第19回クロスボーダーM&AのPMIにおいて成果を出すためのポイント

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新商品・新事業開発「グローバル・マーケティング」

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 今回のコラムでは、生産財におけるグローバル・マーケティングの7つ目のポイント、「結果重視型の戦略実行計画の立案、そして経営資源の集中」について考えてみたい。以前のコラムで紹介した「東レ・炭素繊維」のグローバル・マーケティングのように、海外展開におけるマーケティングにおいてクロスボーダーのM&A(合併・買収)はほぼ当然のような戦略となっている。このクロスボーダーM&A、日本経済新聞の記事(2013年10月18日)によれば、2013年7~9月の件数は、前年同期比で30%増加して166件、買収金額も50%増加して3兆円となっている。昨年末からのアベノミクスにより円安方向に為替が振れているにもかかわらず、企業は66兆円という豊富な資産を活用してクロスボーダーのM&Aに攻勢をかけている。
しかし、新聞ではM&A成立件数は発表されるものの、それらがどのような成果に繋がったかはあまりフォローしない。他社がやっているからといって、うちも遅れてはいけない! と焦って、綿密な戦略・計画を抜きにしたブームに乗るだけのM&Aは危険である。金融機関の専門家によると、日本企業の場合、一般的にM&Aの成功率は3割だそうである(M&Aを実行する際に設定していた目標を何割達成できたか? という質問への回答結果に基づく)。そして、これがクロスボーダーM&Aとなると2割を切ってしまうという。
一方で、グローバルで考えるとM&Aを連続して行い力強くグローバル展開を図る企業も世界には存在する。GEやシーメンスなどの欧米のグローバル企業は攻めの買収・売却としてのM&Aを繰り返し行い、事業ドメインにおける覇権を狙い続けている。平行して、M&Aノウハウの蓄積やM&Aプロジェクトのリーダー人材育成を行い、M&Aをシステマティックに行うためのグローバルプラットフォームを構築している。また昨今では、新興国市場の企業も先進国企業をM&Aして、一気にハイエンド製品や先端技術を獲得するケースもみられる。例えば、インド・タタモーターズによるジャガー、ランドローバーの買収などは象徴的な動きである。
海外企業が、クロスボーダーM&Aという「狩猟型」の武器でグローバル展開をしてくる以上、日本企業も海外市場で戦っていく際にこの武器を使用しないでは済まされない。国内でもたとえば日本電産のようにクロスボーダーM&Aの巧者として注目される企業も存在するが、全体的に見てまだまだ巧者と呼べるほどの企業は多くない。
M&Aは一般的に「自社の戦略構想」「デューデリジェンス(DD: Due Diligence)」「ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI: Post Merger Integration)」と大きく3つのフェーズに分かれる。戦略実行段階にあたるPMIで成果を出すためには「1.M&A契約締結後のPMI実行計画(100日プラン)の早期作成」「2.ガバナンスやPMI実施体制の確立」「3.買収先企業との企業理念の共有、修正、浸透」「4.シナジーを出すためのプロジェクト実行」「5.ノウハウ蓄積と人材育成」などが成功要因である。以下においては、事業成果を出す上で特に重要な「4.シナジーを出すための具体的なプロジェクト実行」について考えてみたい。
ポイントは大きく「①買収企業と被買収企業双方の同じ理解によるKPI(Key Performance Indicator)設定」「②本社サイドも参画したモニタリング」「③リスクを考慮した十分な経営資源の投入」「④プロジェクトにおける短期の戦略的成果の創出」の4つである。
 
①買収企業と被買収企業双方の同じ理解によるKPI設定
シナジー効果の見える化のためにKPIを設定し、その進捗状況を両社でしっかりモニタリングしていくことが必要である。KPIがないのはシナジーではない、と言い切る企業もある。
そこでKPIの定義がポイントとなる。例えば、安全性というKPIひとつとっても、安全とはなにか、安全性を測るKPIはなにか、どのレベルになれば安全なのか、など、企業によって異なるだろう。日本企業同士のM&AならばKPIのすりあわせは比較的時間がかからないかもしれないが、国境を越えたM&Aの場合、相手企業の国の社会・経済システムや法制度、文化、言語などの「文脈」の違いを考慮して、KPIの内容の「等価性」を担保する必要がある。
KPIの定義に始まり、どのような対象からデータを集めるのか? どのような方法で収集するのか? どのように分析するのか? など手段まで含めて、丁寧に一つひとつすりあわせて、双方の関係メンバーに浸透させていかなければならない。買収企業と被買収企業の双方が同じKPIの数字を見たときに、数字が表す現場の事象について、双方が同じイメージを持てなければならない。ここがずれていては、シナジー効果を出すための具体的なアクションについての議論など、到底望めない。
またKPIは複数存在するため、それらを俯瞰的に把握しておく必要もある。そこでバランスド・スコアカード(BSC:Balanced Scorecard)のフレームワークを活用するのもよい。ビジョン・戦略をBSCの戦略マップに落とし込み、買収企業と被買収企業の双方で戦略全体を俯瞰的に見ながら、それぞれのKPIの位置づけや最終成果への影響度合い、現状の進捗度合いを見ていくのである。これは双方が議論する上での共通言語、言い換えると「コミュニケーション・プラットフォーム」として使える。その上で、それぞれのKPIについて各責任者はコミットメントをしていく。

