組織革新「ブレークスループロジェクト」

ニューチャーネットワークス 山本 邦正 
ニューチャーネットワークス 張 凌雲 2009年11月11日

前回までのあらすじ

 佐藤さんたちのプロジェクトチームは、最終報告会までになんとか目標を達成し、その後も目標売上の水準を維持することができた。途中、様々な危機的状況になりつつも、論理的な施策と目標達成への情熱でその危機を乗り越えてきた。佐藤さんはいよいよ最終報告会に臨む。

 
最終報告会当日、佐藤さんは成果発表の順番を待つ間、約3ヶ月前のことを思い出していた。

「3ヶ月前、プロジェクトのキックオフの時、自分のプロジェクト内容を発表するのに自信が今ひとつなくてあんなに不安だったのに、今日はすごく落ち着いていられるな。成果を出したという自信のおかげかな。」

佐藤さんはキックオフの時とは違い、非常に自信を持って成果発表に臨むことができ、発表はすんなりと進んだ。そして最後に、原田社長からコメントをいただいた。

「佐藤さん、表参道店のみなさん、お疲れ様でした。すばらしい成果を出せたプロジェクトだったと思います。このプロジェクトには自分も少し関わったので、このような成果につながり、とても嬉しく思っています。ここからはお願いなのですが、今後、他のプロジェクトを行なう際の参考になるように、今回のプロジェクトにおける成功要因、困難なことをどう乗り越えたか、もっとうまくできたと思うことなどを是非まとめておいてほしい。PMOの鈴木さんと一緒に取り組んでください。お願いします。」

後日、佐藤さんはプロジェクトのふり返りをするため、PMOの鈴木さんを訪ねた。すでにPMOの鈴木さんは会議室におり、どうやらさっきまで他のチームのふり返りを行っていたようだ。

「佐藤さん、お疲れ様です。早速始めましょうか。それにしても、途中の苦しみが最後の成果につながり、本当に良かったです。原田社長まで出動させたので、なんとしても目標達成してほしかったんですよ。本当にお疲れ様でした。」

「いえいえ、行き詰まりそうなときにたくさんヒントをくれた鈴木さんのおかげです。あれがなかったらおそらく当初目標も超えられたかどうか分からないですよ。それに今回、表参道店だけでなく、いろいろな関係者に手伝ってもらえたのが、何より心強かったです。」

「ありがとうございます。そう言ってもらえると、今回ブレークスループロジェクトを行なった甲斐がありましたよ。さて、プロジェクトのふり返りですが、プレークスループロジェクトを成功させるための7つのポイントに沿ってふり返ってみようと思います。」

※ブレークスループロジェクトを成功させるための7つのポイント(第1話参照)

『①結果重視で取り組むこと』
『②緊急の状態を作ること』
『③達成までの道筋が明確になるように小さなステップで取り組むこと』
『④変化を常にキャッチしながら柔軟に進めること』
『⑤組織にあるリソースを最大限活用すること』
『⑥挑戦しがいがあり達成可能な目標を設定すること』
『⑦できるだけシンプルに取り組むこと』

佐藤さんは7つのポイントをふり返った。

『①結果重視で取り組むこと』

「キックオフで発表したはじめの目標は、売上額しか設定していなかったのですが、その点をずばり事業部長に指摘されましたね。どのようにその売上を達成するかという点を十分に検討できていなかったため、安易に売上目標をあげただけになっていました。再度検討するにあたっては、お客様がどういう注文をされて、それがどのように売上につながっていくか、自分たちがカフェタイム営業をして何を提供するのかという観点で目標を再設定しました。③にもつながることですが、上記の観点で売上をどう組み立てるかという議論をしたことで、自分たちがどうアクションして目標につながっていくかが、より具体的にイメージできたし、メンバーで共有できたと思います。」
 
<ポイント>
 ・結果は顧客視点で考える。顧客に満足してもらい、はじめて成果につながる
 ・結果に結びつく具体的なアクションになっているか

 

