高利益を達成するための生産財マーケティングとは(6)

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高利益を達成するための生産財マーケティングとは(6)

 

 前回のコラム(2015年7月22日)では、高利益を上げるために生産財メーカーがおさえるべきマーケティングの7つのポイントのうち「6.「束にした顧客群」毎の販売戦略」の「1.認知獲得フェーズ」について考えました(図1) 。今回は「2.受注フェーズ」です。ここで求められる重要なスキルは「聴き込み型の営業」が出来ることです。

高利益を上げるために生産財メーカーが押さえるマーケティングの7つのポイント(図1)

 一昔前の映画の「男はつらいよ」の寅さんのように、流暢にいろんな話をして、最後は泣き落としまであの手この手で売り込む営業スタイルもありますが、あまりお勧めしません。先天的に口がもともと上手い方はできますが、それ以外の凡人にはなかなかできない営業スタイルです(少なくとも私は出来ません・・・)。無理して真似ようとしても、上手くいかず、挫折感だけが残るだけでしょう。営業活動を「無理矢理な売り込み」から「顧客に喜んでいただくために何をしたら良いかをまず『聴き込む』こと」に変えることで、営業が凡人でもできる活動になります。単なる「聞く」でなく、名探偵のように「聴き込む」ということです。

 企業同士の取引の本質は、「価値」と「対価」の交換です。製品に「価値」があるかどうかは、自社ではなく顧客が決めるのです。よく聞く例えですが「顧客がドリルを買うのはなぜか。ドリルが欲しいからではなく、穴を空けたいから買う」のであって、ドリル自体を買うわけではありません。そのときの顧客の価値基準は一律ではなく、企業ごとに異なっています。そしてこの価値基準が分からないことには、「対価」との交換など望むべくもありません。この価値基準はネット検索ですぐに判明するようなしろものではなく、顧客との対話を通じてようやく判明するものです。
営業は対話を通じて、まず価値基準を明らかにすることにフォーカスするのが第一歩となります。そのため、こちらから積極的に問いかけ、「聴き込み」を行います。ここでは「話を聞いてほしい」ではなく、「話を聴かせてほしい」というスタンスが大切です。「聴き込み」ということで、「ぜひ教えてください」と頭を下げて断る人はいません。人は基本的に誰かに話すことが好きな動物です。

 ただ、このときの「問いかけの質」が問題となります。顧客も貴重な時間を割いてミーティングに臨んでいるのです。ネット検索で判明するような質問であれば、顧客も時間の無駄と思い、次の営業の機会はもう無いかもしれません。1回のミーティングはせいぜい2時間、質問も10個が限界。この質問には、練りに練ったものをもっていかなければなりません。顧客のことを徹底的に調べて、仮説を持ち、質問も40個、50個ぐらい出して、絞り込んだ10個にするくらいでないとだめです。そこまで練りに練った質問は、相手に伝わります。そのような考え抜かれた質問に対しては、相応の回答が相手から出てくるでしょう。営業は基本、聴き役に徹する。真摯に相手の話を聴こうという、にじみでる姿勢が大切です。

 聴き込むと、油田を掘り当てたかのように、「いや実はねえ」と要望・不満・期待などが吹き出ることがあります。そもそもですが顧客も「聴き込み」を意外に待っているものではないでしょうか。いままでとくに聴かれもしなかったので、自分から話そうとしなかっただけというケースが多い印象を私は受けます。そのうちに、顧客もいつしか聴かれてもいない悩みを相談していたりする。顧客の方も話をしながらも、自分で言葉を発することで自分の頭の中を整理していたりする。聴き込むということには、このようなベネフィットがあります。

 そのようにして収集した顧客現状や問題点を第三者的な立場から客観的にまとめてあげて、自社の製品がどれだけ問題解決に有用かを提案していくことになります。
 しかし、弊社はB2Bメーカーの技術営業向けに「営業ブレークスループロジェクト」を行ってきておりますが、この「聴く」営業ができている営業担当は実際のところまだまだ少ないようです。プロジェクト中に営業ロールプレイなどを行っても、営業担当の多くは質疑応答における質問がまだまだ一般的すぎて、「考え抜かれているな」という奥深さがにじみ出てこないのです。顧客事業や財務に関する知識が弱く、投資対効果もはっきりせず、到底、購買意思決定に影響するキーパーソンに響く提案にはなっていません。多くのB2Bメーカーの営業は、まだまだ上記のようなレベルではないかと思われるのです。

