会社や組織のやり方に納得していない技術者へ贈る「技術マーケティング戦略」

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これからは製品・サービスではなく、顧客経験価値の戦いになる

■会社や組織のやり方に納得していない技術者へ贈る「技術マーケティング戦略」

 先日、「技術マーケティング戦略」(中央経済社)を出版いたしました。この本は、会社など所属する組織のやり方に納得していない技術者や、技術に関係する人たちのために書いたものです。
 そもそも技術者は、顧客、営業、事業部が求める一機能を下請けの様に開発する存在ではありません。もっと自発的で、業界を超えて社会と無限につながる可能性を持っています。その無限の可能性を、業界、会社、部門、そして技術者自身が制約し、歪めていることが多いと思います。
 技術は製品の機能を生み出すだけで無く、人の感性や感情、思考、行動に影響し、人や組織に対して個別な経験(エクスペリエンス)を創り出す可能性があります。また、他社や他業界との新たな関係を構築し、さらには新たなエコシステム・ビジネスモデルを創発することもできます。
 このようなことを背景に、本書「技術マーケティング戦略」では、技術者や技術に関係する人たちに対して、「誰にも負けない技術的な専門知識、知恵、さらには技能を極め、会社や組織に過度に依存せずに自立して生きる覚悟と方法」を述べています。

■歪んでいる日本の製造業と技術者の立ち位置

 本書の冒頭第1章には「日本の製造業の生きる道」と格好よく書いていますが、本音としては「日本の製造業の経営がいかに矛盾だらけで歪んでいるか」「そのしわ寄せを研究、開発、設計、製造などの技術部門に押しつけてきたため競争力が低下をしているか」を滔々と述べました。日本の製造業のROE(株主資本利益率)は、欧米はおろか、新興国企業と比較して異常に低いのです。この原因は脆弱な経営体質にあります。さらに言うと、世界に通用する経営者やビジネスリーダーの不足にあります。その他にも原因は色々あると思いますが、つまるところ、多くの経営者が未だに1990年代前半までの、ほんの数年間リードしてきた栄光の日々の発想から抜け出せておらず、現状維持の内向きの姿勢、思考で経営をしているためだと思います。ネット化、デジタル化に出遅れ、業界を超えたグローバルな変化に対し、経営者自身の肌感覚で捉えた経営ができておらず、エリートスタッフのレポートを頼りにした経営をしてきたのだと思います。
 ネガティブな調子になってしまうので本書では書いてはいませんが、技術者側にも問題があると思います。「寄らば大樹の陰」の精神にどっぷりつかってしまっている人が多いのです。技術とは、尖った専門的な知識、知恵、技能であり、それは個人の頭の中から出てくるものです。究極的に言えば、発想、発明は個人のものです。ですから、もっと強気で自由に自立しているべきですが、日本の技術者は組織に縛られています。その結果、尖った技術が生まれにくくなっています。組織の調整、予算取りのためのパワーポイント作成作業などに追われ、本気の研究、技術開発を行っている人が極めて少ないと思います。
 あまりネガティブなことを本に書くと暗くなってしまうので、本書では「それでも存在する日本の製造業の強み」とか、「日本の製造業の成功要因」といった前向きな表現をしていますが、本音で言えば「本当に技術で自信があるならベンチャーで独立してみろ!」「大企業でやるにしても、組織をかき混ぜ、独立した新事業を起こせ!営業や事業、ましてや経営者なんかに頼るな!会社に頼っていても良いことは無いぞ!」と言いたいのです。

■「技術とは何か」「技術で何ができるのか」をきちんと考えましょう

 多くのマスコミや世の中を十分理解していない人が「ものづくり大国日本」などと言っています。ある辛辣な大学の先生は「ゴミづくりじゃないのか?」と言っていましたが、売れず、使われず、破棄される在庫が山のようにあるのならば「ゴミ」というのも過言ではないのかもしれません。
 技術は決して「ものづくり」つまり物理的機能だけをつくり出すだけではありません。新たなサービスを創り出し、顧客の感性、感情、思考、さらには行動に影響を与えたり、事業戦略の交渉力を引き上げたり、M&Aやアライアンスを行う際の判断基準となったり、エコシステム・ビジネスモデル戦略を作る際の軸になったりなど、多様な活用の道があります。しかし、日本企業の多くは単に製品の一機能を開発するためだけに技術を使う傾向が強いと思います。
 なぜ技術を製品だけに縛るのか?それは、経営幹部や管理職が「技術」というものの本質と変化生成のメカニズムを理解しておらず、その問題意識も薄いからだと思います。「ものづくり」などと口では言っていますが、本当は技術を粗末にしているのではないかと思います。
 本書では、「技術」は個人、組織から発生して外部と影響し合い、「絶え間なく生成・変化するもの」と捉えています。「技術」とは秘匿性を求めると同時に、ビジネスや社会で活用するためには「オープン性」も求められ、その結果、自己組織的に生成・変化していきます。インターネットの時代になって、それが加速度的に進んでいると思います。
 しかし、現実はどうでしょうか?機密を守るためにコンプライアンスなどの強制的なルールを型通り当てはめているため、技術者の情報交換、顧客も含めた外部との接触、コミュニケーションなどは極めて不自由です。クローズな環境では技術は成長、つまり生成・変化なんてしません。
 技術とは、端的に言ってしまえば「再現性のある専門知識」です。その役割は単に製品の一機能を向上するだけにとどまりません。もっと事業戦略やマーケティング戦略、さらには市場や社会変革の中心にくるものです。技術者は技術に対する認識を変え、もっと個人の責任のもとに自発的、自立的に思考し、外に向かって行動することで、技術を価値あるものに変えることができると私は信じております。

