これからは製品・サービスではなく、顧客経験価値の戦いになる~顧客経験価値を創造するヘルスケアIoTコンソーシアム~

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これからは製品・サービスではなく、顧客経験価値の戦いになる

 もし皆さんの会社が製品やサービスを販売しているとすれば、今後事業の継続的発展は望めないと思います。しかし、製品・サービスから得られる経験(エクスペリエンス)価値を販売しているならば、たとえレガシーな製品・サービスであっても十分成長できます。経験価値とは簡単にいえば、顧客の感性、情緒、思考、行動によい影響を与えるものです。法人顧客でいえば、価値観、戦略、プロセス、人・組織に影響を与えるものです。

 皆さんの会社の製品の、他社にはない独自の経験とはどのようなものでしょうか。この問いにスパッと答えられないようであれば、製品・サービスがコモディティ化、つまり、量と価格の勝負になっている可能性が高いと思います。 

 これまでも何度かお知らせしましたが、当社が事務局を務めるヘルスケアIoTコンソーシアムのキックオフ総会がいよいよ今週金曜、9月9日に開催されます。このヘルスケアIoTコンソーシアムの本質的な狙いとは、専門や業界の垣根を越えた複数の企業や組織が一体となり、健康をテーマとした顧客経験価値を創り出すことにあります。

 健康をテーマとした顧客経験価値を創造することとは、顧客の「五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)の経験」や、顧客の内面にある感情や気分に訴えかけることによる「情緒的経験」、さらにはそれが新たな「思考や行動の経験」、さらには他の人・組織、社会との新たな「関係性の経験」などを想定することです。従って、単なるモノや一過性のサービスを企画提供することではありません。

シュミットの戦略的経験価値モジュール

 また、顧客経験価値では「何かを経験した、楽しかった」という過去や現在の経験だけでなく、顧客のパーソナルな未来を予測し、独自の経験を提案することが大事になってきます。それにより、健康に関する個人の行動変容を引き出すことができます。それは、これまでにない個人にとって計り知れない価値であると思います。そのためにはIoT(モノのインターネット)の技術を使って我々の周りにあるあらゆるものからデータを集め、分析し、個人の健康状態を予測し、個人にあった感性、情緒、思考、行動、関係性に関わる一連の経験価値を健康プログラムとして提案することが必要です。

 ここで一つ、ヘルスケアIoTサービスの顧客経験価値とは具体的にどのようなものなのか、10年後の経験価値を簡単にイメージしてみました。

 

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 Sさん45歳、団体職員で働き盛りの課長。とにかく多忙で、分刻みのスケジュール。帰宅も遅く、週に平均3回は外食で、お酒も大好き。昨年から団体主催のイベントも多く、土曜日出勤も月に2回はある。学生時代から体重が10キロ以上増え、次の健康診断ではメタボと診断されることは必然だ。

 健康に不安を感じ何か対策はないかとネットで検索していると、“株式会社ヘルスケアIoT社“のサービスを見つけた。その会社では個人情報を守る公的セキュリティ認証システムを導入しており、また多くの実績があることが確認できた。そこでまず会員登録をし、過去の健康診断のデータ3年分をスマホの写真で送った。ちなみに健康診断では毎回、高血圧や脂肪肝が指摘されていた。次に、途切れ途切れではあるが、腕時計型のウェアラブルバイタルサインセンサで集めたデータをスマホから送った。スマホのカメラで記録している食事データも、週3~4枚であるが送った。最後に、20項目のアンケートに答えた。

 その5分後、“株式会社ヘルスケアIoT社“から診断データが送られてきた。

 「現在のライフスタイルにおけるSさんの予測寿命は73歳から78歳です。脳卒中や癌などの生活習慣病にかかるリスクが高く、健康寿命が68歳までである可能性は60%未満です。お酒を控え、野菜を中心とした食生活を心がけなければいけません。20分以上の運動を週に3回以上行うことが必要です。」

