前回までのあらすじ プロジェクトがスタートし、メニューの決定に苦戦したものの、チーム一丸となってなんとか予定通りにカフェタイムの営業を始めることが出来た。しかし、カフェタイムの営業を始めたものの、なかなか成果につながらなかった。事務局に相談し、なんとか解決の糸口が見えた矢先、デザートメニューを担当している榊原さんが倒れてしまった。 |
表参道店プロジェクトチームメンバー 佐藤さん・・・イタリアン事業部に所属。プロジェクトチームのチームリーダー アルバイト時代からA社に在籍する現場たたき上げ 酒井さん・・・ホールスタッフのリーダー 大久保さん・・・キッチンスタッフのリーダー 本多さん・・・ホールスタッフ。表参道店でアルバイト歴5年のベテラン 榊原さん・・・キッチンスタッフ。デザート担当 石川さん・・・本部マーケティング部。マーケティング面でチームを支援 |
■プロジェクト前半戦のふり返り
~予定通りのスケジュールだったが目標達成には至らず。その要因は?
幸い榊原さんは、2週間程度の休養が必要なものの大事には至らず、後日仕事に復帰出来るとのことだった。通常業務をこなしながらカフェタイム用のメニュー開発を行い、開発途中で方針転換した際も迅速に対応してくれていたが、その分榊原さんに負荷がかかっていたのだろう。佐藤さんは、カフェタイム営業スタート日のことで頭がいっぱいで、チームメンバーの様子まで気が回っていなかったことを反省した。
翌日、佐藤さんは榊原さんが入院している病院へお見舞いに行った。どんな顔をして会えばいいか分からなかったが、病室に入って一番に榊原さんから、
「こんな時に倒れてしまって、申し訳ないです。」
と言われて恐縮したが、
「こちらこそ負荷をかけてしまってすみません。ゆっくり休んでください。」
と伝えた。
しばらくこれからのお店のことなど話をした後、榊原さんは、今回のプロジェクトで試作したデザートメニューのレシピノートがあることを教えてくれた。そのレシピ通りにつくれば、カフェタイム営業で提供しているデザートは作れるから大丈夫と励ましてくれた。
佐藤さんは、カフェタイム営業の準備に取りかかるため、早速店に戻った。店では、榊原さんの抜けた穴をカバーするため、大久保さんがキッチンスタッフのリソースを調整してくれていた。佐藤さんは、榊原さんに教えてもらったレシピノートを大久保さんと確認し、カフェタイム営業のデザート準備に取りかかった。キッチンスタッフも出来る範囲で作業を分担して、無事カフェタイムの営業を開始出来た。また、店舗オペレーションのリカバリーに人手を割いたため、集客のためのクーポン配布の人手を減らさざるを得なかったが、PMO(Project Management Office)チームと議論した施策を実施するべく、石川さんを中心に議論し、重点エリアを複数決めた。さらに、その重点エリアで配布効果が大きいエリアについては、頻度を上げて配布することにした。
※成功のポイント
危機的状況の時こそ、取り組みに優先順位をつけ、今ある人手(リソース)をうまく配分してプロジェクトが滞らないようにしなくてはなりません。そのためには、「柔軟」な取り組み、人員配置が必要です。
カフェタイム営業のオペレーションがなんとかまわることを確認した佐藤さんは、後日行われる中間報告会に向けて、これまでの成果についてまとめることにした。
メニューの方針転換、榊原さんが離脱してしまうということはあったが、何とかスケジュール通りにカフェタイム営業をスタートさせることが出来た。そして、店舗オペレーションもうまく運営できていた。しかしながら、目標にはわずかに届かなかった。最も大きな原因として挙げられるのは、予定通りオープンさせることに重きを置いたため、集客が後手に回ってしまい、来店者の絶対数が少なかったことだろう。
