新製品・新事業開発は、製品・技術戦略だけでは勝てない ~エコシステム・ビジネスモデルの視点で考えることが重要~

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新製品・新事業開発は、製品・技術戦略だけでは勝てない

 限定的とはいえ、アベノミクスの効果や2020年開催の東京オリンピックに向けた経済の活性化など、忘れかけていた「成長」というキーワードが最近、よみがえる兆しが見られます。いま、先を見ようとする成長欲の高い企業が、5年後の事業領域、価格競争回避の付加価値新製品開発などの新製品・新事業開発に取り組んでいます。

 そこで重要なのは、「製品・技術開発だけでは勝てない」という認識です。これまで技術をベースとしてきた企業が、製品や技術を中心にしないで勝てるわけがない--こう思われるかもしれません。しかし、いまや競合戦略の本質は、製品・技術一辺倒から業界を超えたエコシステムやビジネスモデルといった仕組み、仕掛けに移り変わっています。

 もちろん、製品や技術に格差を付けるという従来からの取り組みについては、日本企業はこれからも磨き続けるべきことです。しかし、それだけではダメなのです。エコシステム・ビジネスモデルといった新しい仕組み、仕掛けでの競争戦略がなければ、ドラスチックに変化し続ける世界を相手にして勝ち目はありません。たとえ競合企業に勝ったとしても、取引先の流通や顧客、消費者からの“要求”によって、利益が目減りしていく可能性が十分にあるからです。

 例えば今、コンパクト型デジタルカメラという製品は、存続自体が危ぶまれかねないという重大な岐路に立たされています。なぜなら、オープンな環境をベースにしたデジカメ機能をもつスマートフォンが台頭し、それをフェイスブック(Facebook)やライン(LINE)などのSNSなどが強力後押しすることで、企業や組織はもちろんのこと一般ユーザー(消費者)まで大々的に巻き込んだ、いわば産業の生態系、エコシステム、もしく他社との連携の仕組み、仕掛けがコンパクト型デジカメを追い込んでいるからです。

 一般ユーザーにしてみれば、過去の“写真を撮る楽しみ”から“写真はコミュニケーションの大切な手段”に大きく変化しました。コンパクト型デジタルカメラ同士の製品や技術の競争だけではなくなったのです。エコシステム・ビジネスモデル同士の競争に位相が完全に移ったわけです。

 テレビも同様でしょう。日本のテレビの性能は確かに素晴らしいのですが、テレビを見て楽しむ消費文化そのものが、これもスマートフォンやタブレットでSNS、動画サイト、ゲームなどで楽しむトレンドに代わりつつあります。通勤電車の中でスマートフォンを使って、昨晩見逃したテレビ番組などを見ている方も増えています。自宅にパソコンとインターネットがあれば、かなりのテレビ番組が自由な時間に楽しめるようになってきています。つまり、テレビは必要ですが、テレビに高機能性を常に追い求めるといった一般ユーザーの流れは少なくなってきているのです。

 言い換えるなら、テレビという製品とそれを支える技術への投資が、売上そして利益につながらない状況が続いています。これも競争のレベルが、エコシステム・ビジネスモデルと変化したのにもかかわらず、テレビの製品・技術だけにこだわった結果といえるでしょう。

 急速に進むデジタル化、それに必然的に伴って生じる部品などのモジュール化、ソフトをベースとしたプラットフォームのオープン化、さらにはそれらを低コスト化で支えるグローバル分業が進んだ業界では、日本の製品・技術の優位性の期間は今後、2年あるかないかというところではないでしょうか。

 製品自体がよくても、ソフトやサービスなどが優れていなければ、その価値は認められないのです。エコシステム・ビジネスモデルでの躓き(つまずき)は、技術開発投資、製造投資の規模が大きいほどダメージが大きいといえます。1990年代前半まで破竹の勢いで突き進んできた日本の電機業界がいまだ苦しんでいるのは、このエコシステム・ビジネスモデルでの競争力の欠如にあります。

