第17回 生産財におけるグローバル・マーケティング戦略とは⑤

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新商品・新事業開発「グローバル・マーケティング」

ニューチャーネットワークス
取締役 シニアコンサルタント 福島 彰一郎  2013年10月2日

 前回のコラムでは未来シナリオ構想の特徴やベネフィットについて紹介した。今回はその続きとして、未来シナリオ構想の具体的なステップについて説明したい。未来シナリオ構想は、以下に示すように大きく4つのステップにしたがって行うとよい。

■ステップ1.キーパーソンが参加したくなる魅力的なテーマの設定

 未来シナリオ構想においては、多様なメンバーによる創発的な対話が必要である。特に各分野について高い知見をもつキーパーソンの参加が必要である。そのためには、キーパーソンが参加したくなるような、知的好奇心を刺激する魅力的なテーマの設定が必要である。
 まず、未来シナリオ構想にて検討する範囲を、時間軸(何年後の未来か)、市場分野、地理軸(ローカル or グローバル)といった視点から設定する。
 例えば時間軸としては、「何年後の未来について」議論を行うのかという視点を設定する。ここでは、3年以上の5年から10年、20年オーダーで時間軸を設定するのがポイントである。普段、3年というのは一つの思考の節目になっていないだろうか。我々は小学校や中学校のときから3年を一つの節目で考える思考のくせがいつの間にかできあがっている。そのようなこともあり3年という時間軸の設定では、いまの事業スキームを基本的に変更せずにその延長でなんとかしようとする思考に自然になってしまう。
 この「3年時計」から脱却する為、あえて5年から10年という時間軸で未来を考えると視野が広がり、市場や社会のトレンドの重要な変化を俯瞰的に見て意識するようになる。例えば「当面の自動車の販売動向」といった目の前の変化だけでなく、「燃料電池自動車の登場によって、自動車業界の主なプレイヤーはどのように変化するか」といった具合である。
 このように、時間軸だけでなく市場領域や地理的な範囲などについても、思考を変えるために大きく広げてみるのは効果がある。
範囲を設定したあとは、自社メンバーの範囲でシナリオプランニングの手法にしたがってシナリオの策定を行って行く(図1)。
 
 

(図1)
 
 手順は5つである。まず市場や社会といった環境変動要因をリストアップし、その中で業界や社会へのインパクトの大きい要因を選定する。次に変動要因のうち不確実性の高い要因については、複数の変化シナリオを想定する。それによって3-5つ程度のシナリオを構想する。そして最後に、その変化が業界や自社にどのような影響があるのかを検討する。これらの取り組みは、基本的に新聞や雑誌、調査レポートなどの二次情報をベースに行っていく。
 このようにしてまずは自分なりに未来シナリオの構想と戦略仮説を想定し、社会や環境、政治などの大きな視点から見て、多様なメンバーとの創発的な議論に値するテーマをつくりあげる。特に有望顧客企業のキーパーソンが参加しやすいように、有望顧客企業の中長期戦略と整合性のあるテーマになるよう工夫するとよい。

■ステップ2.キーパーソンのメンバリングと開催地選定、開催準備

 次に設定したテーマについて高い知見や問題意識をもつ企業や政府関係者、大学・研究機関などのキーパーソンのリストアップを行う。書籍や雑誌、WEBなどの二次情報で探索するのは当然として、キーパーソン同士の人脈を活用して、さらなるキーパーソンへのアクセスを試みる。
 キーパーソンへの参加要請では、テーマ自体の魅力・意義は当然のこと、未来シナリオ構想ワークショップの主催者としての想い・情熱が必要である。さらにこの人がいるなら一度会って話をしてみたいと思えるような著名な参加者を確保しておくのもポイントとなる。
 テーマによっては、参加メンバーは日本人だけとは限らず、キーパーソンが非日本人メンバーばかりであり、最も議論や取り組みが進んでいる国・都市で行うことにもなる。そのような対話を日本から外にでて、欧州・米国・アジアなどそのビジネス分野で最先端のエリアに赴いて行う行動力が必要となる。語学力があるにこしたことはないが、自社なりの未来シナリオについての仮説、それを考えるときの視点やフレームワークをしっかりもっていなければ議論にならない。

■ステップ3.未来シナリオ構想ワークショップの開催

 未来シナリオ構想は、基本的に合宿型のワークショップで行うことが多い。思考が「現在」ではなく「未来思考」になるように議論する空間を設定するのがポイントである。このワークショップを行う空間には、未来へのイマジネーションをかき立てるために、テーマに関連する資料や写真、展示物を置くなどの工夫をする。また思考が「現在」に戻らないようにワークショップ中は電話やメールを禁止するなどのルールが必要である。
 ワークショップは先に説明したように、再度参加メンバー全員でシナリオプランニングの手法にしたがってシナリオ構築を行う。場を楽しく、笑いが絶えないような場づくりのために熟練したファシリテーターの選定もポイントとなる。
 このとき有望な顧客企業のキーパーソンがいたとしても、このワークショップ中は決して目の前のビジネスの話をしてはいけない。まずはコミュニケーションの密度をあげて、知的対話のよきパートナーになることにフォーカスする。ワークショップの始まる前と後では、距離感や緊密度は格段によくなり、信頼感も高まるだろう。そのような密な関係性は、間接的に目の前のビジネスにもよい影響を与えていく。

■ステップ4.未来シナリオに基づく自社事業シナリオの構想と自社戦略構想

 未来シナリオ構想後、シナリオに基づいて自社の中長期の事業を構想していく。事業シナリオでは、技術-製品-事業・ビジネスモデルといった観点からワンセットで事業を考えることがポイントである。
 そして継続的に、現実が構想したシナリオのうちどの方向に向かっているのか、EWS(アーリー・ウォーニング・サイン)を設定し、環境変化をモニタリングする。EWSとは、早期に警告するという意味である。未来シナリオの実現に先立って現れる予兆である。シナリオごとにEWSを複数設定し、「未来にアンテナを立てた」つもりで、しばらく環境変化の経過観察をする。あるシナリオのEWSがたくさん発現しているようであれば、そのシナリオの方向に向かっているのではないかと判断できる。
 このような取り組みを行うと組織の「気づき」のスピードが上がる。ただ漫然と未来を待つのではなく、未来を「先取り」できる可能性が高まるというわけである。未来についての議論の本質は、予測の精度にあるのではなく、予兆への感度と、その気づきのスピードであろう。
 平行して有望顧客とは定期的なワークショップ開催や密なコミュニケーションをとっていく。それにより有望顧客の事業ロードマップと自社の事業ロードマップのベクトルを合わせていく。とかく顧客企業の動向に振り回されやすい生産財メーカーとしては、事業ロードマップのベクトルが少しでも合うことで、中長期的な取り組みが可能になり、大きなイノベーションやコストダウンが期待できる。

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