 一方、この「聴き込み」型のコンサルティング営業ができているのが、すっかり有名になっているキーエンスの営業です。同社の営業は週にせいぜい3日程度しか外にいかないといわれます。では、オフィスにいるときに何をしているかというと、顧客についての「勉強」をしているといわれます。そもそも、顧客の貴重な時間で使わせてもらう以上、顧客に有益な価値が提供できなければならないというのが基本的な考え方です。

キーエンスはひとたび顧客に赴くと製造現場まで行けます。通常の営業は顧客の調達部門・購買部門までですが、現場にいかないと顧客の状況はわかりません。そう簡単に部外者が行ける場所ではありませんが、キーエンスの営業に関しては「せっかく来られたのですから、ちょっと生産ラインを見ていってください」と顧客側から言われるのです。現場の責任者もキーエンスの営業に質問されながら現場状況を説明していきます。キーエンス営業は、どこをどう改善すればラインの生産効率が高まるのか、この一点にフォーカスして問題意識をもって現場を観察し、現場で作業しているスタッフの話を聴いて、顕在化していない問題をクリアにし、そして解決アイデアを提案していきます。これを顧客側も心待ちにしているわけで、キーエンスの営業にみてもらうと色々と良いアイデアをくれることを知っているから、現場にキーエンスだけは通すのです。

 では、聴き込み型営業の具体的な手順です。聴き込み型営業は、できるかぎり、2回以上に分けて行います。1回目は、現状の問題点の共有にフォーカスし、2回目以降は今後の解決策にフォーカスします。1回だけで提案までこぎ着けるのは難しいものです。また、1回だけでないのは、ともに過ごす時間が長いほど親近感が深くなることも狙っています。
 まずは1回目の「聴き込み」です。「聴き込み」におけるよい質問のために事前調査を行います。事前調査はフレームワークをもって行います。ソリューション営業の現場でよく使うフレームワークであるバランスト・スコアカードがお勧めです。このフレームワークの4つの視点から2次情報ベースで顧客情報をまとめていきます。情報ソースはIR情報、有価証券報告書、アニュアルレポート、トップインタビューなどの雑誌・新聞記事などです。また、顧客企業のWEBの人材募集の情報も参考になります。例えば、中途採用をしている部門は、なんらかの問題があるか、すぐに伸ばしたい部門です。そこから事業上の理由を探ります。
 この時のポイントとしては、じっくり時系列で読むことです。1年ごとの微妙な違いを読み取ることです。その些細な違いが重要であり、その変化が手がかりとなります。文字通り舐めるようにじっくり読む込むことです。ここまで事前調査をすれば、相手が抱えていそうな問題について、いろいろ聞きたいことが浮かんでくるはずです。そして、考え抜かれた10個程度の質問を用意します。実際に顧客に会ったときには、「質問の仮説を確認しにきました」というくらいの準備が理想です。

