顧客は何を購入しているのか

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顧客は何を購入しているのか

■サブスクリプション、シェアリングエコノミーでは顧客は何を買っているのか

いまや電車で紙の新聞や雑誌を読んでいる人はマイノリティ

 電車に乗って紙の新聞や雑誌を読んでいる人はいまやかなり少なくなっています。たまに見かけるとその日のニュースが目に入ってきて紙媒体の新聞が懐かしくなってしまいます。多くの人はデジタル媒体の新聞や雑誌を月決めの料金で、ある期間のバックナンバーまで読めるようになっています。複数の雑誌を読むことができるサービスも一般的になりました。新聞、雑誌などの紙のメディアはその事業特性から他業界よりも先にサブスクリプションモデルが普及しました。そのメディアもまたネットで集まる無料でしかもリアルタイムに発信されるSNSやネットメディアの情報に市場を侵食されています。
 インターネットが普及する前は、新聞、雑誌というモノを所有することイコール情報を所有することでした。形のあるモノが価値を象徴していた時代です。しかしインターネットが普及するとモノと情報が分離され、情報が独立して流通するようになりました。人々の関心は、新聞、雑誌といったモノ=情報ではなく、スマートフォンやタブレット、PCなどで見られる情報そのものに価値を置くようになりました。

モノを所有しない方が暮らしやすい、働きやすい

 紙の新聞、雑誌は、読み終わった後捨てるのに困ります。私も最近、出張でホテルに宿泊した際、新聞の朝刊を紙でもらっても、ホテルの外に持ち出しません。捨てるのが面倒なのと、「環境に悪い」という気持ちが無意識に働くからです。
 近年「シンプルな暮らし」とそのための「断捨離」がブームですが、見た目がすっきりで、機能的であるという以上に、私たちがモノを所有しない暮らしが意外に快適であることが分かったからです。2018年に癌で亡くなられた樹木希林さんのベストセラー「一切なりゆき: 樹木希林のことば」(文春新書)でも、希林さんは洋服、靴、食器など身の回りのものは、ごく限られた数の自分が気に入ったものだけをつかって暮らす気軽さと快適さをおしゃっていました。
 一方モノを所有する負担はかなり大きく感じられるようになりました。例えば洋服ダンスに入りきれない服、靴箱に入りきれない靴、食器棚にあふれる食器など、保管、管理が面倒なこと、廃棄にもコストがかかります。地価が高い都心部では、モノを置くスペースコストが無駄であると認識されるようになりました。
 モノを所有しない方が、何かあった時には移動もしやすく身軽です。所有するモノが少ないので管理の負担も少なく、利用しやすいのです。その結果無駄な時間や場所を消費しなくてよく、柔軟でスマートな生き方ができます。自分自身が最も重視していることに集中することができます。

■売れる商品が変化している「なりたい自分になれるもの」「快適空間価値」

 モノを所有しないというライフスタイルが普及するにつれて、消費者の価値観も大きく変わってきました。先日休日にテレビ通販のジャパネットが、「豪華客船『MSCプレゼンタでまわる』憧れの日本一周クルーズ10日の旅」高知、鹿児島、済州島、秋田、函館(北海道)を10日間でまわって289,000円。ドリンク、到着地観光バス、朝食ルームサービス付きというキャンペーンをやっていて、発表後3日で80%以上が予約で埋まっていました。ツアー経験者は「10日間夢のようでした」「毎日イベントでこんなの他で買ったことなかった」「多くの友達ができてうれしかった」と話していて、私もこれは本当に得だな、行ってみたいなと思いました。ジャパネットも今や家電だけではなく、旅行という経験を売る時代になったのです。
 別の例ですが、知り合いの小学5年生の女の子が私の家に遊びに来た際、私の部屋のアマゾンアレクサに向かって「アレクサ電気をつけて」「アレクサ今日の天気は」「アレクサ子供の音楽を聞かせて」と矢継ぎ早に命令していました。「いつもやっているの?」と聞きますと、「お金持ちの友達の家は『アレクサ』に命令していろいろやってもらってる。カッコイイとおもったから」と教えてくれました。アレクサといった音声で指示するコンシェルジェサービスが小学生のあこがれのライフスタイルイメージとなっているのだと少し驚きました。住宅などの空間に求められることも、インテリアデザインがよい、空調が良いだけでなく、情報技術を使った自分独自のスマートさが今後求められていくのだと思います。
 このように、インターネットやスマートフォンが隅々まで普及し、また生きていくために必要な物資はすでに豊かなものばかりになった今、売れるものが大きく変わってきています。機能中心のモノだけはなく、その高い機能を利用して、「なりたい自分になれる演出がそろっている商品」や、高いインテリア性に加え、人との自由なつながりがもてる情報機能をもった「自分独自の快適空間」などです。これらはモノを含めた「経験価値」です。

■顧客の価値観変化についていけてない既存業界

 一方多くの既存業界の日本企業は、いまだに商品=モノづくりの組織文化から脱していません。「これまで培った高いレベルの技術開発でモノを創ればなんとか勝てるのでは」という考えで押し通そうとするか、その技術開発もあまり行わず、今売れている商品をコストダウンしてシェアを広げるか、外部からM&Aするという発想の2つに分かれているように思えます。
 もちろん私も高いレベルの技術とそこから生み出される機能を否定しません。しかしその機能が、価値に置き換わった表現ができておらず、消費者にその機能のもたらす価値が届けられていないのではないでしょうか。高い技術力でつくった商品と様々なサービスが生み出す「期待値」「楽しさ」「ポジティブさ」「温かみ」などの感情的な側面、「自分にとって大事な人とつながること」や「自分自身が変わること」「新たな自分の発見」などの自己実現的な側面が見いだされず、「経験価値」にまで届いていないのだと思います。
 その大きな原因は、リーマンショックや東日本大震災などがあったせいか、低成長時代の業績維持のために過去のモノ、技術にしがみつき、その結果新たなサービスを取り入れる風土がほとんどなくなったことによるものと思います。消費者から最も距離があるのは企業組織の上層部経営者という事実があるにもかかわらず、市場と接点のある現場の意見や、生活者の変化に敏感な若い人の意見を聞かない経営者、そしてそれを変革できないことにあると思います。
 「経験価値」とは基本的にまずは提供者個人がどう感じ、思うかといった「主観」です。その「主観」の部分が会社の仕事で出てこない、出せる雰囲気にないのは、「経験価値を創造する」という点で、致命的と言わざるを得ません。

■顧客は「モノを買う」から「サービスの価値を購入する」時代に変化したことを認識する

 以上のことから日本企業は今「顧客は何を購入しているのか?」を正面から問い直す必要があると思います。その際に大事なのは消費者と同じか近い「感情」「価値観」といった「健全な主観」を持っているか、それを自由にだせる風土があるかどうかです。そこを乗り越えないと、技術=機能と顧客とのギャップはいつまでも埋まらないばかりか、市場撤退を余儀なくされる可能性もあると思います。顧客はモノだけを購入しなくなりました。モノを含めたサービスの価値つまり、経験価値を買っているのです。もし強いモノがつくれるのであれば、そのモノの機能が創発するサービスを社内外で開発し、価値として顧客に届けることが大事です。

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