 晩婚のSさんの娘はまだ1歳。「娘が大学を卒業するまでが俺の人生か・・・」とショックを受けた。「こんな診断やるんじゃ無かった・・・」とも。

 しかし、その15分後に“株式会社ヘルスケアIoT社“から「ヘルスケア・エクスペリエンス」という提案が送られて来た。そこには「Sさんはクラシック音楽がお好きですね。月に2回、クラシックコンサートに行きましょう。ご自宅の食事の時にも、好きなクラシック音楽をかけてみてください。まずこれを30日実行してみてください。」クラシック音楽を聴くことが健康と関係あるのか?と思いつつ、クラシックは好きだし、良いきっかけと、奥様と月2回コンサートに行き、食事の時にもクラシックを聴いた。2週間経つ頃から経、徐々に変化を感じた。仕事のストレスがだいぶ減ってきたのだ。自分の好きなことを生活に取り入れることで、一日のリズムができ、行動的になったのだ。常に背景に心地よいクラシック音楽が流れている気分だ。歩くスピードも速くなった。1歳の娘とよく遊ぶようになり、土日も含め娘を週4回お風呂に入れてあげられるようになった。仕事の優先順位を考えるようになり、無駄な仕事を少しずつ無くしていった。

 そして30日後、“株式会社ヘルスケアIoT社“からメールが来た、30日間の活動の診断結果データである。ウェアラブルバイタルサインセンサから測定されるストレスレベルがかなり減っている。問題の血圧の値も正常に近くなり、「好きなクラシック音楽を聴くだけでこんなに健康になるのか!これなら俺でもできる!」と、Sさんの健康に対する挑戦意欲が一気に高まった。

 タイミングよく、次の提案が届いた。そこには3つの選択肢があった。①スマホのストリーミングを使って毎朝10分のオペラの練習 ②クラッシック・ウオーキング(クラシック音楽を聴きながら毎日1万歩) ③クラシック5S(クラシック音楽を聴きながら家やオフィスの机の整理整頓を10分間だけする) Sさんは迷わず「①スマホのストリーミングを使って毎朝10分のオペラの練習」を選んだ。説明をよく読むと「オペラの練習は横隔膜の運動になり、肺活量もアップし、血流がよくなります」とあった。次の30日後の診断が楽しみになった。

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 上記は簡単な例ではありますが、このようなヘルスケアに関する顧客の経験価値を実際に企画構想し、提供するためには、企業、行政、研究機関、NPOなど分野の異なる様々な人・組織が連携し、エコシステム・ビジネスモデルを創り出すことが重要です。IoTの時代の本格化以前に、顧客の経験価値は一社単独で創造するのではなく、市場に参加する複数の企業、組織がエコシステムやビジネスモデル、そのベースとなるプラットフォームなどの共生の仕組みの中で創り出していくことなります。そのエコシステム・ビジネスモデルを企画、創造する過程で、各社がビジネスとして展開すべきレイヤーを見出し、その上で具体的な製品・サービスの企画が行われるべきです。

 ヘルスケアIoTコンソーシアムでは、最初の活動としてヘルスケアIoTがもたらす個人の経験価値を自分自身が顧客となって議論し、デザインしてみることから始めます。参加者の専門的知識や知見が未来のヘルスケアIoTの顧客経験価値の一つの重要な要素となり、またそれらの複数の専門的知識や知見が創発的に組み合わされ、新たな経験価値を共創していくと思われます。

 さらにそのヘルスケアIoTの顧客経験価値を実現するための課題分析と解決方策の検討をビジネスモデル部会、ヒューマンインターフェイス部会、IoTプラットフォーム部会、法制度・標準化部会の4つの部会で、外部のゲストスピーカーをお呼びしたり、個別の勉強会を何回か重ねながら進めていきます

 IoT時代におけるマーケティング活動とは、自社単独で市場分析し、製品・サービスを企画し、広告を打って展開するのではありません。市場調査、企画段階から業界や専門領域を超えた連携を通じて、顧客の創造を超えた革新的な顧客経験価値を創造し、その中で自社の強みを生かしたポジションを作り込んでいくといった共創型のマーケティングが必須です。そのような意味では、ヘルスケアIoTコンソーシアムとは、参加企業、研究機関、団体にとって大きな実験と言えるかもしれません。

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