 そして1回目の聴き込みに赴きます。ミーティングの始めにまずは「御社のために有用な提案をさせていただきたいと考えておりますが、そのためにいくつか教えていただけるとありがたいです」と伝えます。ここでは「顧客のために貢献したいという気持ちを伝えること、ぜひ教えてほしいと真摯な姿勢を示すこと」が大切です。「教えてほしい」とまずスタートする。「教えてほしい」と頭を下げると、ほぼすべての相手の態度が少し変化します。こちらの頭が下がれば、相手も心を開くも のです。
 次に「では幾つか質問をさせてください」と問いかけをスタートします。聴き込みでは、始めの質問が極めて重要です。その後のインタビューの流れ全体を左右するからです。始めの質問は、相手の答えやすい質問からスタートしていきます。まずは「YesかNo」だけの答えやすい質問がよいです。長い説明が必要となる質問は、頭からは控えるべきです。営業側にとっては聴き込むことで得られる成果は明確でありあますが、顧客側は最初から答えることによる成果はみえておらず、わざわざ長い説明をするのは心理的負担が大きいものです。営業としては相手がだんだん話をしはじめたら、だんだん質問内容も回答に説明を要するものに変えていきます。
 説明を聴いている時の姿勢は大切です。最初に了解をとっているとはいえ、お願いして相手に時間をとってもらっているわけです。相手が答えてくれた内容がどのような内容であろうと、まずは全面的に受け入れることが前提となります。あとはボディランゲージです。一字一句メモをとること、相槌を打つことなど、馬鹿にできません。ボディランゲージは言葉よりも雄弁にこちら側の気持ちを相手に伝えることになります。
 このようにして、営業が実際にはその場をリードしているのですが、顧客がそうは感じないようにさせます。質問に答えることで「顧客は自分で考える」ために、顧客自身がその場のイニシアティブをとっている心理になっているのです。質問のやりとりをしていくうち、顧客自身が自社の問題を解決できるのは目の前の営業の会社の製品だけでないだろうかと気づいてもらうことが理想の流れとなります。

 上記のようなことは当たり前だと思われるかもしれませんが、「言うは易し」です。人はついついしゃべってしまうものなのですから、よくよく意識することです。
自社に戻った後は、1回目の聴き込みの結果をベースに、現状の問題をこのまま放置しておくと将来どうなるのかを第三者的な立場から整理します。そして、解決策のアイデアを企画します。
 そして2回目の「聴き込み」です。事前に用意した現状の問題をこのまま放置しておくと将来どうなるのかについて説明を行い、内容について合意をとります。そのあとは、解決アイデアをいくつか示し、それについて議論を行います。その際にも自社製品の売り込みを行いません。あくまで顧客の将来のあるべき姿にフォーカスし、それをいかに実現するかを議論していくのです。このやりとりを通じて、自社の将来の問題を解決してくれるパートナーは目の前の営業担当であり、その会社なのだと顧客自らが自然に納得する流れをつくることです。あるべき姿の議論では、日本の大手企業の営業は真面目すぎるという声も時折耳にします。夢を語る、できるかよく分からないけど面白そうだ、多少ホラがあってもいいのではないかということも、顧客の方から言われることもあるそうです。
 またここで質問したい内容がでたら、聴き込みを行います。このようにして受注目指して「聴き込み」を繰り返していきます。

 その後は、顧客の担当者が社内で稟議、決済していくのを手伝うことになります。売り込まれた製品を社内稟議に通すとなると、相手の担当も「確かによい製品だけれど、なにも自分が苦労してまで稟議を通すまでもない、もし失敗したら自分将来に傷がつく」と思うかもしれません。しかし、聴き込み型営業では、問いかけられたとはいえ、顧客が自分自身で考えて答えているわけです。人間は自分で語った言葉にもっとも強く説得させられるといいます。当事者意識も形成されており、社内稟議、決済へも能動的に取り組んでくれることが期待されます。あとは、顧客担当者が社内説明で使うプレゼン資料などの作成、あるいは会議への出席などで担当者を支援し、受注めざして担当者と二人三脚で進んでいくことになります。
 一度、受注したら当然リピート受注を狙っていき、顧客企業の「掛かりつけ医」的なポジションを目指します。特定の顧客からの相談回数が増えるほど、その顧客の情報が蓄積されます。顧客の状況を常にそれとなくチェックし、現状を把握しておく。ひとたび顧客とあったら適確な質問で問題点を明らかにして、解決策を提示していく。そのような存在になると、顧客からすすんで問題点を相談にくるという有利な関係性を得られます。病院で治療を受けたあと、診察代を値切る人はいないのと同様、掛かりつけ医になれば、値引き交渉から解放されます。
 このようにして1つの顧客とパートナー関係をつくったら、「束にした顧客群」のうちの他の顧客への営業アプローチを同様にし、高利益の実現を目指していくことになります。

 次回コラムでは、高利益を上げるために生産財メーカーが押さえるマーケティングの7つのポイントのうち、最後の「7.高利益な製品を連続的に創出するための社内インフラ整備」について考えていきます。

 

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