 日本のコンパクト型デジカメ、テレビなど現在、苦戦している事業に関しては抜本的な対策をとっていくしかありませんし、各社とも改革を進めています。しかし、これから取り組む新製品・新事業に関しては、製品・技術で圧倒的な強さを構築しつつ、エコシステム・ビジネスモデルのレベルでも必ず勝たなければなりません。

 そのような中で日本の企業の現状をお聞きすると、「社内で新事業を考える際、エコシステム・ビジネスモデル戦略を考える人も組織もあまりいない」という返事が多く返ってきます。デジタルネットワーク社会で育ってきた20代、30代の方たちからは、「先が見えない。絶望的だ」という声も聞こえてきます。なぜかというと、彼らの上司である40代、50代の多くの方がいまだ製品と技術だけに資源や今後の目標を集中させており、「それでは勝てない!」という不安を若い人たちが抱いているからです。

 残念ながら、企業の体質は一朝一夕では変わりません。たとえ危機的な状況に追い込まれたとしても、適応できる体質を持っていないのです。

 では、どうすればよいのでしょう? 私の答えは、“製品・技術”を起点にするという今、弱みになってしまっていることを逆に強みに変えてしまうことです。一体どのように?

 他社には負けない強い製品・技術をベースに、それが生かされるエコシステム・ビジネスモデルを自社から仕掛けて創り出すか、あるいは他社に創らせて、そこで欠かせないキープレイヤーとして参加することです。

 多くの日本企業には、厳しい顧客や企業内部での擦り合わせによってつくり込まれた高い技術、技能があります。それをさらに一歩進めたところで、その製品・技術が生かされそうな新たな事業領域を探します。業界を変えれば、意外に容易に参入できることが実際あります。

 花王がトイレタリーで鍛え抜いた高分子化学技術によって食品、飲料事業へ新規参入したり、同じく高分子化学の富士フイルムが化粧品業界へ新たに入り込んでいった事例がそうです。

 新事業領域参入で重要なのは、自社の製品・技術が新たなエコシステム・ビジネスモデルを創り出すか、現在のエコシステム・ビジネスモデルを大きく変えるドライバーになれるかです。そして製品・技術の企画の際に、他社からの情報のフィードバックがある仕掛けをつくります。ここはハードだけでなく、ソフトウエアもしくは技術や商標ライセンスなどのハード以外のものを製品に仕組んでおかなければなりません。その際、特許戦略を含む、知財戦略も重要なキーになってきます。

 このように、製品・技術を企画する際には、顧客ニーズを調査、想定するだけでなく、自社が存属するエコシステム・ビジネスモデル全体をデザインし、そこからの要求特性を導き出すことが求められます。それを自社の製品・サービスに反映できるよう製品・技術を企画し、同時に知財戦略も考えます。当然ながら他社とのアライアンス戦略も仕掛けて実行します。この辺がこれまでの新製品・新事業開発と根本的に異なってくるところです。ビジネス戦略としての総合力が求められるのです。

 「エコシステム・ビジネスモデルがうまく企画できない」という話をよく聞きますが、その場合は異業種を徹底的にベンチマークする、異業種の事例を研究することを強くお勧めしています。GE、トヨタ自動車、アップルなど世界トップクラスの会社ほど、異業種他社の戦略的ベンチマークを熱心に進めているからです。彼らは発想の異なるベスト・プラクティスを自社に取り込むのです。

 私のこれまでの経験では、トップダウンで大きな方針を出してもらい、そのうえでこれまで徹底して鍛え抜いてきた強い製品・サービスを生かしたいという技術者、マーケッターの強い意欲と行動力で、エコシステム・ビジネスモデルを粘り強く企画し、周りに働きかけ、切り拓くという方法が結果として成功確率が高いと感じています。

 一見、表題とは矛盾した結論に思えるかもしれませんが、実は強い製品・技術こそが、強いエコシステム・ビジネスモデルを生み出すトリガーになるのです。

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