『②緊急の状態を作ること』

「緊急の状態を作るというか、緊急の状態になってしまったという方が正しいですね。デザート担当だった榊原さんが倒れたときは、どうしようかと非常に不安になりました。すでにカフェタイム営業はスタートしていましたし、目玉であるデザートを作っている、まさにその人ですから。榊原さんがレシピノートをつけていたことも幸いしたのですが、スタッフ全員で再度やることを棚卸し、取組に優先順位をつけて人員配置を見直し、一丸となって取り組めました。そのおかげでその後、当初目標の壁を突破することが出来たのだと思いますね。」

<ポイント>
 ・情報の見える化、共有で緊急の時でも迅速な対応が出来るように準備
 ・状況に応じて、活動の修正、取り組み優先順位付け、資源(ヒト・モノ・カネ)の
  見直しと集中的投入を行い、緊急状態を乗り越える

 

『③達成までの道筋が明確になるように小さなステップで取り組むこと』

「①でも挙げましたが、目標を再検討する過程で、お客様の注文から売上までを具体的に考えてみたことで、目指すべき目標に加え、個人個人がそれぞれの役割でやるべきことも見えてきました。そのため、アクションレベルで目標達成まで、“誰が”、“何を”、“いつまでに”、“どのようにやるか“を考えることが出来たと思います。また、そのようにアクションレベルで考えたことで、次にやることが明確にでき、次のアクションに移るスピードも速まったように思います。デザート担当の榊原さんが倒れてしまったときに特にそれを感じましたね。アクションレベルでひとりひとりがやること明確にして取り組んだことで、人が少ないという厳しい状況の中でもなんとかはじめの目標に到達することが出来ましたからね。」

<ポイント>
 ・個人個人がやるべきことを明確に認識し、理解出来るステップで取り組む
 ・目標達成まで、「誰が」、「何を」、「いつまでに」、「どのようにやるか」を
  アクションレベルに落とし込む

 

『④変化を常にキャッチしながら柔軟に進めること』

「集客エリアを決めてまんべんなく順番に活動するというよりも、効果的な集客エリアを見いだすために活動する人を調整しながら柔軟に対応して重点エリアを探ったりしたのは、結構有効だったように思います。活動した結果を考慮し次の活動に生かすというサイクルを意識的に何度も回すことができました。はじめに決めた計画通りに必ず実行するというやり方では、単なる作業になりかねなかったような気もします。」

「そういう意味では、キックオフの時にあった、営業開始をもっと前倒してやるように、という指摘は、このことを意識させるためだったのだと、今ならわかりますね。はじめに計画を立てたときは、失敗しないように十分に準備をしてから、という意識があったため、準備期間を結構長くとっていたのですが、指摘を受けて再検討した計画では、営業開始できる最低限の準備をして開店後その状況に合わせて柔軟に改善していくという方法にしました。結果それが正解でした。はじめに思っていたよりも予想外のことが起こったりしたのですが、それに対して柔軟に対応することができましたので。」

<ポイント>
 ・仮説・検証の意識を持ち活動する
 ・検証した結果は次の活動に活かす
 ・動きながら変化を感じ考える

 

『⑤組織にあるリソースを最大限活用すること』

「表参道店のメンバーだけでやるというのは、やはり限界があったでしょうね。鈴木さんが窓口になって調整していただけたのでプロジェクト中はあまり感じませんでしたが、今になって思うと、行き詰まったときのヒントはチーム外からも得ることができるということをあらためて感じます。例えばひとつ目としては、似たような課題を持ったチームリーダー達が本社に集まって議論したので、課題解決に真剣になれたということ。ふたつ目は、まさか社長自ら動いてくださるとは思っていませんでしたが、他企業との交渉を一番早く進める方法を実行できたということですね。」

<ポイント>
 ・チームの外部から、違う視点でのアドバイス
 ・様々な関係者を巻き込み、あの手この手で取り組む

 

