新商品・新事業開発「バリュー・コンセプトメイク」

ニューチャーネットワークス 高橋 透 2009年12月22日

■「コンセプト」とはなにか

 「これから将来仕事をしていく上で最も重要なスキルは何か?」と聞かれたら私は迷わず「コンセプトメイク力」と答える。かつて学校や職場では、記憶することや分析することが重視されてきた。しかしそれらの能力は次第に我々の身近にあるコンピューターに代替され始めている。携帯電話、ノートパソコン、携帯端末(Palm Handhelds)などからネットで検索エンジンに繋げば、世界中の「記憶」が検索され、求める答えを教えてくれる。人類未経験の新しい情報環境の中で、人に求められるスキルが大きく変わってきている。そのスキルとは、ある概念を創造する力「コンセプトメイク力」である。

 学問体系の中で記憶と分析を重視してきた学校教育では、未だコンセプト力向上の教育は十分に提供されていない。しかし、私達が社会人になり最も求められるスキルは「コンセプトメイク力」である。最近よく「かつてよりも学歴があてにならない」と言われるのも、学校ではあまり教えてこられなかった「コンセプトメイク力」が重視される社会に変化したためであろう。
 「コンセプト」を一言で説明するならば「あるひとかたまりの構造化された概念」と言える。「商品コンセプト」「事業コンセプト」「デザインコンセプト」「ショップコンセプト」「広告コンセプト」など「コンセプト」という言葉は我々の周りで実に多く使われている。しかしコンセプトとは何かについては、意外に理解されていないのではなかろうか。今回はこの「コンセプト」に関して詳しくお伝えしたい。

 

 「コンセプト」に対して「アイデア」という言葉がある。その違いは厳密には区別できないが、「アイデア」は「コンセプト」を構成する一要素である。複数の「アイデア」を何かの視点で編集、そして構造化し、ひとかたまりの意味をもつ概念に形づくったものを「コンセプト」と呼ぶ。いくらすばらしい「アイデア」でも「アイデア」だけでは「コンセプト」にならないが、その一方で「アイデア」が貧困では魅力的「コンセプト」にはならない。

 


 それでは「コンセプト」の構成要素とはどの様なものなのであろうか。ここでは少しわかりやすくするために、「商品コンセプト」を例にとって解説したい。

① 「ターゲット顧客」が明確になっているか

「コンセプト」を理解し、共感するのは人の心であり、感性である。感動、共感は人によって様々である。それ故どの様な人に感動し、共感して欲しいのかが明確でなければならない。このコンセプトは誰に理解してもらいたいのか、いわゆるターゲット顧客がはっきりしていなければいけない。ターゲット顧客は性別、年齢、職業、所得、居住場所といった統計的な属性などで明確に区分される。その顧客属性の区分の方法の中で、生き方、基本的な考え方といった価値観で区分する場合も多くなってきた。

② 「顧客の状況、シーン」が特定されているか

同じ20歳前半の社会人女性でも、一週間が始まる月曜の朝と、週末金曜の朝では気分は異なる。だから朝の食事の内容も違う可能性が高い。また、同じ30歳代後半の社会人男性でも、会社の同僚と会社帰りに外食をするときと、家族で休日に出かけて夕食を食べるときでは、オーダーするものが全く異なる。このように同じ顧客であっても、状況やシーンが異なれば、消費するものが異なる。このように消費者は多面性がある。コンセプトは顧客の状況やシーンを選ぶ。反対に顧客はシーンによって商品を使い分ける。

③一言でそれが何であるか、何がユニークなのか「キャッチコピー」でわかるか

 コンセプトは顧客にとってその特徴が明瞭で伝わりやすくなければならない。それが何であるか直感的に解ってもらえるものでなければ、完成されたコンセプトとは言えない。特徴が消費者に伝わらなければ手に取ってもらえないし、ましてや買ってももらえない。コンセプトの明瞭さを示すものは、商品コンセプトのキャッチコピーである。キャッチコピーがつけにくいとしたら、コンセプトが不完全である可能性がある。また、他の商品との違いが解りにくいのは、コンセプトの独自性が低いためであろう。