そこで佐藤さんは、「後半は、店舗オペレーションに慣れてきたと思うので、本多さんには集客に力を入れてもらい、来店者数をアップさせるべく、石川さんと一緒にがんばってもらおう。」と考えた。
■中間報告会
~成果と今後の取り組みを報告し、目標達成に必要なことを提案する
中間報告会当日、佐藤さんは顔を合わせた他チームリーダーたちから、「キッチンスタッフが倒れたんだって?大丈夫?」といった心配の声を聞き、こういう情報は結構早くまわるのだと感じた。
佐藤さんは、目標と実績、目標達成への課題とその対応策、プロジェクト後半の計画を報告した。
「前半の結果は、スケジュール通りカフェタイム営業をスタートしたものの、正直苦戦しています。もう少しで目標に届く日もあったのですが、結果として目標に到達した日はありませんでした。」
「現在出ている課題としては、来店者の絶対数が十分でなく、結果、売上目標が達成できていない点です。ただし、それについては、PMOチームとの相談および検討で、集客の取り組み方を工夫することで、効果的な活動を行うこととしました。」
「また、もう一つの課題としては、キッチンスタッフの1名が入院してしまったことで、必要な人手が足らない状況です。今のところは何とかフォローし合って対応できているものの、この状況が続くと、仕事の負荷が高いスタッフがさらに離脱してしまうという事態になりかねません。どうか、追加の人員をまわして頂けないでしょうか?」
※成功のポイント
プロジェクトの成功のために必要なことを提案することが重要です。トップが参加している今回の報告会のような場だと、より素早い意思決定が行われるでしょう。ただし、提案する際には、なぜそれが必要なのかを「説明」するのではなく、「説得」するという姿勢が大切です。
原田社長からは、実績は目標に達していないものの課題が見えており、その対応も検討されていることから、引き続き進めて行くよう言われ、集客数の壁をブレークすれば、目標達成も目前だと励まされた。ただし、進捗については、事務局へ報告し、目標との乖離度合いをこれまでよりも密に共有するようにとも言われた。また、事業部長からは、追加人員について調整してみるとの返事をもらった。
■前半戦に突破できなかった壁に挑む
~目標達成への強い想いによる推進力
報告会も終わり、いよいよプロジェクトの後半へ突入することとなった。榊原さんが入院してしまい、一時はどうなるかと不安だったオペレーションもなんとか回り出して定着しそうだ。集客プランも重点エリアに対して、ローテーションしながらクーポンを配布し、それを持って来店してくれたお客様の数を測ることで、お店に誘導しやすいエリアをさらに絞っていけそうだ。
プロジェクト後半が始まり、4日が過ぎた。人数が少ない中でのオペレーションも定着し、集客につながりやすいエリアも絞れてきた。しかし、「来店者の30%にスイーツを注文してもらう」という目標は達成出来ているものの、「売上目標1日あたり9万円」の方は達成水準にもう一歩届かない状況であった。カフェ営業終了後、佐藤さんはプロジェクトメンバーを集めた。
「集客につながりやすいエリアの傾向も見えてきたので、明日のクーポン配布はAエリアに絞って行い、目標達成に向けて勝負をかけたいと思います。」
佐藤さんの宣言に現場のみんなも俄然やる気になり、なんとか目標達成しようという意気込みがこれまで以上に高まった。
※成功のポイント
なかなか破れない壁に対しては、チームの結束をよりいっそう強め、一点突破する気概が必要な場合があります。ここでは、超短期的な目標(明日の営業成績)に全員を集中させ、具体的な取り組みや分担を決めて、目標達成に向けた壁を一点突破しようとしています。
翌日、ついに「1日あたりの売上額9万円」と「来店者の30%にスイーツの注文をもらう」という両方の目標を達成した。佐藤さんをはじめとしたプロジェクトチームのメンバーは、大いに盛り上がった。同時に、佐藤さんは、やっと目標を達成することができてほっとした。あとは残りの期間、今のやり方で運営していけば、大丈夫だろうと思った。PMOチームの鈴木さんにも目標達成の連絡をした。
