第9回 グローバルマネジメント・プラットフォームによる競争力向上

Share

新商品・新事業開発「グローバル・マーケティング」

ニューチャーネットワークス
取締役 シニアコンサルタント 福島 彰一郎 2012年9月12日

 前回コラムではグローバル・マーケティングにおける重要な戦略コンセプトである共通化戦略とカスタマイズ戦略について紹介した。マーケティングの商品、価格、広告・プロモーション、販売チャネルごとに、「共通化戦略」と「カスタマイズ戦略」の組み合わせを変えて、世界の各市場を効果的・効率的にアプローチする戦略である。この共通化戦略とカスタマイズ戦略という考え方は、マーケティング活動だけに限らない。他の業務プロセスのマネジメントにも適応できる考え方である。グローバルで共通化したマネジメント業務基盤を、「グローバルマネジメント・プラットフォーム」と呼ぶ。
 「グローバルマネジメント・プラットフォーム」とは、各国市場に点在する拠点が共有すべき業務システムと、それを支える情報・知識・ノウハウやITインフラなどの支援サービスを指す。
 「グローバルマネジメント・プラットフォーム」を共有することで、世界の各拠点は競合他社に比べてより低コストで、より高いレベルの業務を早期に達成できる。
もちろん、このプラットフォームだけですべての業務課題が解決するわけではない。世界の各市場特性の違いを考慮して、「グローバルマネジメント・プラットフォーム」に各拠点独自のシステム、支援サービスを加えることで、地域に適合した業務の構築が可能となり、業務全体としての競争優位性を構築できる。
 「グローバルマネジメント・プラットフォーム」は一般的に、間接業務である法務、知財、人事、総務、経理などで有効と考えられている。例えば、グローバル共通の人事制度は、優秀な人材を現地で採用し、評価・育成していく上で重要なプラットフォームといえる。このようなプラットフォームの考え方は、研究開発、商品企画、設計・開発、調達、生産、物流などの直接業務におけるマネジメントでも大変効果的と考えられる。
 例えば、製造業の重要業務である生産、研究開発、知的財産の3つの業務プロセスについて、「グローバル・マネジメントプラットフォーム」のあり方にについて考えてみたい。

「グローバルマネジメント・プラットフォーム」の例① ~生産の場合~

 グローバル企業の場合、生産拠点は本国に置かれるとは限らず、生産コストや各国の法人税優遇措置、ターゲット市場への近さなどを考慮して適切な場所に構築される。この生産拠点の構築においては、生産能力決定や工場立地・ネットワークデザイン、生産技術の選択、購買・サプライヤー管理、生産計画・統制、品質管理、原価システム、IE・改善、人事・労務管理、マネジメント体制などの多様な業務システムの検討が必要となる。
 これらの業務システムを各拠点でゼロから企画検討するのではなく、共通の思想で設計された「グローバルマネジメント・プラットフォーム」を活用する。そうすることによって、拠点構築のリードタイムが短縮され、同時に他の生産拠点との機能分担、連携もスムーズになり、同時に業務ノウハウの蓄積も可能となる。
 また昨年の東日本大震災やタイの洪水のような自然災害や各種カントリーリスクが発現した場合も、マネジメント・プラットフォームを共通化しておくことで、拠点間のシフトがしやすくなり、サプライチェーンへの影響を低減することができる。
 しかし生産業務マネジメントのすべてを共通とするということではない。サプライヤー管理であれば、現地の商習慣にあわせたカスタマイズが必要となる。また人事・労務管理なども現地の労働環境や労働価値観にあわせたカスタマイズが必要である。

