第12回 生産財におけるグローバル・マーケティング戦略とは①

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新商品・新事業開発「グローバル・マーケティング」

ニューチャーネットワークス
取締役 シニアコンサルタント 福島 彰一郎  2013年2月20日

2012年12月19日のコラムでは、グローバル・マーケティング戦略の基本コンセプトである「共通化戦略」と「カスタマイズ戦略」について紹介した。後日、コラムを読まれた生産財メーカーの弊社クライアントと議論していたところ、「消費財ではなく、生産財にフォーカスしたグローバル・マーケティングを知りたい」とのコメントを複数いただいた。そこで今回は、生産財のグローバル・マーケティング戦略について考えてみたい。

1.生産財におけるグローバル・マーケティングとは

 生産財におけるグローバル・マーケティングを一言で表すと、「国・地域や産業の境界を越えて、多様な顧客企業とパートナーシップを構築する活動」である。その一方で、「多様な顧客企業にできるだけ同じ製品を提供する、あるは異なる製品であってもできるだけ共通部分を増やし、付加価値の高いビジネスを狙う活動」である。生産財におけるグローバル・マーケティングのポイントをまとめると次のようになる。

 

 今回のコラムではこの7つのポイントのうち、①から③についてそれぞれ説明をしていきたい。

2.ポイント①: 国・地域×産業マトリックスによる市場セグメンテーションと優先度付け

 生産財には原材料や加工品・部材、部品、工作機械・設備、消耗品などが含まれる。生産財は基本的に業界バリューチェーンの川上に位置しており、川下の多様な用途・産業で活用される可能性がある。そこで、自社製品の既存の用途・産業にとらわれることなく、活用される可能性のある用途・産業をできるだけ多くリストアップし、その中から、今後自社にとって有望と思われる用途・産業に重点的にアプローチすることが望ましい。
 産業というものは一般的に国・エリアごとに発展する傾向がある。例えば自動車産業は、多くの雇用を創出するため様々な国において重要な産業と位置付けられており、各国政府は政策的に注力して発展させている。そこで、生産財のグローバル展開の検討では、ファーストステップとして国・地域×産業マトリックスによる市場セグメンテーションを行うとよい。
 セグメンテーションを行い、「国・エリアの魅力度」や「自社の対応力」を考慮して、優先的にアプローチすべき有望市場、そして有望顧客を見出していく。「国・エリアの魅力度」には市場規模・成長性、顧客ニーズの強さ、関税や規格、政策などにおける法や規制、インフレ率、1人あたりのGDP/可処分所得、競争の度合い、政治的安定性などがある。「自社の対応力」には、異なる国・エリアの顧客企業に対しての顧客製品・技術面の対応力や営業・マーケティング面の対応力などがある。
 生産財の特徴として、自社がグローバルに広く展開しなくても、顧客企業がグローバルに展開している企業の場合、顧客企業の製品に自社の生産財が採用されれば、顧客企業の製品に組み入れられて、ある種「自動的」に自社の生産財がグローバルに普及することが挙げられる。

3.ポイント②: 海外の有望市場における顧客企業とのパートナーシップ構築

 自社と同じように顧客企業も事業を行い、売上などの業績向上や生産性向上のための課題を持っている。これは当然、日本企業でも海外企業でも同じである。売り手の生産財メーカーとしては、顧客企業の事業課題を解決するための自社ならではのソリューションを提供することが重要である。そのソリューションの一環として自社製品を提供していく。顧客企業の課題解決への貢献なしに、大きいリターンは臨めない。
 ソリューションを提供するには顧客企業の事業を理解する必要がある。だが日本市場とは異なるビジネス環境にいる海外の顧客企業の事業を理解するには、国内の事業環境分析のフレームワークだけでは足りない。例えば、相手企業が消費財メーカーであれば、対象の国・エリアの事業環境を把握するために、政治・社会制度、産業構造、産業発展段階、地理・地域文化まで調査・分析する必要がある。その上で企業特性、消費者特性を理解する。これらを体系的に把握することで顧客企業の課題が生まれてくる背景がよく理解できるのである。
 さらに顧客である消費財メーカーがグローバル展開している場合、生産財を提供しているサプライヤー側である自社としては、顧客企業がターゲットにしているグローバル市場の消費者のことまで理解していなければならない。相手企業の事業環境や戦略の理解なくして、対等な目線での対話もなく、パートナーシップは望めない。
 もちろんこのような活動は、特定の部署の活動だけでは不可能である。本社と現地法人にある営業や開発、生産、物流、営業などの各種業務、さらには社外パートナーを含めて連携し、顧客に対してワンストップで行う必要がある。しかしながら、このような体制が構築できている日本の製造業企業は少ないだろう。電機業界などでは、海外売上比率を高めるために海外展開の加速をトップダウンで現場に号令していているが、各事業部や関係会社がバラバラで海外展開してしまっている傾向が見られる。現地法人を飛び越して、ターゲット国の顧客企業のキーパーソンにアプローチしてしまい、あとになって現地法人と本国事業部との間で社内コンフリクトが起こるなどの話はよく聞くことである。
 本社と連携した地域単位でのソリューション体制構築のための組織変革は急務である。ただし、組織変革というような大規模なプロジェクトは上手くいかないことが多い。前回の弊社コラム「第10回 大がかりな全社戦略プロジェクトはなぜ失敗するのか?」で紹介した「ブレークスループロジェクト」のように、顧客への成果を出すことにフォーカスした組織横断型プロジェクトをつくり、目に見える結果を出すことで推進力を得て、組織を変革していくアプローチが有効であろう。