■では技術マーケティング戦略とは何なのか

 「技術マーケティング戦略」と本書の表紙にもありますが、これはコア技術を活用することで市場イノベーションとともに極めて高い顧客提供価値を創出し、それ自体をサイクルにする、つまりエコシステム・ビジネスモデルにすることです。ここで外せないことが三つあります。
 一つ目は、まず技術者が「コア技術」を定義して大胆に「市場イノベーション」と「極めて高い顧客提供価値」を目指すことです。「難しい」「不可能だ」というイメージが頭をよぎるようでは技術者としてその瞬間負けですし、実際のビジネスでもほとんど成果が出ないと思います。なぜなら、B2BでもB2Cでも、「電池の持ちが10%改善、カメラの機能が3つ増えた」程度の改良は、中間流通にその付加価値分を吸い取られ、また最終需要者からも「性能が向上していて嬉しい。でも価格は前より安いのね。」となって、技術開発投資が瞬間に埋没してしまいます。 
 私はお客様のコンサルティングや研修の場で「顧客提供価値は少なくとも現在の2倍」「市場規模を現在の1.5倍以上」にする発想を求めます。最初は無茶振りと思われ少し時間がかかりますが、大変よい構想が出来上がり、実現可能性が見え始めます。なぜなら、人は可能性を開発できるからです。「できない」と言えばその時点で発想はストップしてしまいます。しかし、毎日毎時間、限界的な思考を続けると可能性が見えてきます。個人も組織も、そういった思考訓練が重要です。つまり、技術マーケティング戦略で大事なのは、はじめの着想の視点、姿勢であり思想です。本来こういったことはトップマネジメントの仕事ですが、それがほとんど機能していないため私のような外部の人間が言わないといけないのは、非常に残念です。ですから、技術者自身が何か大きなテーマに取り組む際は、この「2倍と1.5倍」以上の法則を念頭に置いて取り組んでいただきたいと思います。
 二つ目は、一つ目の「コア技術戦略」「客提供価値」「市場イノベーション」の三つの要素の仮説検証を、リーンスタートアップの方法論で繰り返すことです。技術開発を始める前に、構想自体が実現可能かどうかを、ヒアリングや、コンソーシアムのような多様な人・組織とのコラボレーションを通じ、さらには仮想モデルを作成するなど様々な方法を活用して、検証を行っていくことです。
 本書では、その中核となる「ターゲット顧客への提案、コミュニケーションの実施」を紹介しております。「技術の構想を固めて、開発をスタートさせ、先行技術の目処が立ち、試作ができてからでないと顧客に提案できない…」こういった前世紀的なやり方では、全く通用しないと思います。構想を分かりやすくデザインし、即顧客のところに行き、可能性を探る。決定的なダメ出しを喰らったら、即構想を見直す。それを何度も繰り返すことが大事です。こういったタフな「飛び込み営業マン」的な行動力とレジリエンス力(精神、身体の回復力)が必須となります。かっこよく言えばベンチャー精神なのでしょうが、つまりは「売れるか、売れないか」の結果から考えることです。
 多くの日本企業では顧客提案を一つするのでも、営業や事業部が取引先との関係から細かいことを言って来ることが多くあります。気軽に提案もできない関係であることや提案のネットワークを持っていない段階で、彼らに顧客のフロントを担当する力は無いのだと判断できます。今や少し優秀な顧客であれば、「ビジネス試行実験の一つでも行っていないと世の中においていかれる」といったことは分かっているはずです。もし顧客自身が理解しようとしないのであれば、放っておけば良いのです。その結果どうなるかは、数年後の市場シェアで理解していただければ良いと割り切ります。
 三つ目は、「エコシステム・ビジネスモデル戦略」というコア技術へのフィードバックループ、すなわち拡張の仕組みを構築することです。多くの日本の製造業はこの点が圧倒的に弱く、未だ改善の兆しさえ見えない会社もあります。「エコシステム・ビジネスモデル戦略」とは簡単に言えば、コア技術が製品・サービスを通じて顧客や最終受益者に高い価値を届けるだけで無く、自社の製品・サービスとその中核となるコア技術に、顧客や最終受益者、パートナーの情報が自動的にフィードバックされる仕組みを作ることです。この仕組みさえ作っておけば、たとえ初期段階でコア技術のレベルが多少低くても、あっという間に進化し、他社が追いつけないものになります。完璧に技術開発を行うのではなく、ビジネスの中で技術が進化する仕組みを構築するのです。こういった発想は、「モノ中心」の時代にはあまりありませんでしたが、インターネットが普及してからは、大変重要な考え方になってきています。また顧客や最終受益者に提供する価値も、自社だけでなく、いかに多くのアライアンスパートナーが参加できるかがより重要になってきています。もはや「一企業の製品・サービス」で戦う時代ではなく、他社と連携したエコシステム・ビジネスモデルから生み出される「顧客経験価値」で戦う時代なのです。

