第2回 人間力を基軸にしたグローバルビジネスリーダーの育成

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組織パフォーマンス向上「グローバル・ビジネスリーダー」

ジャイロ経営塾代表
ワイ・エイ・パートナーズ株式会社代表取締役
秋元 征紘
ニューチャーネットワークス
チーフコンサルタント 張 凌雲 2011年9月28日

■ グローバルビジネスリーダー不在による日本企業のグローバル競争力の低下

米ドル、ユーロに対する円高が長期化する中、日本企業は海外への生産拠点の移転、海外企業の買収などにより、組織のグローバル化がさらに急速に進んでいます。食品、日用品メーカーなどの内需型産業も国内市場中心の発想を転換し、国外市場を獲得できなければ将来の成長は望めないという危機感を持って海外事業を広げています。
事業のグローバル化には、人材もグローバル化に対応できなければなりません。そこで、「楽天やファーストリテイリングは、社内公用語を英語に」、「三菱商事や丸紅が20代全員に海外経験を義務付け」、「パナソニックは新卒採用の8割を外国人に」、「日産自動車は2016年までに幹部の過半数を外国人に」など、日本の大手企業は、人材のグローバル化を一段とすすめています。海外事業展開を進めている多くの企業のトップマネジメントが指摘するのは、ビジネスのグローバル化に人材育成が追いついていないことです。今やグローバル人材の育成は日本企業がグローバル市場で勝ち残るための共通の課題となっています。
しかしながら、グローバルな、多様性豊かな組織において真のリーダーシップを発揮し、成果を出せる人材は世界的に不足しています。企業がグローバル市場で成功するためには、その企業自身でグローバルビジネスリーダーを育成し、確保できることが必須となります。

 前回のコラムではグローバルビジネスリーダーに求められる能力のフレームワークである「WAC1C2」(Will to live with vision、Act to win 、Create aggressively、Communicate 360°)の考え方を紹介しました。今回のコラムでは、企業がリーダーをいかに育成していくかを説明していきます。

■ グローバルビジネスリーダー育成のステップと基本コンセプト

グローバルビジネスリーダーとは、「精度の高い実務能力を備え、多様性ある環境の中で自らが率先して、様々なバックグラウンドを持つ人材から成る組織のパフォーマンスを最大限に引き出し、成果を創出できる人材」であると、前回のコラムにて説明しました。
リーダーの育成を早めるためにも、企業は、リーダーに必要とされる潜在能力を持った人材に、必要とされるマネジメント能力を効率的に身につけられるようにしなければなりません。
リーダーの育成には、3つのステップがあります。まず初めに「選抜」です。グローバルな環境において組織を牽引できる潜在能力を持った人材を選びます。次に「教育」です。選抜した人材に対して、多様性のある環境において組織を率いるために必要とされる知識、ノウハウを伝授します。最後に「実習」です。それまでのやり方が通用しない、不確実性の高い環境においては、実際にそのような状況に身を置いてみなければ分からないことが多くあります。その機会を与えることが必要です。
3つのステップそれぞれにおいて、リーダー候補に習得することを求める能力は異なります。「選抜」においては、グローバルに活躍できる潜在能力として、「人間力」が重視されます。「教育」においては、伝授すべき知識として「マネジメントスキル」が重要になります。「実習」においては、実体験を通して獲得する能力として「リーダーシップスキル」が肝要です。
そこで、「人間力」「マネジメントスキル」「リーダーシップスキル」の3つをグローバルビジネスリーダー育成の基本コンセプトとします。これらを踏まえることで、効率的・効果的にリーダー育成ができると考えます。
具体的に、それぞれのコンセプトの要素を考えます。「人間力」とは、ビジネスパーソンがグローバル市場で仕事を行う上で必ず持っておかなければならない基礎能力です。その要素は以下の3つがあります。

  • 異なる環境、従来経験していない困難な環境の中でも諦めず、問題を解決し、目標を達成しようとする
  • 自身を積極的にアピールし、人に頼らず、自ら進んで実践する
  • 状況の変化に対して、躊躇することなく、迅速に対応できる

