新商品・新事業開発「バリュー・コンセプトメイク」

ニューチャーネットワークス 福島 彰一郎
ニューチャーネットワークス 甲畑 智康 2008年12月17日

■ エモーショナル・インパクトのある商品開発

 「第1回 商品開発におけるフィールド調査の効果」において、「企業と顧客」の共創・創発が重要であることを述べました。企業と顧客が、「売り 手・作り手」と「買い手」という立場を超えて、関わりをもつことにより、商品開発のための新しい切り口が見つけるアプローチです。特に消費財では、この新 しい切り口として、顧客の情緒的なレベルまで訴求する価値を見つけることが重要となります。

 

  • 5年ほど前までは、携帯電話に感動があった
  • ポケットベルから携帯メールに変わった時の感動は忘れられない
  • 携帯電話で写真が撮れた時の感動も忘れられない。さらに、その写真をメールで送れるようになった時も大変感動した
  • インターネット接続ができた時はその利便性に感動した
5年ほど前までは、携帯電話に感動があった・・

 最近の携帯電話も多くの機能・サービスを備えていますが、上記ほどの感動はあったでしょうか。「機能が多すぎて、かえって操作が複雑になり不便に なった」という声をよく聞きます。企業としては多くの価値を提供しているつもりが、顧客にとってはその複雑さゆえにデメリットになっているのです。しか も、情緒レベルでのデメリットになってしまうとさらに顧客は遠のきます。

 こうした状況もあり、一部のメーカーでは、携帯電話の基本的機能による差別化ではなく、デザイン的価値や情緒的価値による差別化に戦略を転換して きています。例えば、いわゆる“おしゃれ家電”の企業とのアライアンスにより、アライアンス先の優れたデザインやブランドを活用した差別化です。

 このような一部の取り組みはあるものの、まだまだ情緒レベルの価値を見つけるのは容易ではなさそうです。なぜなら情緒レベルの価値は、人の「心」 の中の価値であり、その人にしか分からない内容だからです。企業側としては、直接「心」の中の価値は分からないものの、対話や観察などの共創・創発的アプ ローチで間接的に「心」の中の価値を探っていくしかないようです。

■ 企業と顧客との共創・創発のパターン

 情緒レベルの価値を見いだすためには、共創・創発的なアプローチが有効な場合があります。では、具体的にはどのようなアプローチのパターンがあるのでしょうか。今回は、その共創・創発の代表的なパターンを紹介してみたいと思います。

(1) 企業による生活者の商品の利用シーンを第三者的に「観察」

  • ライフスタイルや利用シーンの観察を通じて、ニーズや行動、価値観などを探っていきます。多くの企業の商品開発においてすでに実施されているアプローチです。

(2) 企業による生活者の利用シーンの背景にある生活環境や社会トレンドの「観察」

  • 生活者の暮らしている生活環境やそのトレンドを実際に観察することにより、新しいトレンドの兆しを見いだすアプローチです。

(3) インタビュー調査などによる、企業と生活者の直接の「対話」

  • 生活者に商品や商品コンセプトを提示し、それについてインタビューを行い、対話を通じて顧客のニーズを探っていくアプローチです。
  • 例えば「なぜあなたにとってこの商品は価値があるのか」といった質問を繰り返すことにより、特定の商品が有する機能と消費者の情緒的価値・価値観の結びつきを明らかにしていく、「ラダリング法」などがあります。

(4) 商品の作り手である企業が生活者の利用シーンを実際に「体験」

  • 本コラムの第1回にもありましたが、実際に商品を使用するなど生活者の「生活」に入り込むことによって、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚という五感を通じて、暗黙知の情報を認識することができます。この暗黙知が新商品のヒントになります。

(5) 複数の企業が同時に生活者を「観察」あるいは「対話」。さらに利用シーンを実際に「体験」

  • 企業は特定の商品・サービスの開発・製造・販売のための技術やノウハウ、情報などをもっています。つまりその分野の「専門家」です。それぞれの 分野の専門性をもった企業が分野横断的なチームとして、生活者と接した時に、企業同士の創発も起こり、新しい切り口のアイデアが生まれる可能性があります。

(6) 企業が生活者同士のコミュニケティを「観察」あるいは「対話」

  • リアルそしてバーチャルで、生活者同士が特定のテーマについて情報交換などを行うコミュニティは数多く存在しています。そのコミュニティと接点をもちながら商品開発を行います。
ハーレーダビッドソンジャパンHPより
  • 例えば、オートバイメーカーのハーレーダビッドソン社は、ユーザー同士が集まるイベントをしかけ、その「場」でユーザーと対話することにより、 次の商品開発のヒントを吸い上げる戦略的な仕掛けをもっています。あるいは自転車部品で高いブランド力をもつシマノは、技術者自らが自転車レースに参加し たり、業界川下のディーラーを回ったりすることで、顧客の潜在ニーズを発掘し、新商品の開発につなげる取り組みをしています。
ハーレーダビッドソンジャパンHPより

(7) 企業の商品開発プロセスに生活者が「参画」

  • 商品開発プロセスを企業内だけに留めてしまうのではなく、そのプロセスに生活者を参画させ、アイデアや意見を語ってもらいます。
  • 例えば、商品開発コミュニティサイト「空想生活」を運営するエレファントデザインは、デザイナーが提案する開発前の商品を紹介しています。そこで事前にユーザーから予約を集め、一定以上の票を獲得した提案が実際に商品化されるという仕組みです。
■ 共創・創発の場・活動を戦略的に仕掛ける

 従来型の商品開発・マーケティングは、第三者的な立場で、生活者を観察し、ニーズを見つけ、商品を開発するアプローチでした。しかし、そのような アプローチはそろそろ限界にあるようです。今後は、共創・創発の場や活動をいかに戦略的に仕掛けるかがカギとなってきます。そうした場からどのような新し いアイデアが創出されてくるかを正確に予測することは困難ですが、ある一定以上の質・量のアイデアを出すための場づくりは、場のテーマや場の参加者、場の 運営ルールなどの要素の工夫でコントロールできる可能性があります。

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