4.ポイント③: 国・地域や産業の横断による共通化戦略

 国・地域×産業マトリックスで有望市場をターゲットするだけでなく、共通化戦略の観点からもう一歩進めた検討ができる。共通化には、2つの検討の方向がある。

 1つ目の検討の方向性は、ターゲットとした国・エリアに存在する異なる産業へのアプローチである(図2)。例えば、国・エリアAの自動車産業に優先的にアプローチしつつ、それと平行して、同じくAの家電産業にもアプローチするということである。
 それにより次のようなベネフィットが期待できる。まず同じ製品を他の産業に展開できれば生産規模が大きくなり、規模の経済によりコスト低減が期待できる。
 また、自動車産業の有力な顧客企業とパートナーシップを構築し、顧客企業向けに「カスタマイズ」開発した技術が普遍性の高いものであれば、他の産業に使えるかもしれない。より多くの産業に横展開できれば、「共通化」が行われることになる。
 そして異なる産業と取引することによって、季節や需要に関する変動の平準化のベネフィットとして挙げられる。製品の需要は一年を通じて一定というわけではない。また景気動向による事業活動への影響も業界によって異なる。異なる需要サイクルをもった産業を組み合わせることができれば、年間を通じて自社の製品を安定的に生産し、生産性を高い水準で維持することができる。
 2つ目の検討の方向性は、特定の産業にフォーカスし、他の国・エリアへ横展開を図ることである(図2)。図2でいえば、素材・化学産業を国・エリアBで展開していた製品を、エリアCにおける同じ産業にも展開するということである。生産財の場合、顧客企業の担当者に直接説明し、継続フォローするなど販売拠点が必要となることも多い。その場合、1つの販売拠点で複数の国・エリアをカバーできれば投資効率は上がる。また生産財と言っても、鉄鋼や木材のように体積に比べて単価の低い製品の場合は、物流コスト低減のために隣接する国・エリアに展開できたほうが望ましい。反対に半導体のような製品の体積に比べて単価の高い製品であれば、ある国・エリアから地理的に離れた他の国・エリアへの展開は容易となる。
 このように複数の産業や国に展開していくことで顧客の分散ができ、特定の顧客企業に依存しなくなるため、交渉力が高まることが期待される。また共通部分が増えると、リスクの高い研究開発段階における大規模な投資もコーポレートとして実施しやすくなる。

 国・エリア間の展開は、必ずしも先進国から新興国への一方通行での展開というわけではない。イノベーションは先進国でのみ起こるのではなく、新興国でも起きる。
 先進国では多くの機能を追加した過剰品質の製品がよく見られる。そのため価格も高い。先進国企業は、こうした過剰品質の製品開発の体制ができあがってしまい、いまさら変えられないことも多い。組織には慣性力があり、組織変革は容易ではないのが現実である。
 日本企業の今までのグローバル展開は、過剰品質の製品を低価格で売ろうとする取り組みが主ではなかっただろうか。そうではなく、現地のニーズや価格にあわせた製品をつくることも考えたい。それが返って先進国でも喜ばれることもある。
 新興国でのイノベーションを先進国に持ってくる、「リバース・イノベーション」のアプローチが大切である。医療機器や複写機・プリンターなどで徐々に見られるようになってきている。
 ターゲットとする新興国市場では、本国から離れていることもあり、日本国内のしがらみにとらわれずに、あるべき製品開発体制を構築しやすい。そこで実績を出しつつ、本国の製品開発に変革を促すシナリオもありえる。

 今回は、7つのポイントのうち前半の3つについて考えた。次回は後半の④から⑦について、それぞれ説明していきたい。

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