「マネジメントスキル」とは、異なる価値観、習慣をもった人々をまとめ、組織パフォーマンスを最大限に発揮しても目標を達成させるために求められる能力であり、具体的には、以下の3つがあります。

  • 相手の異なった考え・価値観を理解・受容しその本質を理解する
  • 自らの考えや計画を、相手の理解を確認しながら、論理的に説明できる
  • クリエイティブなプレゼンテーションで多くの相手・聴衆を納得させる

「リーダーシップスキル」とは、組織を新たな成長段階へ導く企画立案と実行、急激に変化する市場における適切な対応・意思決定ができる能力です。

  • 既存・自身の方法に固執せず、異なる環境を肯定的に理解し、柔軟に対応できる
  • 異なる環境に適応し、画期的・効果的な解決策を見出す
  • 異なった考え・価値観を持つ構成員の中で、リーダーシップを発揮し、これまでにない新たな価値を創造していける

■ グローバルビジネスリーダー育成の基本コンセプトとWAC1C2の関係

「人間力」「マネジメントスキル」「リーダーシップスキル」という3つの基本コンセプトに求められる要素と、前回のコラムにて紹介したWAC1C2を構成する20KC (Key Competencies)のマトリクスを作成した結果、以下の点が明らかになります。

 ① グローバルビジネスリーダー育成において、意思・精神力(W)は常に重要視される項目である。
 ② グローバルビジネスリーダー候補人材を育成する基礎となる「人間力」は、主に行動力(A)に関連した項目が重視される。
 ③ 多様性を持った組織を牽引あるいは管理するためのマネジメントスキルは、人とのコミュニケーション力(C2)が前提となる
 ④ グローバル市場で勝つためのリーダーシップスキルを獲得するためには、イノベーションを起こし、新規市場を開発し、事業創造をするといった力(C1)が必要となる

リーダーの育成ステップにおけるプログラムは、それぞれのステップで該当するコンピテンシーにフォーカスして検討する必要があります。

■ グローバルビジネスリーダーの育成ステップの方法

グローバルビジネスリーダーの育成は、グローバル視点での経営戦略と人材戦略が前提となります。人材戦略として、リーダー育成への具体的な目標と戦略を立てることが必要です。3つの基本コンセプトをもとにして、グローバル戦略とリンクした自社のリーダー像を描かなければなりません。
ここでは、育成の3つのステップそれぞれでどのようにコンピテンシーを評価・習得すべきかについて検討します。

―ステップ1:資質をベースに人材を選抜 
グローバルビジネスリーダー育成にあたって、企業が最初に行うことは、グローバル市場で勝ち残れる基礎的な「人間力」の優れた人材を把握し、選抜することです。資質をベースに人材を選抜するKCとして以下の7つがあります。

 W:優れた知性と感性(Intellectual Horsepower)
 W:旺盛な好奇心と学習意欲(Learning on the fly)
 A:行動的(Action Oriented) 
 A:旺盛な達成意欲(Drive for Results)
 A:迅速かつ適切な意思決定 (Timely & Sound Decision Making)
 A:優先順位付け(Priority Setting)
 C2:誠実さと信頼性(Integrity and Trust)

異なる環境、未開の市場に対する挑戦意欲、急激に変化する状況においても自己を見失わないマインドや異なる風習、言語を持った人たちとも一定の関係性を構築できる能力が求められます。

この段階での評価の視点は、与えられたタスクをどのような状況でも一定のパフォーマンスで遂行できることに重きが置かれます。これらの資質をもった人材を選抜する方法としては、以下があります。

① 人材開発委員会による職場からの発掘
将来のグローバルビジネスリーダーとなる人材を発掘、評価することをミッションとする組織を作り、優秀な人材をプールします。例えば、日産自動車は、世界に働く18万人の社員を対象に、優秀な人材を選別するために、「キャリアコーチ制」というシステムとNAC(ノミネーション・アドバイザリー・カウンシル)と呼ばれる人材開発委員会によって、将来リーダーになれそうな「ハイポテンシャルパーソン」を見出して、特別なキャリアプランを施し、将来の幹部候補生を育成しています。
人材発掘にあたっては、グループ全体、各地域で統一された採用基準、評価制度が必要となります。

