組織革新「ブレークスループロジェクト」

ニューチャーネットワークス 高橋 透
ニューチャーネットワークス 張 凌雲 2010年1月20日

 今、多くの人が不安なのは会社の業績の悪さよりも、むしろ自分と自分の所属する組織自体の体質が、グローバル経済の中で時代遅れのものになっているのではないかという不安ではないでしょうか。グローバル化が進み、先進国といわれた国・地域の優位性がなくなり、新興国など賃金が低い国・地域の台頭によって世界がフラット化することで、仕事を失う恐怖。しかし一向に変わらない組織と自分自身の仕事のスタイル、意識、考え方。そのような環境変化に対応しきれていない「体質」が不安感を与えていると思われます。
 そのような現状を打破するのは、大きな戦略計画でしょうか?それとも欧米の経営管理手法でしょうか?皆さんの多くがすでに経験し、また実感して理解しているとおり、現状を打破することとは、「それをやらなければいけない差し迫った環境」に身を置き、「それに取り組む覚悟」をもつことです。確かに戦略も管理手法も必要です。しかしビジネスはなによりも、成果に直結する「アクション」がもっとも重要です。成果に直結するアクションを連続させる中で、個人のスキルや能力は向上し、組織は環境の変化に柔軟に対応でき、組織の体質が変わっていきます。
 最高の経営者、マネージャーとはどのような人か?一言でいうと、「成果を出さなければ存続できない環境や緊張感のある雰囲気をうまく作り、一方で成果に直結する、メンバーの自発的な行動を引き出せる人」つまり「ブレークスループロジェクトをしかけることができる人=ブレークスルーリーダー」であろうと思います。
 いかに「ブレークスループロジェクト」を仕掛けるか、どのようにしてプロジェクトに参加する人を「ブレークスルーリーダー」に変えていけるか。今回のメールマガジンでは、これまでも何度か取り挙げてきたブレークスループロジェクトに関し、より実践的な内容を紹介します。
 

■ブレークスループロジェクトとは大きな戦略計画を策定することではない

 組織の中長期戦略ビジョンを達成するためにはいくつかのアプローチがあります。大企業のほとんどは、多くの人と時間をかけ、大きな計画をしかも複数立てたがります。しかしその多くは、時間とともに自然消滅していくことが多いのではないでしょうか。そこで残されるのは、「自分は行動しなくても誰かがやってくれるだろう」「失敗は自分のせいではない」といった無責任体質です。この体質こそが企業の環境変化力を低下させます。
 
 ブレークスループロジェクトとは、中長期の戦略ビジョンを実現させるために、成果に直結すると思われるテーマを、平均8週間から12週間という比較的短期間に区切り、ストレッチした目標を設定します。短期間で高い目標を達成するために集中プロジェクトとして取り組むことで、人の意識や行動を変革しなければならない限界的な状況、失敗が許されない緊張した実行環境が“意図的”につくられるのです。
 このようなブレークスループロジェクトの成果とは、単に売上額やコスト削減、顧客獲得といった数値目標の達成だけではなく、いかなる環境変化にも対応できる組織体質をつくることにあります。その環境変化に強い組織体質とは

  • 現場からトップへの情報伝達のスピードアップ
  • 市場そして現場での環境変化に対応するためのトップのタイムリーな意思決定
  • 意思決定したことを現場へ素早く伝え、即アクションし、実践する

といった、変革のサイクルが根付いた組織であるといえます。
 
このような環境変化に強い組織体質をつくるために、ブレークスループロジェクトでは、以下の7つのことを取り組みます。
 
1. 戦略の背景にある価値観をトップとメンバー間で徹底してすりあわせ、現場の行動に落とし込む
2. 過去からの積み上げ発想を捨て、成果に直結する優先課題やアクションは何かを考える。結果から課題を発想する
3. 現在の環境とミスマッチと思われる組織や個人のもつ古い意識や習慣を変革する
4. 組織間、組織の上下間、個人間の心理的な壁を壊す
5. これまでの既成概念を打ち破り、競争優位に立てる独自のアイデアを生み出す
6. 日々の進捗報告とフィードバックにより、組織・個人の変革、学習スピードを上げる
7. 早い段階で初期の目標を達成し、組織全体に勢いをつける
 
 

(図1.ブレークスループロジェクトとは)