『⑥挑戦しがいがあり達成可能な目標を設定すること』

「目標は、これまでの経験からだいたいこれくらいが妥当だろうと思うレベルから2~3割増くらいのイメージで設定しました。今回カフェタイム営業は初めての取り組みだったとはいえ、ランチやディナー営業の状況を元に客単価や来客数を見積もり、それにストレッチ分を上乗せして目標設定しました。ストレッチ分を達成するためには、これまでのやり方や発想にプラスして、別の何かが必要でしたので、どう達成するか結構チームで検討しましたね。特に、再度来店してもらうためにお客様に提供するデザートメニューや提供の仕方、少ない人数でどう効果的な集客ができるかなど、深い検討ができたと思います。また、深い検討を行うことができた故に、個人、チームで、何をどのくらい実施して目標達成に貢献するかということも明確になっていきました。」

<ポイント>
 ・これまでにないやり方、発想での取り組みを考える
 ・アイデアが尽きるまで議論する
  (これまでの延長上にあるアイデアを超えた異なる発想でのアイデアが出るまで)

 

『⑦できるだけシンプルに取り組むこと』

「シンプルな取り組みになるよう、テーマ、目標もシンプルに設定しました。それらをシンプルにしたことで、定量的な目標を設定することができましたし、達成するためのアクションもシンプルにすることができました。ただ、そこまではできたのですが、キックオフの時にテーマの表現方法を指摘されましたね。機械的にやることを具体化して『カフェタイム営業を14:30~17:00の時間帯で実施』としたのですが、指摘を受け、シンプルに取り組むためにチームの全員が目指すビジョンを象徴するようなテーマという観点で、『表参道でNo.1のカフェタイムを提供』という表現に修正しました。」

「また、シンプルに取り組んだことで、集中してそのアクションに取り組むことが出来ました。例えば、集客の時に、『今日はこのエリアで何時から何時までクーポンを配布する』といったように、シンプルに取り組んだので、そのアクションに集中して取り組むことが出来たと思います。また、集中して取り組めたからこそ、そのときのアクションと結果を十分に検討し、次のアクションに活かすことが出来たのではないかと思っています。」

<ポイント>
 ・定量的に表現できるシンプルな目標
 ・行動に移しやすいシンプルな取り組み
 ・シンプルな取り組みを飽きさせないゲーム感覚

 

鈴木さんは、佐藤さんが7つのポイントについて一通り話した後、さらに聞いた。

「7つのポイント以外に何か気づいたこと、感じたことはありませんでしたか? うまくいったケース、いかなかったケースなど。どうでしょう?」

「そうですね、当初立てた目標を達成した後、気が緩んでしまって、次の目標に向かう行動が後手になってしまったことがありましたね。早い段階に目標を達成し、残りの期間も同じようにやれば同様の成果が出ると考えてしまったこと、当初の目標の前提となっている目的を忘れてしまい、目標達成がゴールと思ってしまっていたことが、行動が後手になった原因と思いました。目標達成したら目的に立ち戻り、さらなる成果を上げるために取り組むということを忘れてはいけないですね。」

「あと、全員が一丸となって集中的に取り組むので、あらかじめリスクに対応する準備が必要かなと思いました。デザート担当の榊原さんが入院してしまったのも、榊原さんに負荷がかかりすぎてしまったためなので、負荷がかかりすぎないような対応を考えておくべきでした。また、たまたま榊原さんがレシピノートをつけていたため、榊原さんではない人でもデザートを作ることが出来たのですが、あれがなかったら、かなりまずい状況になっていたと思います。誰かが欠けたときの代理を担保するようなリスク対応も必要でしたね。」

<ポイント>
 ・常に目的に立ち返る意識を忘れない
 ・考えられるリスクは洗い出しておき、その対策も併せて考えておく


「佐藤さん、ありがとうございました。10週間のブレークスループロジェクト、ご苦労様でした。カフェタイム営業は他の店舗でも取り組めそうなので、このふり返りを活かして、どんどん展開していきたいですね。」

「そうですね。そのときはお手伝いしますよ。そろそろお店に戻ります。ありがとうございました。」

そう言って佐藤さんは会議室を後にし、表参道店に戻っていた。今日もカフェタイムはこれまで通り営業している。

(完)

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