② 研修を通じた育成を兼ねた選抜
若手社員に早い段階から海外経験を積ませ、リーダーになる資質を見極めていくことです。代表的な取り組みとしては、サムスンの「サムスングローバル専門家プログラム(SGP)」があります。このプログラムは、入社三年次から管理職前までを対象に選抜された人材を全世界に1年間派遣し、現地の習慣や文化を身につけ、将来のグローバル事業を推進できる人材を育成するものです。
近年、日本企業も同様の取り組みをおこなっています。アサヒグループホールディングスは、「グローバル・チャレンジャーズ・プログラム」として、2010年より社内選抜された社員を同社の海外拠点に半年から1年間派遣し、現地で生活して独自に市場調査を行い戦略立案する研修を実施しています。
これらの研修は、ビジネスの成果を出すことよりも、人材のグローバルマインドや異文化適応力の向上に焦点があてられます。

―ステップ2:マネジメントスキルの教育
ステップ2では、グローバルな環境の中での本人のパフォーマンスだけではなく、組織のメンバーとコミュニケーションをとり、組織パフォーマンスを最大限に引き出すための能力を高めます。以下の7つのKC関連したビジネススキル教育・研修を行い知識、スキルを向上させます。

 W:多様な文化・習慣への対応 (Managing Diversity)
 W:権限の委譲とリーダーシップ(Delegation & Leadership)
 A:顧客・現場重視(Customer Focus)
 C2:外国語(英語)コミュニケーション力(English Communication)
 C2:他人の動機付け(Motivating Others)
 C2:チームつくりとネットワーキング(Building Effective Team)
 C2:部下や相手の痛みへの配慮(Listening & Compassion)

リーダー候補の人材に対して、国内外での合宿研修で講義やケーススタディを通じて、経営判断に必要な知識やノウハウを習得させ、その後、短期間(2~3ヶ月間)で現地でのマネジメントスキルを発揮するための課題と環境を与え、現地人材を活用した課題解決力を評価します。
また、現地人材とのコミュニケーション力向上を図るためにも、合宿研修では、講義の一部、または全部を外国語で行います。
マネジメントスキルの教育、研修に参加している人材は、将来の経営幹部候補として期待されています。候補者は、自分が今後どのようなリーダーになりたいか、自身の目指すべきリーダー像を描く必要があります。人事部門は、リーダー候補人材が、目指すべきリーダー像を確立できるようにロールモデルとなる人材を国内外から広くリストアップし、彼/彼女らをメンターとするグローバルメンター制度を構築することが有効です。メンターは、リーダー候補人材の将来のキャリアプランやそのために求められる知識、スキル、マインドについてのアドバイス、リーダーとしての成長度合いを認め、日々ハードな環境で仕事・研修を行っている候補者のモチベーションを高めていきます。

―ステップ3:フィールド実習によるリーダーシップ習得
 現地の販売会社の社長や、海外事業所、工場のトップに配置し、異文化圏でも成果を出せるかどうかを評価します。国内では常に高い成果を創出できている人材が、グローバル環境でも必ずしも成果を出せるとは限りません。下記の6つKCの教育とフィールド学習を業態や地域が異なる複数の重要なポジションの経験を通じて実施することで、将来の経営幹部候補としてグローバル市場で成果を出せる人材であるかを評価します。

 W:ビジョン・目標のマネジメント(Managing Vision & Objectives)
 C1:戦略的手腕(Strategic Agility)
 C1:創造的ビジネス感覚(Creativity)
 C1:採用・適正配置(Hiring & Staffing)
 C1:革新マネジメント(Innovation Management)
 C1:不確実な事態への対応(Dealing with ambiguity)