 ■ブレークスループロジェクトの実施体制

 ブレークスループロジェクトの成功の第一歩は、しっかりしたプロジェクトの実施体制を設計ることです。実行体制づくりとは、単にプロジェクトに必要な人材資源を確保するだけでなく、プロジェクトの背景となる戦略の企画構想機能、プロジェクトを進める課程での意思決定機能、プロジェクトの実行を支える組織の縦と横のネットワーク機能などを、組織の設計として取り込むことです。
 プロジェクトに関わる人とその役割は、組織の実施目的や人材登用、人材育成の視点によって異なりますが、概ね下記になります。各役割は、サッカーチームやプロ野球球団といった競技組織をイメージするとわかり易いかもしれません。
 
●プロジェクトオーナー
 プロジェクトオーナーはサッカーや野球でいうと、チームや球団のオーナーにあたります。競技組織のオーナーは、今季のチームの大きな戦略ビジョンと達成目標(多くの場合は優勝になりますが)を監督(戦略サポーター)に伝え、そのために選手獲得や設備への投資を行ないます。
ブレークスループロジェクトでは、プロジェクト全体の目標の設定、テーマの企画内容や実行計画の承認、その他プロジェクト実行に関する意思決定を行ないます。多くの企業では、プロジェクトオーナーは、社長や役員クラスが担当します。
 
●戦略サポーター(支援者)
 戦略サポーターは、サッカーや野球の監督やコーチにあたります。毎月の業績のみならず、年間さらには中長期の業績を向上させるために、組織の能力分析や競合他社の戦力分析などを行なった上で、プロジェクトテーマの背景となる戦略企画、プロジェクトの目標、実行のための優先課題、それを実行するための人材配置の方針、人材育成のビジョンをつくります。それらプロジェクトの方針をプロジェクトリーダーとメンバーに対して伝え、その必要性、重要性を納得してもらうよう、伝達します。一般的に戦略サポーターは、各部門の部長やシニアマネージャークラスが担当します。
 
●マネジメントチーム
 マネジメントチームは複数のブレークスループロジェクトを管理、推進する組織体です。マネジメントチームは、事務局的な役割を担うマネジメントチームリーダーとメンバー、プロジェクトオーナー、戦略サポーターによって構成され、プロジェクト全体の資源配分や組織横断的な意思決定などを行う「戦略センター」ともいえる組織体です。マネジメントチームは、プロジェクトの実行を通じて明らかになった課題や急な環境変化に対する戦略的な対応策を企画し、意思決定します。またプロジェクトを実行する中で発生した組織的障害取り除くようトップダウンで指示し、時には行動します。
マネジメントチームは、多面的な視点での環境認識や、戦略構想力が必要です。必要に応じて社内の他部門の人や社外コンサルタントに参加してもらうこともあります。
 
●プロジェクトリーダー・メンバー
 サッカーや野球でいうと、プロジェクトリーダーは選手のキャプテンでプロジェクトメンバーは選手にあたります。ブレークスループロジェクトでは、プロジェクトの具体的なアクションの検討、目標設定とその実施を行ないます。プロジェクトリーダー・メンバーは、現場のメンバーが担当し、できるだけ異なる組織や業務を行なっている人でチームが構成されるようにします。
プロジェクトリーダーは、自らが率先垂範して練習したり、本番のプレーでメンバーをリードしたりします。プロジェクトメンバーはチームの目標と個人の目標を達成するために、戦術の理解、自己の能力開発のためのトレーニングを行ないます。
 

(図2.プロジェクト実施体制)
 
 プロジェクトに関わるメンバーは、固定的なものではなく、状況に応じてメンバーの補充や入れ替えを行ないます。
 

■ブレークスループロジェクトの全体像

 ブレークスループロジェクトは大きく、『プロジェクトテーマ設定セッション』、『プロジェクト実行計画作成セッション』、『プロジェクト実行セッション』の3つのセッションで構成されます。

 

(図3.ブレークスループロジェクト実施の全体像)
 
①『プロジェクトテーマ設定セッション』
 『プロジェクトテーマ設定セッション』とは、プロジェクト共通の「全体戦略」と、各プロジェクトのテーマの背景となる「個別戦略」の共有、そして各プロジェクトテーマの目標、実行方策、実行計画を企画するセッションです。このセッションのゴールは、プロジェクトオーナーが各プロジェクトの計画を承認し、プロジェクトのスタートを指示することです。
 