「グローバル・マネジメントプラットフォーム」の例② ~研究開発の場合~

 研究開発活動は本国だけで行うとは限らず、海外の優れた大学や官民研究機関、有望な市場、ビジョナリーな顧客に近いエリアに拠点を構築することもある。
 拠点構築においては、技術ドメインの設定、立地選定、研究開発テーマの企画・評価、プロジェクト進捗管理、社外からの技術導入、委託研究や共同開発などの契約交渉・進捗管理、人事・労務管理、マネジメント体制などの業務システムの検討が必要となる。
 この場合も業務システムを共通化しておくと立ち上げのリードタイムが短くなる。そして研究開発拠点が世界各地にある場合、研究開発拠点同士との連携もスムーズになる。
 また研究開発活動は優秀な人材を世界から採用して行うことも成功要因である。そのためにどのようなバックグラウンドの研究者が採用されても、標準化された分かりやすい業務システムであることが望ましい。
 一方で、研究分野が異なる場合は研究開発テーマの企画・評価やプロジェクト進捗管理はカスタマイズが必要となる。また国が異なる場合は、技術導入や委託研究、共同開発などの契約交渉における法務面の違いがある。共通化したプラットフォームの上に、テーマや地域によって適宜カスタマイズした業務を加えるのがよい。

「グローバルマネジメント・プラットフォーム」の例③ ~知的財産の場合~

 知的財産戦略マネジメントは、権利化すべき技術領域の設定、知的財産の権利化、知的財産の活用(自社独占実施、ライセンス供与)、技術提携・技術導入、訴訟・係争対応、技術情報管理、人事・労務管理、マネジメント体制などの要素から成り立っている。
 知的財産部門は、研究開発拠点や事業部との連携のために各組織の近くに分散して部署配置される一方、コーポレート全体の知財活動をすべて把握している必要がある。全体の知財活動を把握しておくことは企業間の訴訟の際に重要となる。他社との交渉または訴訟において重要なことは、事業部レベルで行われるのではなく、コーポレートレベルで行われる。相手企業の知財部がコーポレートを代表してきたときに、自社の知財部が特定事業部のことしか把握していなかったら、自社の交渉材料の幅は小さくなり、交渉は不利になってしまう。
 知的財産部門としては、自社の研究開発や各事業部の動向をグローバルレベルで把握し、さらにグローバルに分散した各知財部署の横串の連携を促進する必要があり、そこではグローバル共通のプラットフォームが必要となる。

「グローバル・マネジメントプラットフォーム」のベネフィット

 今回は3つの業務について紹介してきたが、「グローバル・マネジメントプラットフォーム」を構築することによってどのようなベネフィットがあるだろうか。例えば下記のようなものがあると考えられる。
 
1.高い業務改善スピード
多くの社内メンバーが同じプラットフォームに沿って業務を行うことで、改善点を見つけやすくなり、品質・コスト・リードタイムの面で連続的な改善が行える。
 
2.拠点間コミュニケーションの促進
同じ業務プラットフォームで業務を行うことで、拠点間のコミュニケーションがスムーズになる。また人の異動や交流もしやすくなる。
 
3.ガバナンスの向上
グローバルに点在する複数の拠点の状況を把握しやすくなり、経営のガバナンスが効きやすくなる。
 
4.グローバル展開する取引先との連携の促進
社外の取引先との連携も行いやすくなり、その関係を強化できる。例えば、グローバルな顧客企業にとって、世界のどこでも同じ品質のサービスを提供できるサプライヤーは重要な戦略パートナーとなりうる。
 
5.他社への業務のアウトソーシング
プラットフォームのパフォーマンスレベルがあがれば、他社が業務を委託してくることにもなる。利用する他社の数が増えれば、規模の経済が働き、コスト競争力が向上する。
 
 グローバルマネジメント・プラットフォームは上記のようなベネフィットがあるが、プラットフォーム自体の構築は一朝一夕にできるわけではない。段階的に構築していくという視点も大切である。
 また、ある特定の拠点においてカスタマイズされた業務であっても、それが他の拠点に比べて優位性のあるベストプラクティスであれば、他拠点にも応用を試みるべきである。応用が可能となればカスタマイズした業務は普遍的になり、新たなプラットフォームへと進化する。進化したプラットフォームで業務が効率化すれば、さらに新たなカスタマイズを試みる余力がうまれ、そこでまた次のベストプラクティスが生まれる可能性があるのである。
 「共通化」と「カスタマイズ」のサイクルを継続させ、プラットフォームを進化させていくという展開がポイントとなる。

Share