④コンセプトそのものが独自でありその内容構成がしっかりとしているか

 コンセプト内容構成には基本的表現形式がある。ただ特徴をだらだらと述べても、コンセプトは伝わらない。コンセプトの内容構成には主に2つの表現形式がある。
 一つは、「基本的要素」と「付加的要素」に分けて構成要素を表す表現形式。「基本的要素」とはそのコンセプトの中心的特徴を表すもので「付加的要素」とはコンセプトにとって外せない「基本的要素」に対し、それ以外の周辺的、付随的要素である。
 もう一つの表現形式は3つのベネフィットの分類で構成要素を表す方法である。3つのベネフィットとは、「機能的ベネフィット」「情緒的ベネフィット」「自己実現的ベネフィット」である。「機能的ベネフィット」はいわゆる性能で表現されるもので、主に技術的なもので支えられている。「情緒的ベネフィット」とは消費者の嗜好的判断の対象になるもので、
主に色、デザイン、手触り感、風合い、香りといった五感で感じる要素で支えられている。「自己実現的ベネフィット」とは顧客の人生観、価値観に基づき、判断される内容である。それは製品や企業の歴史的背景、フィロソフィー、設計製造プロセス、品質、信頼などから創り出され認知される商品の「意味性」とも言える。またそれはブランドイメージでもある。日本や欧米などの物質的に満足した社会では、この自己実現的ベネフィットが重視される。
 コンセプトメイクの作業では、コンセプトがどの様な項目で構成されているか、各項目の比重がどのようになっているのか、項目ごとの関係性がどうなっているのかなどが最も重要なことである。コンセプトのいずれの表現形式であっても、その内容がしっかりと構造化され、ある程度の実現の裏付けがなければならない。

 

⑤コストはどのぐらいか

 その商品がいくらで入手できるか、つまり価格も商品コンセプトの構成要素の重要な一つである。価格はその商品がどの程度の価値であるかを示す表現手段でもある。そのため価格のことを価値表示と言う場合もある。
 コストは価格だけではない。顧客の購入前の手間、購入後の負担など顧客が支払う犠牲全てがコストに含まれる。商品の廃棄コスト、環境負荷コストや、商品を活用しきるため使用方法を学習することもまたコストに含まれる。最近では金銭的なコストよりも間接的なコストの方が比較対象になる傾向がある。

⑥そのコンセプトにフィットした情報伝達方法、販売チャネルや販売方法になっているか

 商品コンセプトは、モノやサービスだけではない。商品を知らしめるための情報伝達方法や販売チャネルやそこでの販売方法も含まれる。それらは商品コンセプトにフットしていなければならないし、そのコンセプトの特性を引き出すものでなくてはならない。同じ商品であっても、TV広告か、新聞か、雑誌かによって伝わる対象顧客もその意味も大きく変わる。コンビニエンスストアか百貨店か、通信販売かネット販売かによって価値の伝わり方が異なる。伝達方法、販売方法も顧客のベネフィットを大きく左右する。

⑦最終的な顧客ベネフィットとは何かがはっきりと言えるか

 商品を使用した後の顧客は、最終的にどの様な満足を得るのか、顧客ベネフィットを明確に表現できなければならない。例えば自動車のBMWの主なコンセプトの特徴は、力強いエンジンや、固めのシート、ドアの重厚性などであるが、最終的なベネフィットとは、洗練された高級感のあるスポーティ感覚であろう。商品コンセプトの特徴が複数あったとしても、顧客のベネフィットとは、このように統合された独自の「知覚」であるべきである。競合他社と比較した、知覚の位置づけ、違いを表現するためにマーケティングではよく「市場ポジショニング分析」を行う。
 商品コンセプトを例にとって「コンセプト」を説明してきたが、①から⑦までは、「商品コンセプト」に限らず、ほとんどの「コンセプト」に当てはまる。例えばそれは「業務改善コンセプト」であっても活用できるはずだ。その改善は①誰のためか ②その人、組織はどの様な状況にあるのか ③改善は一言で言うとどの様な特徴があるのか。④改善の基本構成はどの様になっているのか ⑤改善にかかるコストは何がどれくらいか ⑥この改善は、だれがどこでどのような手段でその普及啓蒙を行うのか。⑦改善の成果は何か といった具合である。この①から⑦までの要素がしっかりと構造化され、一連の「文脈=コンテキスト」になっていなければならない。
そして顧客が是非欲しいと言えるものでなくてはならない。

 

 
 次回は、自分独自の魅力的なコンセプトを創り出すための「文脈=コンテキスト」をいかに見つけ出すかという方法についてお伝えする。 

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