リーダー候補者をフィールド実習させるにあたり、会社の経営トップとの対話を通じた基本理念(ビジョン、ミッション、バリュー)の共有が必要となります。グローバルビジネスリーダーは、自社の経営理念やDNAを現地スタッフに説明するだけでなく、自らが普段の行動や意思決定の中で体現していかなくてはなりません。
また、リーダー候補者の戦略立案力を向上させ、自社やグループ各社の経営戦略を理解するためにも、戦略策定過程を具体的に体験・学習させます。
 フィールド実習による成果を測定するためには、達成目標とそれに向けた行動計画の策定が必要となります。目標設定と行動計画策定にあたっては、上述のグローバルメンター制度を活用します。
 実習結果の評価は、公正・透明かつ納得性をもってなければなりません。実習の派遣先、業務内容によって仕事の難易度が異なります。そのためには、実習先での仕事のレベルを定義した上で評価を行います。仕事のレベル定義には、「業務の範囲」、「責任の大きさ」、「マネジメント対象の内容と困難度」、「地域のリスク」、「期待成果と会社業績のインパクト」などがあります。
フィールド実習は1年以上を有するものが多いため、その過程での昇格もさせていきます。優秀な人材はより高いポジションの仕事を与えることで、リーダー育成のスピードを早めることができます。

■ 日本企業が抱えるグローバルビジネスリーダー育成の課題

グローバルビジネスリーダー育成には、人材戦略のグローバル化と併せて実施しなければなりません。日本企業がグローバル人材開発を進める上では、1)自社の持つ人事体系のグローバル化あるいはその対応・適応2)人種・国籍・性別等の「多様性マネジメント」の方針の問題の解決がその成否の鍵となります。

1)自社の持つ人事体系のグローバル化あるいはその対応・適応では、各ポストの明確な人材要件と詳細な職務規定(Job Description)、そしてグローバルで統一されたジョブグレードと評価の仕組みが必要となります。また、国内外の人材に等しく受けるチャンスがある教育・研修プログラムを提供しなければなりません。グローバルに人材を育成、移動させるために、グローバルで統一された評価と昇給・昇格基準、どのエリアでも人材を異動・配置できる人事制度の構築が必須となります。

2)「多様性マネジメント」の方針の問題解決として、人種・国籍・性別を超えて活躍できる環境をつくり、現地人材からみて働きたいと想われる企業にする必要があります。現地人材が本社の経営幹部に登用される制度・仕組みに加えて、「グローバル・コンベンション」、「グローバル・オフサイト戦略会議」などの社内のグローバルなネットワーキングプログラムや人材交流など組織の垣根を越えさせる取り組みが必要です。また、現地の優秀な人材を獲得するための、現地大学と連携した人材獲得の為のネットワークを作っていかなければなりません。

現在、多くの日本企業が人材のグローバル化を進めるために、様々な取り組みを行っています。グローバルビジネスリーダーの育成は、あくまでもグローバルな経営戦略を実現する為の人材戦略の一つです。自社のビジネスのグローバル化がどの段階にあるかを踏まえ、現在と将来にどのようなリーダー人材が必要かをしっかりと検討した上で、人材開発のプログラムを作っていかなければなりません。

(WACCおよび20のKey Competenciesの著作権は、秋元氏に属します)

秋元 征紘(あきもとゆきひろ)

秋元 征紘(あきもとゆきひろ)

・所属・役職
ジャイロ経営塾 代表
ワイ・エイ・パートナーズ株式会社 代表取締役

・略歴
上智大学経済学部卒業、シドニー大学経済学修士課程修了。
70 年日本精工株式会社に入社。80年日本KFC株式会社に入社後、86年同社取締役、87年日本ペプシ・コーラ副社長、88年日本 KFC株式会社常務取締役。93年株式会社ナイキ・ジャパン代表取締役社長。95年ゲラン株式会社代表取締役社長、01年ゲランS.A.(パリ本社)執行 役員、 05年ゲラン株式会社会長を歴任。現在、ワイ・エイ・パートナーズ株式会社代表取締役。

・著書・訳書など

『一流の人たちがやっているシンプルな習慣』(フォレスト出版、2010年)

『こうして私は外資4社のトップになった』(東洋経済新報社、2009年)

『「ジャイロ経営」が社員のやる気に火をつける-パッションカンパニー-』(ファーストプレス、2008年)
秋元征紘ブログ http://akimoto.livedoor.biz/archives/51498215.html
ジャイロ経営塾HP http://www.gyrokeieijuku.com/

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