◇「全体戦略」と「個別戦略」の共有
 ブレークスループロジェクトは、トップから現場のプロジェクトメンバーがプロジェクトの目標達成に向け、様々な業務の中でも、プロジェクトの課題に優先的に取り組む必要があります。このような状態を作るためには、プロジェクトに関わる全ての人が「なぜ、このプロジェクトを行なわなければならないのか?」、「なぜその水準の目標を達成しなければならないのか」というプロジェクトの絶対的な必要性に関して「意識、行動レベルまでの刷り込み」が徹底して行なわれていなければなりません。
 全体戦略は、プロジェクトオーナーにより示されます。多くは中期戦略ビジョンや年度方針などをより具体的にしたものになります。
 個別戦略は、戦略サポーターが中心となって行ないます。戦略サポーターは、全体戦略を受け、プロジェクトテーマの与件を整理し、組織の中長期のビジョンと目標、内外の事業環境分析を行ないます。その上で、各テーマの実施の目的と目標などの個別戦略を企画し、「プロジェクト企画書」を作成します。
 もしプロジェクト企画の内容が不十分な場合は、プロジェクトの実行を遅らせてでも、企画しなおす必要があります。企画書の内容について妥協してプロジェクトを先に進めることは、後のプロジェクト成否に大きく影響を及ぼすことになります。
 
 プロジェクト企画書作成でもっとも重要でかつ難しいことは、二つあります。一つは効果的な戦略策定です。ブレークスループロジェクトはこの個別戦略を起点にアクションを起こしますので、戦略そのものが曖昧だったり、的はずれであったりすれば、成果は出ません。ここで戦略サポーターの戦略企画力が試されます。もう一つは、個別戦略をプロジェクトリーダー、メンバーにしっかりと刷り込めるか、ということです。戦略の背景、意図、目指すべきこと、課題がしっかりと理解されていなければ、プロジェクトの実行計画も実行のアクションも曖昧なものになります。ここでは、戦略サポーターのビジョン伝達力が問われます。
 
②『プロジェクト実行計画作成セッション』
 『プロジェクト実行計画作成セッション』では、各プロジェクトのプロジェクトリーダーとプロジェクトメンバーが目標達成に向けた具体的なアクションプラン「実行計画書」を作成します。プロジェクトリーダーとプロジェクトメンバーは、成果を実現するために最優先で取り組むべき課題(施策)は何かを検討し、その達成すべき水準(先行指標)を設定します。
「実行計画書」が作成された後、プロジェクトオーナーと戦略サポーターは、以下の点が十分検討されているかを確認します。

  • プロジェクト成果を実現するためのシナリオがメンバー間で共有できているか
  • これまでの既成概念を打ち破ったアイデアが出されているか
  • 実行のリスクが十分に検討されているか
  • アクションプラン毎に定量的な目標が日次、週次で設定されているか
  • プロジェクトを通じて、チーム、メンバーが伸ばすべきスキルを認識しているか

 実行計画とは、メンバーがプロジェクトの目標に最短でたどり着くための道標となるものです。メンバーは常に目標達成を念頭におき、環境変化に応じて、施策実行の前倒し、同時並行でアクションさせたり、その順番を入れ替えたりするなど、臨機応変な対応が求められます。そのためには、現在の活動の次に何を行なうべきかが具体的に示された計画が必要となります。
 また、プロジェクト実行計画の内容が十分検討されていないと判断される場合は、プロジェクトの開始を認めないようにしなければなりません。
 プロジェクト実行計画書の作成にあたっては、「メンバー全員を関わらせる」ことが重要です。各メンバーが目標達成のためのアクションを自らが考え、宣言することによって使命感をもって取り組むようになります。特定の人だけで作った実行計画では、「自分が立てた計画ではないから責任を取れない」、「自分の意見が取り入れられなかったため、プロジェクトへの興味が湧かない」などの言い訳を許してしまう原因となる可能性があります。
 
③『プロジェクト実行セッション』
 『プロジェクト実行セッション』は、実行計画で設定した目標に基づいて行動します。メンバーが緊張感をもってプロジェクト活動を行なうためには、プロジェクトオーナーや戦略サポーターの積極的な関わりが必要になります。
ここでいう関わりとは、

  • プロジェクトの障害となる組織の壁を取り除く
  • 現場から挙がってきた情報をもとに新たな発想での解決策を示す
  • 未達の原因を指摘し、改善を求めて原因を取り除く
  • 現場の変化に応じて課題解決の優先順位を変える
  • コミュニケションを基にして、プロジェクトリーダー、メンバーのモチベーションを上げる
  • 日単位、週単位での目標達成を褒める

といったことです。
 プロジェクトメンバーが目標達成できないことの言い訳を許さない状況と、どうやって課題解決するかが明確で、前向きに取り組める状況という環境をつくります。
 
次回のコラムでは、『プロジェクトテーマ設定セッション』の具体的な進め方について説明をします。

△▼ このコラムの関連商品 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 ⇒ ブレークスループロジェクト
  ⇒ 中期経営計画&ブレークスループロジェクト
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

このページのトップへ