
 

■ステップ3: トップのコミットを引き出す実行計画の承認会

プロジェクトが成功するためには、プロジェクトオーナーや戦略サポーターの継続的な支援が欠かせません。プロジェクトオーナーからの支援を引き出すためには、プロジェクトの内容を理解し、納得してもらわなければなりません。実行計画の承認会では、プロジェクトオーナーに計画内容を精査してもらい、支援して進めるに値するか否かを検討します。
実行計画の承認会にプロジェクトオーナーが参加することで、プロジェクトに対する期待をプロジェクトリーダーやメンバーに伝えると共に、プロジェクトオーナー自らも問題解決、課題解決に参画し、ブレークスループロジェクト実行の組織的一体感を作り上げることができます。
 

<ステップ3のポイント>

承認会では、実行計画が、実施目的、設定目標が組織目標と合っているか、計画内容は目標達成のために十分検討されているかについて、関係者で検討します。
承認会というオープンな場で実行計画の承認を行うことは、合意形成の視点、プロセスの公平性が担保されます。
 
●承認会の参加者
承認会の参加者は、プロジェクトオーナー、戦略サポーターに加えて、プロジェクト実行時に協力を必要とし、影響を及ぼす各部門の責任者に参加してもらう。
 
●トップによる実行計画の評価視点
「プロジェクト実施概要シート」の各項目、「プロジェクトシナリオ」を中心に、プロジェクト目標を達成する可能性が高い計画であるかどうかについて評価を行います。
 

 
プロジェクトオーナーからの承認が得られたプロジェクトは、直ぐに実行計画を実施します。承認が得られなかったプロジェクトは、その理由を確認し、計画内容を再検討した上で、改めて承認をもらうようにします。

次回のコラムでは、プロジェクト実行時にチームが直面する問題と対応方法について説明します。

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