②本社サイドも参画したモニタリング
被買収企業の経営を、現地市場のことをよく知っている既存の経営層に任せて、失敗してしまうケースがある。買収前の段階で十分に成果を挙げている事業や業務については、既存の経営層に任せておくのが確かに良い。買収した側の企業から勝手の分からないメンバーを送るとかえって反発をくらうこともある。しかし、シナジー効果を出すために重要な業務については、買収側からもメンバーを送り、モニタリングと実施をしっかり行う。
また日本企業の場合、M&A契約締結フェーズまでは本社の経営企画や財務部が担当し、M&Aの戦略実施フェーズは事業部が行うという線引きが行われることが、大企業ではよく見られる。経営企画が事業部の実態を十分把握せずにM&A締結をしてしまい、PMI対応を急に丸投げされた事業部のほうはモチベーションが上がるわけもなく、消極的な対応となる。よって結果が出ない、というケースである。そして責任は「経営企画がやったこと」となってしまう。本社サイドは、M&A締結後の実施フェーズについても責任を取るという緊張感をもったスタンスで事業部のPMI実行の支援に臨むべきである。それにより自社の事業部からの信頼も得られる。そして被買収企業に対しても一貫性のある対応ができることで信頼が得られ、現場メンバーのモチベーション向上も期待できる。

③リスクを考慮した十分な経営資源の投入
M&A締結後に、改めて詳細に相手企業の情報を収集してみると、締結前には予想しなかったことが判明するリスクがある。特に新興国企業をM&Aした場合などには、ガバナンスや品質管理、ITインフラといった経営基盤そのものが、先進国と比べてレベルが違う傾向がある。日本企業にとってはあって当たり前のものがないということもある。
さらにPMIをスタートし、具体的にプロジェクトを買収先と進めていく中で発生するリスクもある。新興国の場合、法制度や政策、行政の対応が急に変更されることもあり、それに対応することに迫られるかもしれない。それをカバーするために人材や資金、ノウハウなどの追加の経営資源の投入が必要となり計画の修正が必要となる。
対応内容によっては、事業部の権限を越える規模になるかもしれない。そのようなリスクにスピーディに対応するためにも、事業部だけでなく本社サイドの参画が望ましい。

④プロジェクトにおける短期の戦略的成果の創出
統合後のシナジーを出すためのプロジェクトは、M&A締結後という非常に不安定な状況でスタートする。被買収企業は、買収企業がどのような方針を打ち出してくるのか? 自分達の仕事はどうなるのか? 技術移転が行われて自社の競争力は高まるのか? 文化が違いすぎて本当に上手くやっていけるのか? と、期待と不安が入り交じった状態になる。
弊社ニューチャーネットワークスが現在注力している「ブレークスループロジェクト」は、このクロスボーダーM&AにおけるPMI実行においても効果があるものと考える。
ブレークスループロジェクトの特徴である「短期における象徴的な戦略成果の創出」は、PMIスタート時の被買収企業のメンバーの不安を抑え、期待を増大させる。シナジー効果を期待するプロジェクトにおいては、成果をあげたチームをトップが表彰するなど演出する。成果を連続させることで成功体験が増え、組織的にモチベーションも増大、プロジェクトへの自発的参加者も増え、次第にシーソーが傾くように会社全体に推進力が伝播していく。これを買収企業と被買収企業が一緒に「共働」「共感」「共創」といった姿勢で行って行くことで、一体感ある組織文化が醸成されていく。
日本企業のクロスボーダーM&Aは、締結後、「しばらく様子をみよう」「相手に任せよう」となりがちであるが、ブレークスループロジェクトにより、M&A契約締結後に事業成果を挙げるリードタイムの短縮が可能であろう。

2014年はTPPなど国家間の貿易協定も進み、クロスボーダーの企業活動はさらに当然のこととなっていく。日本企業のクロスボーダーM&Aの件数は増加傾向にあるが、事業成果が出ているという件数も増加傾向になってほしい。

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