■ではどう仕掛けるのか

 日本の製造業を革新する「技術マーケティング戦略」、これをどのように社内で仕掛けていくのかですが、この部分は書籍には書いていません。あまりにも過激になるからです。しかし、このコラムでは本音を述べます。
 まず、技術者が覚悟を固める必要があります。それはどのような覚悟かというと、「会社を辞める覚悟」や「会社に所属するのではなく、自分が追求する技術テーマに所属する覚悟」です。つまり、自立心、独立心をしっかり持ってくださいということです。そういった覚悟が無ければ、どこに所属していても世界の市場を動かすイノベーションを生み出すのは不可能だと思いす。
 次に、できれば仲間と、いなければ独りでも、技術マーケティング戦略の構想をしてみてください。コンプライアンスをぎりぎり守りながら、しかし会社には内緒で顧客提案してみてください。全く新しい発想であれば、会社を気にせず、堂々とやれます。こういった地下活動を10年以上もやって、ついに大きな社会を動かす事業を作り上げた人を、私は何人も知っています。
 そして「勝てる」と思ったら、二つのコースがあります。「会社に交渉するコース」と「ベンチャーファンドなどに資金提供を依頼して独立するコース」です。会社に交渉した結果、独立する会社の株の40%を会社側が持ち、60%を本人やベンチャーキャピタルが持つといったこともあると思います。とにかく、会社に交渉しましょう。うまく行き始めたら、社内から優秀な人材を公募・選抜して、組織として独り立ちできるようになりましょう。
 このようなことができる技術者は、会社や大学などの組織に所属していても、独立していても、結果的にうまくいく可能性が高いと思います。たとえ失敗したとしても、いまや他の企業、ベンチャーなど引く手は数多です。なぜなら、今の日本企業にそういった人が求められているからです。皆さん、是非仕掛けて行きましょう!

 今回は拙著「技術マーケティング戦略」の出版を機に、日本の製造業に対する大変勝手な思いを述べさせていただきました。その思いの真意は、日本の技術者の方一人ひとりの無限の可能性を追求すること、その結果、日本企業、日本社会が強くなることです。一部過激な発言もありましたが、ご寛恕ください。

 

 書籍ご紹介
技術マーケティング戦略

『技術マーケティング戦略』

高橋透 著(中央経済社出版)
2016/9/22発行
ISBN-10: 4502199214
ISBN-13: 978-4502199219

内容紹介
日本には現在なお製造業の各方面で、強い技術とそれを生み出す研究者、技術者、
そして技能者が多く存在しています。しかしながら、「失われた20年」などと言われるように
ここ20年以上、日本の製造業は苦しんできました。

その本質的な原因の1つは、日本の製造業のマーケティング力の弱さではないでしょうか。
製品・サービスのマーケティング力ではなく、技術のマーケティング力の弱さです。
技術のマーケティング力を強化し、継続したビジネス成果に結びつける発想、方法が必要であるという考えのもと、、
本書はできました。

多くの技術者は目の前の製品・サービスを作り出すことに注力させられ、
強い顧客提供価値やエコシステム・ビジネスモデルの創造とはほど遠い状況にある
企業が多いのでははないでしょうか。
本書が、技術をマーケティング戦略の中心に据えた、
中長期の戦略企画構想の実践手法を考えるきっかけになれば幸いです。

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