「先日相談させていただいた課題への対応策がうまくいき、なんとか目標達成することができました。ありがとうございました。」
「佐藤さん、おめでとうございます!かなり前倒しで目標達成できましたね。目標達成一番乗りのチームですよ。プロジェクトの最終報告会まであと1ヶ月くらいあるので、意欲的に目標水準を上げてみませんか?」
追加でお願いした人員も調整してもらっているし、運営方法も固まったと思った佐藤さんは、
「じゃあ、売り上げ目標を約30%アップして、1日あたり12万円にしたいと思います。今まで以上にストレッチな目標ですが、達成できるようにがんばります。」
と、新たな目標を掲げた。
■順調なプロジェクトの落とし穴
~ついついの気の緩みがもたらす悪影響
目標達成の翌日から5日間、当初の売上目標9万円を超えるか超えないかという水準で推移し続けていた。佐藤さんは、来週から始まるディナーフェアの準備にかかりっきりであったが、カフェタイム営業の方は、エリアを絞る集客方法で良いエリアをさらに見つけることができれば実績は上向くと思い、もう少し様子を見ることにした。しかし、いっこうに上向く気配はなく、さらに2日後、ついに1日の売上が8万円を割ってしまった。
予想外の展開に佐藤さんは、カフェタイム営業終了後、チームメンバーを集めて状況を確認することにした。
(そういえば、全員で集まって打ち合わせするの久しぶりだな・・・。)
いろいろと議論した結果、途中まではプロジェクトが順調に進んでいたが、プロジェクトを進める過程でいくつかの落とし穴があったことに気がついた。
①目標達成したことにより、気が緩んだ
当初の目標を前倒しで達成したがゆえに、残りの期間も同じようにやれば同様の成果が出るだろうと考えてしまっていた。当初の目標の前提となっている目的を 忘れてしまい、目標達成がゴールと思ってしまっていた。目標達成したら目的に立ち戻り、さらなる成果を上げるために取り組まなくてはいけなかった。
②新しく立てた目標のための検討が出来ていなかった
新たに高い目標を立てたものの、目の前の業務に忙殺され、チームミーティングを以前ほど行わなくなっていた。そのため、各担当者は、新たな目標に対して何をどのように行えばよいかチームで共有できず、ついついこれまでと同じ方法でなんとなく続けてしまった。
③調整してもらえるはずの人員がこなかった
中間報告の場で、人手の調整の了承を得ることが出来たが、いつまでに、どのような人を配属してもらうか、具体的に確認していなかった。提案に対する了解を得たら、具体的な要件を詰めることが重要です。
佐藤さんは、まず自分が目標達成で気が緩み、管理も甘くなり、主担当に任せっきりにしてしまったことでチームの状態がここまで悪くなってしまったことを大いに反省した。まさに、扇子の要が無くなったため、扇子として機能しなくなったという状態である。また、再設定した目標をメンバーに伝えたものの、達成に向けてどう取り組んでいくのかということを充分にチームで検討しないまま、メンバーに任せてしまったのはまずかったと思った。
佐藤さんは、明日メンバー全員で集まり、仕切り直しのために残りの期間でどう目標達成していくかを議論しようとメンバーに伝えた。また明後日は、入院していた榊原さんが復帰する。榊原さんのためにもチームの状態を良くしておき、もう一度目標達成に向けて仕切り直そうと思った。
(第5話へ続く)
次回のあらすじ いよいよプロジェクトも最終局面。PMOチームに相談して見いだした施策は結果につながったものの、目標達成度やプロジェクトチームの状態はよくなく、最終報告会での成果発表にむけて仕切り直すこととなった。はたして、佐藤さんのチームは現状を打破し、最終報告会で目標達成の報告ができるのだろうか。 |